『プリキュア戦士がストリップを救う』  

 

 

 

ストリップ界は冬の時代が続いていた。

かつては風俗の代表格として隆盛を極めていたストリップも、今やAVを始めとした他の風俗に押されて衰退の一途を辿っている。ストリップの一番の過ちは一時期、本番生板ショーを始めとしたエログロ路線に走り過ぎ、それが改正風営法の規制にはまり、次々と劇場が廃業に追いやられたことであった。かつては200もの数があったストリップ劇場も現在20足らずとなっている。今ではアイドル路線に切り替え生き残りをかけている。

しかし、昔のイメージが抜けないのか、警察権力の厳しい規制が続いており、各劇場も数年に一度は摘発を受け一年弱の休業に追い込まれる。そのまま閉鎖してしまった劇場も多いが、残った劇場も体力がなくなっており、次に摘発されたら潰れてしまう惧れがある。いま喫緊の課題は2020年の東京オリンピックに向け、どれだけ警察の規制が厳しくなるか。ストリップ業界はかつてない厳しい時期に直面している。

 

 そうした中、いいこともある。最近では、ストリップはエロではなくアートだとの再認識からか、女性客が増えている。いわゆるスト女たちである。美しさに憧れる女の子たちが、踊り子をカリスマにして追いかけているのである。

 彼女たちは小さい頃にアニメ番組のプリキュアを観てきた世代なので‘プリキュア世代’と呼ばれる。考えてみれば、プリティ(かわいさ)が人の心をキュア(癒す)するのにストリップはベストである。女の子は、音楽が好き、ダンスが好き、美しいものが好き、おしゃれが好き、着せ替えが好き、物語が好き、・・・そうした全ての要素がストリップの中にあった。プリキュア世代がストリップにはまっていくのは自然の理。

 

 現在のストリップ界を見たところ、今述べたように外部からの圧力もあるが、ストリップ業界内にも大きく、ストリップを守っていこうとする勢力と、ストリップをダメにしようとする勢力がある。ストリップというのはお小遣い程度に楽しめる庶民の遊びなので、大半の客は単にストリップを楽しみたい平凡なサラリーマンが多い。ところが一部にストリップをダメにする客がはびこっている。

 そのひとつは、エロポラで踊り子を虐める「エロポラ大王」。踊り子が嫌がるポーズを次々と要求し、踊り子を潰してしまうのだ。彼らはオープンをさせたがり「もっと開け!もっと開け!」が口癖。その中にはエロポラ名人や連射男も含まれていた。エロポラで嫌気をさして辞めていった踊り子が何人いたことだろう。悲しい限りである。

 彼らは、次から次へと新しいエロポラ・ポーズを開発してくる。カエルポーズやアメリカンバックなどは究極のエロポラ・ボースであるが既に定着してきている。新たにイタリアン・バックから始まり、ブラジリアン・バックやモンゴリアン・バックなどを開発している噂を聞く。名前を聞くだけで恐ろしくなるポーズである。

 劇場の中に、ときたま「ちんちん太郎」という変態男が出没する。ステージ中に、まさしく男性性器を露出させ、踊り子さんを驚かせる。缶ビール大を片手に持って「どうだ、おれの一物はこの缶ビール並みだろ」と言わんばかり。こいつらは劇場の風紀を著しく悪くする。彼らとは違って、こそこそと隠れてオナニーする輩もいる。これも場内を汚したり、周りの客に迷惑をかけたりする。いずれにせよ、劇場内でオナニーするのは禁止である。

 また、怪物「抱っこちゃん」というのもいる。ストリップは決して踊り子に触ってはいけない。ところが彼らは踊り子に触りたいがゆえに、お姫様だっこ、肩車、膝枕などのポーズを次々と要求する。「周りの目が気にならないのか」という声に対して「そんなことを気にしてたらやれないぜ!」と豪語している。さすがに、いくら仕事と割り切っていても踊り子が嫌がっているのを見るにつけ、彼女のファンとしては見るに堪え難くなる。

