●胡蝶の夢(1―4) @司馬遼太郎 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

蘭学といえばシーボルトの鳴滝塾。
緒方洪庵の適塾。が思い浮かぶけど・・・
忘れちゃいけない、ポンペ&松本良順!
この二人によって、日本医学は一変する。


本当はドイツ人だったシーボルトが
帰国してから30年後の、安政4年(1857)


勝海舟が主宰する長崎海軍伝習所に来た
28才の海軍軍医ポンペ。   そして、
26才の幕府御医師、松本良順。


この若いコンビが幕府の目を盗みつつ・・?
興した学問所と病院は、徳川260年の
身分制度を崩す存在であり、幕府制度の
根幹を揺るがす、まさに志士活動のよう!







ペリー来航まで、蘭学とはまだまだ、
“酔狂な者”のやることだったそうだ。
シーボルト世代の高野長英が、当時如何に
突出した存在だったか・・想像できるなぁ。



特に諸藩に比べて幕府の遅れ具合は酷い。
将軍の御医師は漢方で無ければならず、
長崎で学ぶ幕臣は一人もいなかったんだ。


だから良順の長崎行きには、漢方医のドン
多紀楽真院が、将軍の命を持ち出してまで
妨害した。ほんとーに、意地悪なんだよ~


松本良順。司馬さんいわく、「海賊面」   (^^;





そして何より、言葉の通じない東洋人に
対する、ポンペの情熱がスゴかった!


物理化学、解剖、組織、生理、病理、調剤
内科・外科・眼科・法医・産科まで、全ての
医学大学課程を一人で全部、講義する。
こんな人世界にいない!と司馬さん絶賛。

ヨハネス・ポンペ・ファン・メーデルフォールト
「医者はよるべなき病者の友」  滞日は5年。





適塾の緒方洪庵は、この開講を聞くと
「これで手探りの蘭方医学の時代は終わる」
と、自らの嫡子も、塾頭の長与専斎も
ポンペの学校に入れた。流石だなぁ。


といっても、、ポンペの言葉を理解できる
のは良順だけ。。。皆呆然と聞いていて、
後からノートをとり、質問する。それでも
ポンペの熱意に共鳴し、物狂いのように
勉強する異様な集団だった、という。


長崎医学伝習所。前列左が松本良順。





文久元年(1862)、日本初西洋式の病院も
建てた。身分差なしの診療、貧民は無料。
これ即ち、身分制によって成り立つ
江戸体制の強烈な否定であり、
将軍の御脈をとる奥医師が、たすき掛けで
貧民の治療をする姿は、奇異ですらある。


「世の中は変わる!」皆、そう思ったんだ。



小島養生所→精得館は、現長崎医学大学。





長崎を離れた後は、慶喜の主治医をしたり
将軍家茂に好かれて病床に近侍、良順が
いないと、眠らないほど頼りにされる。


新撰組とのエピソードも微笑ましいよ。


坂本龍馬が勝海舟を斬りに行って
弟子になった、、てのは有名だけど、
近藤勇も松本良順を斬りに行き、、なんと
惚れ込んで、義兄弟になっちゃった(*^^*)



司馬さんいわく、良順は、多少
「おっちょこちょい」な、愛すべき「大愚者」。
侠気にあふれ、勝海舟よりちょこっと
単細胞なので、その点、新撰組とは波長が
合ったと思われる。  ヽ(^。^)ノ


以後、新撰組の相談役となり、宿舎の
衛生管理から傷の手当て、資金の手助け・・
土方歳三とは会津まで行動を共にしたし、
明治後は永倉新八の世話もしている。

北区滝野川の寿徳寺に良順と永倉新八が
近藤勇らの供養塔をつくった。





幕府瓦解時には、遊郭の梅毒検査をやったり
将軍慶喜に直接訴えて、「えた」の
身分制度を撤回させた。これスゴい事!!
良順先生は徹頭徹尾、庶民の味方なのだー


この、型破りの爽やかさ&潔さは、
実父・佐藤泰然から受け継いだもの。
家族、養子、友人、弟子を、境界線なく
まぜこぜに愛し、実子は養子に出し、弟子を
養子に取り、財産も他人に譲っちゃうお方。



佐倉順天堂を開いた佐藤泰然。良順の実父




佐藤尚中(養子で継承者)、林董(三男)、
林洞海(婿)、関寛斎(順天堂一の秀才)、
山内六三郎(甥)etc....ナイスガイばかりの
「佐倉順天堂ファミリー」はとっても素敵♡
箱根駅伝は来年から順大を応援しよっかな。


順天堂を継いだ養子の佐藤尚中(山口舜海)





もう一人、良順が愛し、司馬さんも
良順以上の主役として描いているのが、
佐渡の伊之助こと、司馬凌海。


超人的な記憶力で、蘭、独、英、中、
ラテン語までなぜかマスターし、通訳として
良順を支えるけれど、社会的不適合者で
ポンペに破門される、、という、
ほぼ南方熊楠チックな異能、いや異脳の持主。


こういう人って、やっぱいるんだなぁ。。
もしかすると、実は空海もこの手の人種
だったんじゃあないか、、と私は
密かにニラんでいる。ふっふっふ。