人材開発分野で、最も長く、かつ、多くの人が議論してきたテーマの一つが“ リーダーシップ ”ではないでしょうか。語源から辿ると、リーダーシップとは、「先導者、指導者」を指すLEADERという言葉に「~であること/形や形式」という意味のSHIPという言葉が結合されて出来ています。この言葉に見て取れるように当初は、何かしらの立場にあるリーダーに求められるあり方や目指すべき姿をあらわす言葉でした。
そして、今日、リーダーシップという言葉はありとあらゆる場面で用いられます。
組織のマネージャーの育成などの元々の意味に通じる場面は勿論、若手の育成、はたまた全社員の主体性発揮のために、など、その言葉が語られる場面は多種多様です。あまりに語られる場面が多すぎるので、ミーティングの場でリーダーシップという言葉が出てきたら、それをどういう意味で使ってるのかを確認するようにしている、などという人も少なくはないのではないでしょうか。
さて。僕自身、いろいろなクライアントとリーダーシップについて仕事の中で議論をすることが多いわけですが、非常に面白い、ある傾向があります。それは、リーダーシップという言葉は上述の通り、ありとあらゆるところで用いられ、議論をされているわけですが、その議論は「リーダーシップとは何か?」あるいは「リーダーとしてどうあるべきか?」という議論が多い傾向にあるということです。
リーダーシップとは何か、は語られるけれど、リーダーシップ"開発"はあまり論じられない
例えば、「リーダーシップとは」などのキーワードでGoogle検索にかけると、あまねく様々なリーダーシップ論がヒットします。リーダーシップとマネジメントの違いを説くもの、あるいは、この時代に求められるリーダーシップとは何かを説くもの、様々なタイプのリーダーシップの類型を説明するもの、自分にあったリーダーシップ診断を受けられるもの、偉人が定義したリーダーシップの定義を説明するものなど、実に様々です。
それぞれの解説には、それぞれに納得させられるところもあり、読んでいて面白いのですが、それ以上に面白いのは、「どうすればリーダーシップは開発されるのか?」という議論は「リーダーシップとは何か?リーダーとはどうあるべきか?」という議論に比べて、極めて少ないということです。リーダーの定義やあり方を議論することが、いかに多くの人を熱中させるものであるかを窺い知ることができます。
リーダーシップ開発に関する議論を見ていても、その多くは特定の状況・立場で求められる思考力や判断力、あるいはコミュニケーション能力を高めるためのスキル・トレーニングに終始するものです。それそのものにも大いに価値はあります。リーダーとしてパフォーマンスを上げるために、論理的思考や問題解決思考やコーチングなどのコミュニケーションスキルを身につけることは、おそらく時代が変われど普遍でしょう。
しかしながら、リーダーシップとはリーダーに求められるスキルを身につけることだけで高められるのかというと、幾分不足しているところがあるのではないかとも、僕は思います。特に、「リーダーとしての信念・情熱・(ぶれない)軸を明確にするにはどうすればよいのか?」個別のスキルアップではない、長期的な視座にたちリーダーとしてのあり方そのものを醸成するようなリーダーシップ"開発"についての議論が、もっと為されるべきではないかと思います。
なぜ、リーダーシップ論において、信念・情熱・軸の開発について議論が為されるべきなのか?
