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今回紹介する本は『レウキッペとクレイトポン』。前回と同じく古代ギリシア小説です。作者のアキレウスについては、何も分かっていないようですが、本書には、プラトンの『パイドロス』や『饗宴』からの引用や、ホメロスなどの引用もあり、相当のインテリでしょう。
さて前回紹介した『カイレアスとカッリロエ』は古代ギリシア小説の中でも最も古いということもあってか、人物造形や物語に荒さがやや目立ちましたが、今回の『レウキッペとクレイトポン』は打って変わってかなり完成度が高いものになっています。
例えば、主人公のカイレアスが見た絵画を詳細に描写する場面があるのですが、その絵画の中の場面がカイレアスのその後の運命を予兆しているという構造になっていたりします。このようなある出来事が後の出来事を予兆するという手法は、現代でもよく知られたものですが、それが2世紀に既に巧みに使われていることに驚きます。
物語としては、レウキッペとクレイトポンによる親からの愛の逃避行(駆け落ち)を切っ掛けに、レウキッペとクレイトポン、そしてその友人や召使いなどに様々な苦難が襲いかかるというもので、古代ギリシア小説のパターンを踏襲してはいます。
とはいえ、『カイレアスとカッリロエ』のような離れ離れになった二人が最後で一緒になるというような単純なものではなく、二転三転する複雑な筋になっており、さらには様々な伏線やドラマチックな仕掛けが随所に挿入されているという、飽きさせない構成になっています。
しかし、本書の最も面白いところは、これがエロースの文学だということです。エロースの文学というのは、私が勝ってに命名しているだけですが、ポルノグラフィということではありません。エロースとは、本来、淡い恋心から性愛、そして受苦としての愛までを射程に入れた崇高な愛の神であって、性的興奮を与えるだけの存在ではありません。エロースの文学とは、そんなエロースを語る文学、つまり愛の本質を捉えようとする文学のことです。
本書は、同性愛(少年愛)と異性愛の対比、愛と憎しみの関係性、愛による改心、愛と美の人への流入などを随所に描き、物語を追いながら愛の本質を探っているところに稀有な特徴があります。
このようなエロース文学は、キリスト教による性の抑圧がヨーロッパを席巻することによって、長い間、ほとんど姿を消してしまいますので、本書は非常に貴重なものだと思います。