ギリシア案内記(岩波文庫):パウサニアス | 夜の旅と朝の夢

夜の旅と朝の夢

~本を紹介するブログ~

ギリシア案内記〈上〉 (岩波文庫)/岩波書店

¥821
Amazon.co.jp

ギリシア案内記〈下〉 (岩波文庫)/岩波書店

¥972
Amazon.co.jp

今回紹介する本は、パウサニアスの『ギリシア案内記』です。上下巻に分かれています。

作者のパウサニアスについては、ローマ帝政期に当たる紀元2世紀のアジア属州で生まれたとの説が有力らしいのですが、実際のところはほとんど何もわかっていない状況のようです。

本書は、パウサニアスがローマ帝国下のギリシアを実際に巡ったときの旅行記で、ラテン語ではなく古代ギリシア語で執筆されています。

ギリシアの歴史は非常に古いので、パウサニアスが訪れた当時、既にギリシアは遺跡や歴史的建造物だらけでした。例えば、今も多くの観光客を呼び込むアテネのパルテノン神殿が竣工したのが紀元前438年といわれていますから、パウサニアスが実物を見た時には、既に竣工から600年くらいの年月が経過していることになります。今から600年前というと室町時代なので、現代に強引に当てはめると金閣寺や銀閣寺を見ているような感覚でしょうか。

パウサニアスはギリシア全土をかなり詳細に記載しており、原著では全10巻。岩波文庫版では、上巻に原著第1巻(アッティカ地方)、下巻に原著第2巻(コリント、アルゴリス地方)と原著第10巻(フォキス地方)が収録されています。フォキス地方は、有名な神託所デルフォイがあるところです。

本書の面白い点は、個人的には2つあると思います。

1点目は、当時の状況を当時の状況についての感触を得ることができること。例えば、ギリシア彫刻は白いというイメージがある人も多いと思いますが、当時は着色されていたことが知られています。本書には、アテナの瞳が青いとか、ディオニュソスの顔は赤いとか、そんな詳細なところまで描かれているので、古代の世界に対するイマージが湧きます。

2点目は、遺跡や聖所などに関するエピソードが豊富なこと。読む前は神話的なエピソードが中心のかと思っていましたが、実際には、主に歴史的なエピソードが書かれています。特にアレクサンドロス大王による征服以降のヘレニズム期についての記載が特徴です。ヘレニズム期のギリシアの記述は、他の文献などでもそれほど多くないと思いますので、それだけでも本書を読む価値はあります。

神話や伝説を鵜呑みにするのではなく、歴史的な視点で描こうとするパウサニアスの描いたギリシアは、考古学的にもかなり正確であることが知られているそうなので、古代に思いを馳せたいときなどに読んでみてはどうでしょうか。

ちなみに本書は抄訳ですが、全訳も『ギリシア記』というタイトルで出版されています。重くて高価な本ですが、気合を入れて全訳で読むのもいいと思います。ちなみに私は、持っているのですが、まだ読んでいません。老後の楽しみにしたいと思っています(笑)
ギリシア記/竜渓書舎

¥23,760
Amazon.co.jp