カティリーナの陰謀(大阪大学出版会):ガイウス=サッルスティウス=クリスプス | 夜の旅と朝の夢

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カティリーナの陰謀/大阪大学出版会

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今回はサッルスティウスの『カティリーナの陰謀』を紹介します。本書の序文や帯によれば、ラテン語で聖書の次に読まれた作品らしいのですが、あまりに無名で、にわかには信じがたい。というか、未だに信じてはいないのですが、実際のところはどうなのでしょうか?

作者のサッルスティウスは紀元前1世紀のローマ人。財務官や護民官などの役職を歴任した政治家でしたが、カエサルの暗殺後に引退。その後著述家となり、本書『カティリーナの陰謀』や、『歴史』、『ユグルタ戦記』を執筆したとされています。これらの作品のうち『歴史』はほとんど散逸、『ユグルタ戦記』は残存しているようですが、邦訳は見つかりませんでした。

本書は、カティリーナの陰謀の一部始終を描いた歴史書の翻訳本です。しかし、作品の鑑賞を目的としているというより、学術的な読解を意図した作りになっています。訳文はかなりの直訳調で、どの単語をどのように訳したかが分かるように、ラテン語を音写したカタカナによる振り仮名を頻繁に記載するなど、ラテン語の原文を読む人の参考になるように意識されています。さらに、非常に詳細な序文や解説、註解を付しており、本書の歴史的な価値なども分かるようにできています。まあ、その分、煩わしいこともありますけれども・・・

カティリーナの陰謀については、以前『キケロ弁論集』を紹介した際に少し触れましたが、要するにカティリーナが主導したクーデター未遂事件のことです。

『キケロ弁論集』を読むと、キケロがいかにカティリーナの陰謀を早い段階で見抜き、クーデターの被害を最小限に食い止めたが強調されているのですが、本書ではキケロはあまり活躍しません。その理由は、『キケロ弁論集』でキケロが自画自賛し過ぎていることや、本書の作者のサッルスティウスは反キケロ陣営に属していたことなどが挙げられるでしょう。真実というものを把握することはいつでも困難です。

本書では、先ず、カティリーナの陰謀について語る意義や、カティリーナの陰謀までのローマの歴史の概観、カティリーナの性格などが語られます。

独裁官スッラの配下のときに享楽と贅沢を覚え、それが抜け切れずに多額の借金を背負ったカティリーナは、借金の帳消しを公約に掲げて執政官に立候補するものの、選挙でキケロに敗れてしまう。後がなくなったカティリーナは同じような境遇の仲間を引き込み、クーデターの準備を図ります。

クーデターの準備中にキケロの活躍などによって陰謀は暴露され、仲間の一部は捕まってしまいますが、カティリーナ自身はローマの外へ逃亡。解放奴隷などを兵に加え2個軍隊(1万2千人ほど)を形成し、ローマとの決戦に控えます。

陰謀の概略を知っていると、陰謀が暴露されるまでの序盤~中盤部分は、反キケロ視点ということを意識するとそれなりに興味深いところもありますが、正直に言っていささか退屈。しかし、終盤になると、捕えたカティリーナ一味の処遇をめぐるカエサルや小カトーの演説、敗北が濃厚となった後にカティリーナが味方を鼓舞するために行った演説、そして簡潔ながらも激しく心痛む戦いの描写などが立て続けに描かれ、面白くなってきます。