『踊り子の宅急便 ―踊り子になった魔女キキ―』
昔は宅急便なんて無かった。ちなみに、宅急便という言葉は‘クロネコヤマトの宅急便’という愛称で有名なヤマト運輸の登録商標。だから一般的には「宅配便」という言葉が正しい。ヤマト運輸でも小型サイズ以外は宅急便ではなくヤマト便と呼ばれる。
映画『魔女の宅急便』が公開される時、ヤマト運輸は商標権に抵触するとクレームを出したらしい。原作のときは児童文学ということもあって目に留まらなかったが映画となると無視できなかった。そこでジブリはヤマト運輸にスポンサーになってほしいとお願いした。最初は渋っていた会社側も、映画に実際にクロネコが登場することで受諾したというエピソードがある。
今では、ストリップの踊り子さんは10日毎に公演先が変わるため、たくさんの衣装等の配達に頻繁に宅急便を使う。宅急便が無かったら仕事にならないだろう。
では昔の踊り子さんはどうしていたのか? もちろん人が運んだ。しかし、荷物が多くて重いために女一人の力では無理だった。そのため、どうしても男の人の力を借りざるを得なかった。昔の踊り子さんには必ずと言っていいほどヒモと呼ばれる男が付いていた。彼らは踊り子さんからお金や身体を求めていただけではなく、荷物運搬の肉体労働者としての役割を果たしていたのである。
当時、そうしたヒモになる男たちはチンピラと言われる社会的に底辺の男たちであった。チンピラというのは普通のサラリーマンにもなれず、かといって完璧なやくざにもなれない、中途半端な男たちであった。昔はそういう男たちがたくさんいて、全国各地にたくさんあった劇場にたむろして踊り子のヒモになることを狙っていたのだ。宅急便代わりという需要と供給の一致もあったので、すんなり彼女の懐に入り込み同棲するようになる。所詮、踊り子家業という風俗の世界、そしてチンピラという、同じ匂いのする者同士は、お互いの淋しさを紛らわす如くくっついた。だから、当時のストリップは「チンピラ・ストリップ」と呼ばれていた。
それに対して、今のストリップは「サラリーマン・ストリップ」となる。お客の大半は普通のサラリーマンである。また、踊り子も賢くなり、ヒモのような男性に稼いだ金を貢ぐようなことはしない。
宅急便は、そうした「チンピラ・ストリップ」から「サラリーマン・ストリップ」への変遷の、象徴的なシンボルなのである。
さて、前置きはこのぐらいにして。
ここでキキという踊り子が登場する。キキは現代っ子。いま流行りのスト女として劇場に入り、ストリップの魅力にはまった。そして、すぐに自分から劇場に申し込み、踊り子として劇場デビューすることになった。
トレードマークは大きな赤いリボン。そして、衣装は黒しか着ない。「黒は女を美しくする」という強いこだわりがあった。
また、ジジという黒猫を飼っている。彼女の周りのもの一切合切が黒いのである。そのためか彼女の正式の芸名は「黒井キキ」と言ったが、みんなは彼女のことをキキちゃんと呼んだ。
そうそう、一番大切なことは、キキがとても礼儀正しいこと。必ず笑顔で挨拶する。そのときに、ちょこんと腰をかがめる仕草が人々の好感度をあげていた。
彼女に一早く目を付けたのは、劇場の常連客であるトンボと呼ばれる青年であった。彼は黒い大きな眼鏡をしていた。「君、かわいいね。いつも黒い衣装ばかり着ているんだね。黒が好きなんだ。ボクの眼鏡も黒いから、きっと僕らは相性がいいよ。」と話しかけた。
最初のうち、キキはトンボのことをずいぶん馴れ馴れしい客だなと不愉快に感じた。しかし、毎日のように自分に会いに通ってくれる。ストリップとしては先輩に当たるトンボの方が、いろいろと劇場や客の事情を知っていてアドバイスしてくれた。差し入れも気が利いていた。初めの差し入れは劇場内で生活するためのパジャマやスリッパなどの生活用品だった。また、ステージで汗をかくため水分補給用の水を頻繁に持ってきた。時に、キキが風邪をひいたりすると風邪薬、膝を擦りむくとオロナイン軟膏や絆創膏を買って来た。こうした気遣いが次第にキキの心の扉を開かせ、二人は打ち解けていく。