リーダー自身の信念・情熱・軸を開発していくこと」について、議論がもっと「為されるべき」とやや強めの表現を用いる理由はあげようと思えばキリがないのですが、最も大きな理由は、リーダーとしての信念・情熱・軸がリーダーシップの根幹であるからです。イギリスの著名な思想家であるトーマス・カーライルはこう述べます。
人の上に立つ者は、常に孤独である。誰にも頼れない。自分を守ってくれるのは自分だけである。だから、まず何よりも自分自身をよく知り、強い自分を創っていかなければならない。強靭な精神力を鍛えあげるのは、目標に向って何が何でもやり遂げたい、やらなければならないという熱い欲求である。自分の行動を正しいと信じ、とことんまで諦めず、一歩一歩前進していこうとする情熱である。心のうちに秘めた不退転の決意が人間を強くする。苦しさや困難に屈しようとしない精神力、不退転の決意が信念である。ひとたび確乎たる信念を持った者は、一見不可能と思えるような難しい仕事をやってのける。信念をもって行動している人々は、美しく見える。人の気持ちを惹きつけて離さない。
また、リーダーを取り巻く環境を鑑みると、一層、リーダー自身の信念・情熱・軸を確立する必要性が高まっていると考えることもできるでしょう。
その裏付けとなるトピックとしては、例えば「不確実性の高まり」「高度なストレス」「高度情報化と機械化社会」「社会的な意識の高まり」などがあげられます。
トピック1 不確実性の高まり
企業を取り巻く環境は日に日に不確実性が高まっています。このような環境下では、企業活動において「こうすればよい」という明快な正解は日に日に見出しにくくなっています。一方、不確実性が高まる環境下において、しなやかに成長し続ける企業は、挑戦の絶対量を上げていく必要があります。何が正解かわからない時代であるからこそ、膨大な試行錯誤を行うことでしか、成長につながるイノベーションの種(商品・サービス・取り組みなど)を生み出すことはできません。
しかしながら挑戦とは、常に失敗するリスクを伴うものであり、好まれない傾向にあります。だからこそ、一定の方向性において、リスクを許容するような環境作りをすることがリーダーには求められます。リスクを許容するような環境を作るために、まずリーダーがなすべきことは、>組織の羅針盤となるビジョンを示すことです。そして、そのビジョンは、リーダー自身の信念がベースとなるものでなければ、周囲を挑戦へと駆り立てる、信頼に足るものとは思われないでしょう。
しかしながら挑戦とは、常に失敗するリスクを伴うものであり、好まれない傾向にあります。だからこそ、一定の方向性において、リスクを許容するような環境作りをすることがリーダーには求められます。リスクを許容するような環境を作るために、まずリーダーがなすべきことは、>組織の羅針盤となるビジョンを示すことです。そして、そのビジョンは、リーダー自身の信念がベースとなるものでなければ、周囲を挑戦へと駆り立てる、信頼に足るものとは思われないでしょう。
トピック2 高度なストレス
ビジョンの重要性が高まる一方で、不確実性が高まる環境下においてリーダーはこれまでにないストレスを抱えることになります。そして、より複雑な問題へと向き合わなければならず、その過程では時に自らのこれまでの考え方や価値観を見直さねばならないような困難に見舞われることも多いにあるでしょう。そのような中で、リーダー自らが自身の価値観の根幹(最も大切にしていること)を明確にしていなければ、時にブレ続け周囲への求心力を失い、時に自らを過度に批判し疲弊してしまいかねません。トピック3 高度情報化と機械化社会におけるリーダーの役割
高度な情報化が進む中で、今後、様々な業務の機械化・システム化が進みます。単純作業や計算作業、分析業務などは、どんどん機械とシステムに置き換えられていくでしょう。そんな中で、機械やシステムには担えない機能がいくつかあります。その内の一つが、意思決定する機能です。意思決定をするとは、責任をとるということであり、機械・システムが組織の中で責任をとることはできません。つまり、意思決定は、必然的に今後もリーダーの役割となります。その際に、ぶれのない意思決定をするためにも、信念・情熱・軸を明確にしておく必要があります。
トピック4 社会的な意識の高まり
地球の持続可能性についての問題はどんどん深刻になっていくとともに、市民運動は日に日に活発になっていっています。この変化は地球規模で展開されており、数多くのグローバル・リーダー・カンパニーがこれら地球規模の課題の解決に対して、どのように向き合うのかについて説明をする必要に駆られてています。この流れが一層強化される中で、今後リーダーは、単に利益を上げることだけではなく、自分たちの事業を通して社会にどのような価値を提供したいと考えているのかについて、自らの考えや信念を積極的に示すことが必要になるでしょう。また、これからビジネス社会を担うことになるY世代の人材は、権威や権力を持つ人ではなく尊敬に値し積極的に学ぶことができる人をリーダーとして支持する、とも言われています。現に、今、いくつかの大企業において、上位層の意向を汲んで動くことしかできないマネージャーに対して「ふがいない」と感じている若手社員が増えているという調査結果が問題になっています。
