組織文化を醸成するシンプルな方法 | Work , Journey & Beautiful

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オルタナティブな学びを探求する

5年間程、継続して支援をしているクライアントがいる。元々はある制度を導入したいとのことで声をかけていただいた。


コンセプトをともに考え、細かなところを詰め、1年間のプロジェクト(あるコンセプトを掲げた業務改善活動みたいなものをイメージしてもらえるとよい)に数十人の方に参加していただく。開始時にトレーニングを行い、中間地点で一回、そして終了時点で一回ダイアログを行い、この経験を今後にどのようにつなげるかを探求していただく。このサイクルが1年間終われば、また次の1年間は別の方がこのプロジェクトを受け持つ。このようなサイクルを5年間続けている。


このプロジェクトの目的は組織の文化を再構築することにある。組織の文化とは、特有の思考パターンや価値観なり行動パターンなりが共通して見られるところに必然的に生まれるものである。チーム全体が共有しているものであれはチームの文化、会社全体が共有しているものであれば会社の文化である。参考までに、トム・ ピーターズとウォーターマンは、「エクセレントカンパニー 」の中で、組織文化を「従業員が持つ共通の価値観」と表現している。

組織全体の文化を再構築する、というのはいささか妙な言葉でもある。なぜならば、文化とはその組織に参加する人たちの思考パターンや行動パターンから自然と醸成されるものであるからだ。しかし何もこの組織文化を醸成・構築しようとする考え方は新しいものではない。

例えば1980年代に、エドガー・シャインは「組織文化の3つのレベル(three distinct levels in organizational cultures)」として、人工物(artifacts and behaviours)→価値(espoused values)→基本的仮定(assumptions)というモデルを提唱している。これは簡単に言うと、

1.人工物:はじめは理念や価値基準といった明文化されたものも誰かが決めた作り物でしかない
2.価値:理念や価値基準がさまざまな経験を経て次第に大事なものだと考えられはじめる
3.基本的仮定:結果的に何かを考えたり行動したりするときの大前提となっている

といった3レベルで組織文化が構築されていく段階を捉えるという考え方だ。30年前に提唱されたこのモデルはいまだ大きな影響力を発している。

特に経営者やリーダーが頭を抱えるのは、人工物から価値へのシフトをいかに起こすか、である。少なくとも私はクライアントから「理念体系は作ったのだけれど、社員に浸透しなくて困っている」という悩みをほぼ毎週のように聞いている。しかし、実はこの人工物から価値へのシフトは非常にシンプルな方法で実現可能だ


例えば先のクライアントは全体で数百人の一事業部である。その中の数十人に1年間のプロジェクトに参加していただき、とあるコンセプトについて考え、行動していただく。ここでいうコンセプトは例えば、多様性の受容、育て合う文化、変革リーダーシップなどがあり、複数年に渡り一つのコンセプトで活動する。これも5年間続けていると組織全体の実に20%近くの方が参加したことになる。


はじめの1~2年目は参加した個人に変容が明確に起きる。例えば、これまでとは違う視点で物事を考えることができるようになり、言動が変わる。プロジェクト終了以降も、その傾向は持続的に残る。このような営みを継続し、組織全体の20%程度をこのコンセプトを思考パターンや行動パターンに持っている人が出てきたところからそのコンセプトが組織を駆け巡る。冒頭のクライアントでは、5年目にこの駆け巡るように組織の文化が醸成されていくタイミングを迎えた。


シンプルに捉えると、組織とは個人とつながり(関係性)で出来ている。会社という存在は実体があるわけではない。余程のカリスマ性のある人材を放り込まない限り、個人を変えた(投入した)だけでは組織は中々変わらない。これまでにも様々な組織で幹部養成やリーダー養成のプログラムを手がけてきたが、個の力で組織を牽引し切ることができる人材は中々いない。一方で、突出した個人がいなくとも、組織を構成する人の多くがこれまでと違う考え方をし、そういった人たちが(公式/非公式に)つながり合い、お互いに刺激し合うような状態を創り上げると組織そのものが大きく変わりうる。