 一番困った存在が「ストーカー魔」。怪物「抱っこちゃん」が「オレは女には触れても法には触れていない」と言っているのに対して、こちらは完全に法に反している。ストーカー魔に狙われた踊り子は精神的ダメージは大きく、これが原因で引退した踊り子も多い。

 最近、最大の問題児が「バクサイ閻魔」。顔の見えないネットという暗闇世界の中で踊り子や常連客を叩く輩。彼らはストリップの楽しみ方を知らず、ただ単に嫉妬心などの情けない感情から踊り子や客を誹謗中傷する。実際、これに嫌気をさして辞めていった踊り子も多いし、熱心な客が家族や職場にバレてスト界から離れて行った例は後を絶たない。

こうしたストリップ客を装う心無い輩がストリップをダメにしている。

 

 こうした内外の連中と戦おうと一人の男が立ち上がった。ストリップ界に名を轟かせた男、その名をサワティ王子という。

 彼の理想は「ストリップは、音と光に包まれた、美と愛と夢に満ち溢れたファンタジーランド。踊り子は美しい衣装を着て、楽しくダンスをする。お客はステージを観ているだけで心を弾ませる。」そんな世界を夢見ていた。

 彼は自分の思想をひとつのバイブルにまとめようとしていた。これまで沢山の踊り子と交換した手紙やエッセイ・観劇レポートなどの書簡。さらにその考えを分かりやすく、かつ面白く伝えるためのストリップ童話の数々を書き上げていた。

 また、王子にはふたつの得意技があり、それが彼をストリップ界最強の強者(つわもの)と言わしめた。‘萌え萌えシェイク’と‘回転チョップ’。

 王子は踊り子に向かって‘萌え萌えシェイク’をやる。これは「あなたは私たちのアイドルです」という憧れと服従を誓う証。これをやられた踊り子はハイテンションになる。そのため、他のお客まで真似して、会場全体が萌え萌えシェイクで盛り上がることもある。

 また、王子は不埒な客を見つけると回転チョップでバッサバッサと蹴散らした。そのため、ストリップを心から愛するファンにとって彼はヒーローであったが、そうでない人からは妬まれ、増々バクサイの標的とされ叩かれた。悪の根絶は容易ではなかった。

 そこで王子は、協力者として、踊り子やスト女の中から、伝説の戦士プリキュアを募ることにした。

 2020年の東京オリンピックまで残り二年。「東京オリンピックをストリップのバッドエンドにしてはならない!!!」「女の子だって暴れたい!」「女の子なら誰でもプリキュアになれる!」と強く訴えた。

 

次々とプリキュア戦士が現れた。彼女たちはサワティ王子の理想に共鳴し協力を誓ってくれた。従来のしがらみにこだわらない若い子が多かったが、中には、ベテラン勢も加わり、プリキュア三銃士と呼ばれる大御所三人衆がサワティ王子の脇を固めた。

プリキュア戦士の必殺技は「プリキュアオープン」「プリキュアバック」「プリキュアハッピーシャワー(潮吹き???)」などなど・・・サワティ王子を始めとするピュアなストリップファンに元気を与えた。

 ちなみに、プリキュア世代の中にはHUG(抱っこ)に抵抗のない子もいた。彼女たちは「抱っこちゃん」に甘かった。そのため別途対策を打つ必要もあった。

 また、面白いことに、絵心のあるプリキュアたちがサワティ王子のストリップ童話をどんどんマンガ化していく。それを「ストリップ・マガジン」として発行した。一方で、ネット上に「ストリップ・ファンタジー」という題名でブログを立ち上げ、サワティ王子の作ったストリップに関するバイブルや童話を掲載していく。こうした啓蒙活動が功を奏してストリップの反対分子を駆逐していくことができた。

 プリキュア戦士の活躍でストリップ界に平和が訪れた。

 

                              めでたしめでたし