この他にも様々な観点から、リーダーシップを開発する上で、リーダーの信念・情熱・軸=つまりリーダーシップの根幹そのものを開発することの重要性を説明できます。より重要な問いは、「どうすればそれらを開発することができるのか?」という問いでしょう。
内省することでリーダーは、リーダーシップを開発し、真のリーダーになる
リーダーシップ論の大家 故ウォレン・ベニスは「難しい判断を求められた時に、最も適正な判断を下す可能性が高いリーダーとは、自分自身をよく理解し、その自己認識とブレがない人材である」と指摘しています。また、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンも「自らの価値観に基づいた行動と内省を促すこと」や「厳しい試練を与え、内省と対話を促すこと」が21世紀のリーダー育成において重要であると述べています。
また、国内で内省とリーダーシップの関係にいち早く着目し様々な研究を進めておられる八木陽一郎教授香川大学大学院地域マネジメント研究科教授/慶応ビジネススクール特任教授など)によれば、下記のように指摘されています。
多くの場合、人は自らの信念や軸などない中で、「リーダー」になります。ある時は、プロジェクトを任され、またある時は、組織を率いる立場を任命され、経験も自信も十分でないうちからリーダーになることを求められます。はじめからリーダーシップが十分に開発され、リーダーとなる人はほとんどいません。
そんな中で、リーダーは自らのリーダーシップを開発し、真のリーダーを目指す必要があります。その際に、重要なヒントが「内省」にあるのかもしれません。
なお、「あなたが最も生きる上で大切にしている信念や考え方とはどのようなものですか?」と問われてもすぐに答えられる人は、ほとんどいません。なぜならば、知らず知らずのうちに身につけてしまっている「こうしなければならない」「これはこういうものだ」という思い込み=メンタルモデルがあるために、自分の信念を抑えつけ、意識下に沈み込ませてしまっているからです。
だからこそ、自分にとっての信念とは何か?を問い、他者と対話をする中で、自分の信念を発見するとともに自らのメンタルモデルと向き合い、解きほぐしていきます。
勿論、1~2日間対話をしただけで、自らの信念を発見し、メンタルモデルを変容することができる人もいれば、そうはならない人もいます。人によってそのペースは様々であり、早ければ良い・遅ければ悪いというものでもありません。だからこそ、まずは自らの信念とは何か?という問いを立て、目標を設定し、実践し、その体験を振り返り内省を促す場を意図的かつ継続的に設けていくことが、リーダーシップを開発していくことになる、と僕たちは思っています。
とりわけ、自らの信念を明らかにする経験をデザインする上で効果的なのは「越境体験」と「社会的な課題解決体験」との組み合わせです。越境体験とは、これまでの組織や国境を越えた経験のことであり、「社会的な課題」とはビジネス上の課題ではなく生物多様性、天候変動、格差問題などの社会的な課題のことをさしています。
越境することで、自分たちが常識だと感じていた価値観が、実は当たり前のものではなかったことに気づきます。このような体験を積むことが、内省を通して自分たちのメンタルモデルを解きほぐす大きな糧になると僕らは考えています。
また、社会的な課題に当事者感を持って向き合うことは、多くの人に対して「なぜ自分は働いているのだろうか」「自分にとって働くとは何なのか」という問いを突きつけます。この強烈な問いと向き合うことで、自らの信念を明らかにするヒントを得ることができると僕らは考えています。
また、国内で内省とリーダーシップの関係にいち早く着目し様々な研究を進めておられる八木陽一郎教授香川大学大学院地域マネジメント研究科教授/慶応ビジネススクール特任教授など)によれば、下記のように指摘されています。
「自分自身を深く見つめ、変えることができる人は、そうでない人に比べて有効なリーダーシップを発揮できる」
多くの場合、人は自らの信念や軸などない中で、「リーダー」になります。ある時は、プロジェクトを任され、またある時は、組織を率いる立場を任命され、経験も自信も十分でないうちからリーダーになることを求められます。はじめからリーダーシップが十分に開発され、リーダーとなる人はほとんどいません。
そんな中で、リーダーは自らのリーダーシップを開発し、真のリーダーを目指す必要があります。その際に、重要なヒントが「内省」にあるのかもしれません。
リーダーシップ開発モデルと対話と内省・経験のデザイン
いかに、内省をリーダーシップ開発につなげていけばいいのでしょうか。その一例として、僕らが様々なクライアントとともに、リーダーシップ開発に取り組んでいる中で、重視している考え方を紹介します。これは、多くの人に共通するリーダーシップ開発プロセスをモデル化したものです。