「よかったら、オレが荷物を運んでやろうか?」トンボはキキに言った。ふつう、踊り子と客の間には一定のルールがあって、適正な距離を保たなくてはならない。トンボもストリップ客として、そうした常識は弁(わきま)えていた。しかし、連投で疲れていたキキの顔色を見て、ついつい言葉が出てしまった形。それに対して、既にトンボに警戒心が薄れていたキキは黙って頷いた。
そうして、トンボはキキのアッシー君になっていった。黒猫のジジもトンボに懐いていた。トンボとキキ、そしてジジの二人一匹はトンボの車で送り迎え、地方遠征をするようになる。
雨の日も風の日も、暑い夏も、寒い冬もトンボの車はキキを乗せて走り続けた。
ある日、久しぶりに新人が劇場デビューした。漸くキキはお姐さんになるわけで、彼女のことをお世話して可愛がってあげなければならない立場にあった。
ところが、キキは単純にかわいい後輩ができたと手放しで喜べなかった。というのも、彼女はトンボの女友達の一人だった。そして、黒い衣装しか着ないキキに対して、カラフルな派手な衣装を着て、客の目を引いた。
彼女は、劇場常連でしかも幼馴染のトンボがキキのことばかり構っているのを目にして、トンボにモーションをかけ始めた。
「トンボさん、お腹空いたわ。パイが食べたいので買ってきてくれない?」
気のいいトンボは断れず、近くのパイ店に買いにいく。パイ店の店員が「いま、このニシンのパイがすごい人気なんですよ。」と勧めてくれた。トンボがそれを買って持ち帰ると、彼女は「わたし、このパイ、好きじゃないんだけど・・・」と言いながら受け取った。
そのやりとりを横目で見ていたキキは「わたし、あの子、きらい!」とトンボに囁いた。
「まぁ、そう言わないで、彼女の面倒を見てやってくれよ。」とトンボは苦笑いしながら言った。
その彼女は可愛いものの性格が悪いため人気が出ず、少しして辞めてしまった。
ある時期、キキはスランプに陥って大変なときがあった。踊り子を辞めてしまおうかと思い詰めるほどのキキの危機だった。(いつもの親父ギャグですみません)
どうしてもうまく踊れないのだ。そんな調子だから劇場側から要求されている新作も全く手に付かなかった。いらいらして落ち着かないキキを見ていて、心配するトンボだったが、キキはそんなトンボに当たりちらした。
絵の上手な先輩のお姐さんが、そんなキキの様子を見かねて、アドバイスしてくれた。名前はウルスラと言うが、みんなは「お絵描きさん」と呼んでいる。
「そういうときはジタバタすること。下手でもいいから踊って踊って踊りまくるの。それでも何も浮かばなかったら、何もしないこと。ぼけーっとしているの。そうしているうちに無性に踊りたくなる。そうしたら新作のアイデアも閃くわよ。」
このアドバイスは的を得ていた。お陰でようやくスランプから抜け出すことができた。
いろんなことを経験しながら、キキは踊り子として一歩一歩成長していった。そしてキキの側にはいつもトンボがいた。
送り迎えの車の中で、キキとトンボはお互いの夢を語り始めた。
キキは若いうちは踊り子の仕事をやって、ある程度お金を貯めたら、パン屋をやりたいと思っていた。一方のトンボは、若いうちにストリップにはまってしまったので気に入った踊り子の応援以外にこれといって夢はなかった。今は大好きなキキが立派な踊り子になってくれることが夢だった。
ある日のこと、キキは車の中でトンボに言った。「今まで私の宅急便になってくれてありがとうね。よかったら今度は私と一緒にパン屋をやってくれない?」キキからトンボへのプロポーズであった。トンボは迷うことなく頷いた。
二人は、グーチョキパン店(or大阪東洋の前だとジャンケンパン屋)を開店した。しばらくして男女の双子ニニとトトが産まれた。もちろん黒猫のジジも一緒。今でも家族みんなで仲良くパン屋をやっているようだ。
めでたしめでたし






