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現代ギリシアの北部に位置するマケドニア王国の国王ピリッポス2世とその王妃オリュンピアスとの間に生まれたアレクサンドロス3世、通称アレクサンドロス大王は、暗殺された父から国王の座を20歳の若さで引き継ぐと、ギリシアの反乱を瞬く間に制圧、さらには、アジアに侵攻し、当時圧倒的な国力を誇っていたペルシア軍を潰走させる。その時は後を追わずに、エジプトに向かい、そのままエジプトを征服。その後、アジアに戻り、ペルシアを滅ぼすと、それだけでは飽き足らずインドにまで遠征し、そこでも勝利を収める。さらに先に進もうとするアレクサンドロス大王であったが、兵士たちに反対され、止む無く引き返すことになる。しかし、マケドニアに辿り着くことなく、バビロンで急逝。紀元前323年6月10日、アレクサンドロス大王が33歳のときである。
アレクサンドロス大王の一次資料(従軍記のような同時代の資料)は全て散逸していますが、一次資料に基づいて作成されたと思われる伝記がいくつか残っています。代表的なものとしては、アリアノスの『アレクサンドロス大王東征記・インド誌』(岩波文庫)とクルティウス・ルフスの『アレクサンドロス大王伝』(京都大学学術出版会)、それに『プルタルコス英雄伝』に所収の「アレクサンドロス伝」(ちくま学芸文庫中巻)などがあります。
学術的に最も信頼度の高い資料としては『アレクサンドロス大王東征記』が挙げられますが、それとは対極的にあるのが今回紹介する伝カリステネスの『アレクサンドロス大王物語』です。ちなみに作者の伝カリステネスとは、作者はカリステネスであると昔から言い伝えられているけれども、実際には違うという意味で、では作者は誰かというと、それは分かっていません。
『アレクサンドロス大王物語』は、もはや伝記ではなく、伝記を基に自由な発想で書き換えたフィクション。学術的な信頼性などみじんもありません。父親からしてピリッポス2世ではなく、国を追われたエジプト王。それがオリュンピアスを騙して産ませた子がアレクサンドロスであるという設定です。
アレクサンドロスの遠征も、なぜか史実とは逆方向のシチリアに向い、イタリアを無血で征服。その後、アフリカに渡り、エジプトを制圧、そしてギリシアのエピソードを挟み、ペルシアと戦い、それに勝利するという順序。これだけでも十分滅茶苦茶なのですが、その後は、もう完全にファンタジー。
冥界のようなところへ行き、不老不死の水を取り損ねるという、どことなくギルガメッシュ叙事詩を彷彿とさせるエピソードがあったり、奇想天外な外見や風習を持つ亜人類的な生物と戦ったり、ガラス製の甕の中に入り深海に潜ったりと、やりたい放題です。
本書を楽しめるかどうかは、この荒唐無稽さをどう捉えるかによりますが、個人的には、非常に面白かったですね。
ちなみに本書のようにアレクサンドロス大王の伝記を自由な空想力で着色した物語は、ヨーロッパや西アジアへと広がっていき、アレクサンドロス・ロマンスというジャンルを築き上げます。その最も初期のものがこの『アレクサンドロス大王物語』というわけです。
また、『アレクサンドロス大王物語』自体も様々な言語に訳され、その過程で様々な改変がなされていますが、本書にはその別バージョンも豊富に訳されているところが嬉しいところ。
ただし、版元では品切れ、古書でもやや高い値がついているところが難点ですね。再版して欲しい本の一つです。
関連本
アレクサンドロス大王東征記〈上〉―付インド誌 (岩波文庫)/岩波書店
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アレクサンドロス大王東征記〈下〉―付・インド誌 (岩波文庫)/岩波書店
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アレクサンドロス大王伝 (西洋古典叢書)/京都大学学術出版会
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プルタルコス英雄伝〈中〉 (ちくま学芸文庫)/筑摩書房
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