人は、経験を通してこそ多くのことを学びます。そこで、僕らは経験に対して、内省をすることから自らの信念を探求していただくプロセスを支援しています。信念を検討し、目標をたて、実践し、また内省をするーこのサイクルを意識をしながら、いつしか、自らも気づいていなかったような信念を確立し、創造的なビジョンを生み出し、インパクトを生む、これがこのリーダーシップ開発モデルの概要です。その中でも鍵となる二つのデザイン「対話と内省のデザイン」「経験のデザイン」についてもう少し詳細に紹介します。
対話と内省による場をデザインする
リーダーシップ開発に向けて取り組む際、多くの場合、僕たちは、対話を軸としたキックオフのワークショップを1~2日間かけて開催をします。その中で行うことは、これまでの体験を振り返り、お互いに対話をしながら相互に気づきを与えあいつつ、自らの信念や情熱、価値観とはどのようなものかを探求していただきます。なお、「あなたが最も生きる上で大切にしている信念や考え方とはどのようなものですか?」と問われてもすぐに答えられる人は、ほとんどいません。なぜならば、知らず知らずのうちに身につけてしまっている「こうしなければならない」「これはこういうものだ」という思い込み=メンタルモデルがあるために、自分の信念を抑えつけ、意識下に沈み込ませてしまっているからです。
だからこそ、自分にとっての信念とは何か?を問い、他者と対話をする中で、自分の信念を発見するとともに自らのメンタルモデルと向き合い、解きほぐしていきます。
勿論、1~2日間対話をしただけで、自らの信念を発見し、メンタルモデルを変容することができる人もいれば、そうはならない人もいます。人によってそのペースは様々であり、早ければ良い・遅ければ悪いというものでもありません。だからこそ、まずは自らの信念とは何か?という問いを立て、目標を設定し、実践し、その体験を振り返り内省を促す場を意図的かつ継続的に設けていくことが、リーダーシップを開発していくことになる、と僕たちは思っています。
経験をデザインする
また、内省の場と並行して、経験そのものをデザインすることもまた、リーダーシップを開発する上で重要です。なぜならば、内省において、より多くのことを学べるかどうかは、どれだけのことを経験したかに比例するからです。とりわけ、自らの信念を明らかにする経験をデザインする上で効果的なのは「越境体験」と「社会的な課題解決体験」との組み合わせです。越境体験とは、これまでの組織や国境を越えた経験のことであり、「社会的な課題」とはビジネス上の課題ではなく生物多様性、天候変動、格差問題などの社会的な課題のことをさしています。
越境することで、自分たちが常識だと感じていた価値観が、実は当たり前のものではなかったことに気づきます。このような体験を積むことが、内省を通して自分たちのメンタルモデルを解きほぐす大きな糧になると僕らは考えています。
また、社会的な課題に当事者感を持って向き合うことは、多くの人に対して「なぜ自分は働いているのだろうか」「自分にとって働くとは何なのか」という問いを突きつけます。この強烈な問いと向き合うことで、自らの信念を明らかにするヒントを得ることができると僕らは考えています。
最後に
上述したようなリーダーシップ開発モデルを意識しながら、日々お客様と対話をしながら、全国津々浦々(時には国境を越えて)リーダーシップ開発プログラムを企画・設計していますが、自らの信念を発見し、自身をおさえつけていたメンタルモデルから解放され、極めて創造的なビジョンを生成するリーダーが生まれる瞬間に何回か運良く立ち会うことができました。
あるワークショップでは、リーダーとして語る人に、同僚は涙を流してこう言いました。「彼のような人が一緒に働く仲間だと思うと、とても誇らしい」と。それほどまでに、創造的なビジョンを語るリーダーの姿は、とても周囲にパワーを与えます。
そして、僕もそのようなリーダーたちにいただいたパワーでもって活動をしているのだと思います。僕がこのテーマに対して、情熱を注ぎ、活動をしているのも、まさにこのような瞬間に立ち会えたこと、様々なリーダーの創造的なビジョンに大いにパワーをもらったからこそ、なのだと思います。
最後までお読みくださってありがとうございました。
あるワークショップでは、リーダーとして語る人に、同僚は涙を流してこう言いました。「彼のような人が一緒に働く仲間だと思うと、とても誇らしい」と。それほどまでに、創造的なビジョンを語るリーダーの姿は、とても周囲にパワーを与えます。
そして、僕もそのようなリーダーたちにいただいたパワーでもって活動をしているのだと思います。僕がこのテーマに対して、情熱を注ぎ、活動をしているのも、まさにこのような瞬間に立ち会えたこと、様々なリーダーの創造的なビジョンに大いにパワーをもらったからこそ、なのだと思います。
最後までお読みくださってありがとうございました。