「自分ごとの人材モデル」を構成できているか? | Work , Journey & Beautiful

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人材育成分野において、育成のフレームワークとしてスキルマップやコンピテンシー・モデルが作られるケースが多い。これは求められる人材像を満たす要件を、能力(スキル)、コンピテンシー(行動特性)、知識などで定義付けを行うものだ。

今流行りのグローバル・リーダー育成のフレームワークを例にあげると、このように考えたりする。


これは下記のような考え方を意味している。

・まず、グローバル・リーダーに求められる要素を定義するために、スキル/マインド(スタンス)/専門性/現地化の4カテゴリで考える、という枠組みを設ける。
・その上で、この枠組みに対して、海外赴任者組、経営リーダー組のそれぞれにエントリークラスとハイ・パフォーマークラスを設ける。
・海外赴任者のエントリークラスに求められるスキル、マインド、専門性、現地化とは何か?といった具体的な内容を考え、マップ化する。

このように枠組みを持ちながら考える。基本的に枠組みはベーシックなもので、その枠の中にはまる具体的な要素を個別クライアント向けに考えることになる。こうするとスピーディに「そのクライアントならではのグローバル・リーダー」を育成するために必要なことが網羅的かつ被りなく洗い出すことができる。こうして出来上がった“人材モデル”をもとに、人材育成の戦略を立てていく。

余談だが、人事分野に限らず、コンサルと名のつく人はとかくフレームワークを作りたがる。このフレームワークを作ろうとするモチベーションの源泉は、主に二つある。一つは個別具体的な現象から普遍的な法則を導き出したいという知的好奇心。二つ目は体系化されたフレームワークがあればクライアントと話がしやすいという功利的な理由。私もクライアントからヒアリングをし、人材育成や組織活性の戦略を考える際には、既存のフレームワークを用いたり、新規のフレームワークを考案したりする。企画を立てる時に、答えをいきなり考えるのではなく、まずどのような視点や切り口で考えるべきか?を考える癖がついている。(例えば理念を浸透する3ステップやグローバル・リーダーに求められる3つの要件など)

世の中にはこのようにして構築された様々な人材モデルが存在する。例えばリーダーシップ開発という一分野に絞っても多種多様なモデルがある。


人材モデルは現場からすれば「人工物」に過ぎない

さて、この育成のフレームワークによって導かれた人材モデルは一見体系的に整理されているため、コンサルタントや人事担当者は好んで用いる。しかし成長の主体である現場の社員にとっては、人材モデルというのはあくまで異質な人工物でしかない。例えその人材モデルが統計的な検証を経て作成されたものであったとしても、やはりそれは誰かが作ったものでしかなく、自分が経験として理解したり知っているものではない。

そのような状態でただでさえ多数ある中の一つを持ち出されて、「あなたは◎◎はできているが、◼︎◼︎は他者よりも劣っている」と評価されることをアセスメントと呼ぶが、その結果当事者が得られるものは何だろうか。

確かに客観的に自身の能力や考え方が評価され、フィードバックされることは有益である。課題意識を生み、その要素を伸ばすために何をすべきかを考えるきっかけになる。しかし真っ当な人であればそれ以前に疑問が湧くはずだ。「本当にこれらの能力を高めると、パフォーマンスが上がるのか?」


“人工物から自分ごとへのシフト”が育成には欠かせない。

少し話は変わるが、マネージャーとして部下を持ち、評価の面談などをしたことがあるだろうか。面談で、評価を伝え、部下が「よし、次はこれにチャレンジしよう」という姿勢になれるかどうかは、どういう状態を目指したい/目指してほしいというゴールとそのゴールに必要な要素は何かという要件に合意があるか否かに左右される。

要は目指したい姿と要件が明らかになっているからこそ、課題を解決すれば確かに自分のためになりそう/成長しそう/より質の高い仕事ができそう、という手触り感が持てるようになる人が多いのだ。

なお、適切な合意を得るために評価シートにどのような項目が記載されているかが問題視されることがある。しかし、評価シートに記載されている項目が何であろうとどのように表現されていようと目指したいゴールと要件が明らかになることはない。マネージャーとメンバーとが、「評価シートには◎◎と記載されているが、これは自分たちの部署に置き換えるとどういう状態のことをいうか」について十分に対話し、納得しあえてはじめて目指したい姿と要件が明らかになる。

これは人材モデルにおいても同じ事が言える。上の事例でいうところのマネージャーが人事担当者やコンサルタントであり、部下が現場の人材である。人工物(「誰かが決めた体系」)の状態から、「自分ごとの人材モデル」が構築されている状態(双方がゴールと要件について納得している状態)へのシフトを起こすことが、人材育成には欠かせない。


シフトは対話を通して生まれていく

ではどのようにシフトを起こせばいいのだろうか。先ほどのマネージャーと部下の例にある通り、納得感のあるゴールが合意されている状態とは、定められた言葉そのものをどのように解釈するかがお互いに合意できていて、納得できている状態とも言い換えられる。

つまり自分ごとの人材モデル」は関係性(組織と個人、マネージャーと部下、成長する本人と支援者)の上に構成される。決してコンサルタントの作るペーパーの上に生まれるものでもなければ、人事担当者がしたためた企画書の中に生まれるわけでもない。

これは人材モデルが人工物から自分ごとの人材モデルになる上で重要なポイントである。つまり、客観的に作られた人材モデルをそのまま現場に押し付けるのではなく、その一つ一つの言葉を媒介としてどのような解釈ができ得るかを、人事担当者やコンサルタントは現場とともに対話をしていくことが欠かせない。寧ろこういった対話があってはじめて人材モデルに意味が生まれる。

特に注意が必要なのは、上で言う「現場」を抽象的に捉えてはいけないということだ。よく、人材モデルなどを作り、現場の数人の意見からフィードバックをもらい反映することで、現場とともに作り上げた育成体系やプログラムを作った気になっているケースがあるが、これは重要な視点が抜け落ちている。つまり、研修を受ける一人一人の受講者は別々の人であるという当たり前の事実が抜け落ちているのだ。この一人ひとりが「自分はどのような人材像を目指すのか?そのために何が必要なのか?」を考え、探究し、納得する場を提供してはじめて、人工物は自分ごとの人材モデルへとシフトしていく。