今日、6月15日に骨太の方針とともに閣議決定されたのが「未来投資戦略2018」。
いわゆる政府の成長戦略です。
ここに国家公務員の兼業を後押しするような記載があったため、前日から日経新聞で報道され、インターネット上などでも話題になっていました。
2018年6月15日 日本経済新聞
国家公務員兼業容認へ 公益限定、民間で研さん
私自身、公務員のパラレルキャリア実践者として、その楽しさも、本業への効果も、そして大変さも、様々な実感を得ています。
この国家公務員の兼業の話題については、そういった私の実体験などから考えることなど、今後、いくつかの切り口で記事を書いていきたいと思います。
ちなみに私自身の公務員の副業に対するスタンスは、こちらの記事のとおりです。
公務員は2枚目の名刺で資産を築いてみるのはどうでしょうか
記事を読んでいただければ分かりますが、副業とか兼業という言葉に疑問を持っていること、有償か無償かでのルールの線引きが無意味であること、現行ルールの範囲内(無償)でもたくさんの“無形資産”を築くことができますよ、というスタンスです。
今日は、今回の「国家公務員の兼業」についての『未来投資戦略2018』の閣議決定を受けて、まず概論的に国家公務員の兼業が今よりも一般的になるということが、将来的にどんなことに繋がるのか、私なりの考えを記しておきたいと思います。
1.国家公務員の兼業の範囲
まず、今回話題になっている国家公務員の兼業の範囲ですが、これは未来投資戦略にも書いてあるとおり、公益的活動等を行うためという限定的なものになります。
想定されるのは神戸市や奈良県生駒市が“職員の副業解禁”と話題になった、NPO等での活動であれば有償で従事しても構わないという考え方です。
生駒市職員の公共性のある組織での副業を促進(生駒市HP)
今回の公務員の兼業容認の流れが、ソーシャルセクターからの提言など働きかけがあったこと、いきなり民間企業との兼業を認めた場合の国民感情等を考えると、このように公益的活動等を行うためと限定したところから始まるというのは、自然なような気がします。
藤沢烈 BLOG『NPOへの国家公務員の兼業が認められた裏舞台。(6月15日)』
アゴラ 『NPO・NGO/コレクティブインパクトに関し、政府へ申し入れ』
2.法令等の整理
法令上の整理はどうなるのでしょうか。
結論から言えば、恐らくは法改正を伴わない、運用改善のための基準作りに留まるものと推測されます。
そもそも現行の法令の範囲で、“技術的には”兼業を許可することは可能です。
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国家公務員法104条
(他の事業又は事務の関与制限)
職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。
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※正確には、同法103条の(私企業からの隔離)も無関係ではありませんが、103条は会社経営などのケースなので今回の解説では104条をメインにご紹介しています。
しかし、これまで大学での教員や執筆などを除くと、ほとんど例が無かったと言われている国家公務員の兼業許可。そりゃそうですよね、内閣総理大臣や所属する省の大臣の許可が必要なんですもんね。
そこに対して、技術的に可能なものから、実質的に可能な制度なるように運用を改善しよう、というのが今回予想される法令等の整理の形です。
実際に神戸市や生駒市のケースでも、どのようなケースなら許可できるのかの基準を明確にすること、その基準の中に公益的な活動なら許可できることを明示することで、職員による地域でのNPO活動などを後押しする狙いがありました。
国家公務員法、政省令では既に許可できることになっているのでそれらの改正まで踏み込まずとも、その許可基準をより明確にするような運用のための基準作りで実現できそうです。(それが本質的な施策かどうかはともかく)
3.実行するのはごく一部の人から
1.と2.は今後どのように国家公務員の兼業が実現されるのかについてのお話でしたが、3.からは実現したことで何が起こるのかを書かせていただきます。
この予想は外れた方が望ましいのですが、最初はあまり多くの人に使われないのではないかというのが私の予想です。神戸や生駒の事例でも、それほど多くの職員に活用されていないように聞きます。
そもそも忙しくて、時間が無い国家公務員。
ネット上でも「国家公務員って激務で兼業なんてやってられないのでは?」といったコメントも見かけます。実際に実施できるような時間の余裕があって、かつやってみようと前向きに考える人がどれだけいるか。
また、施策を講じる側としては、最初は優等生的なモデルを創りたいと考えるのが自然です。この制度が国民にも認められ、広く活用されるには、最初の段階でお粗末な事例を出すわけにはいきません。
個人的には、どんなに制度が整っても、上司や幹部から白い目で見られるようでは兼業なんてやりにくくて仕方が無いので、かなり恣意的に許可を出すことが可能なのではないかと感じています。
恐らくは省内でも優秀で人徳もあり、兼業で携わる事業も社会的に高い評価を得られるような、そんなモデル的な事例から許可していくのではないでしょうか。
モデル的な事例が社会的にも評価されてから、国家公務員全体に浸透し一般的になると同時に、地方自治体でも同様の環境を整えるところが増えてくるような気がします。
国家公務員の兼業解禁直後から、トップランナー的に環境整備に乗り出す自治体も出てくるとは思いますが、全国的に広がるのは、この国家公務員でのモデル的な事例に対する評価がある程度定まってからになるのではないかと予想します。
ここまでに何年間かかるのか、そこは民間は地方自治体への副業・兼業の普及のスピード感を決めるポイントになります。
4.多様な働き方の実現
ここからはさらに先の中期的な将来の話です。
4.と5.は関連する事項なのですが、私は国家公務員の兼業が一般的になることは、公務員全体の生産性向上と人件費圧縮に向けた環境整備につながるのではないかと考えています。
定年も65歳まで延びると言われていますが、総人件費を増やすことはできません。一方で、AIなど技術の進歩で、必要な作業量は減る可能性も有ります。
限られた財源の中で、【人数×時間数】の総和をどうやって減らすか。
そこにこの兼業の許可が関係してくる可能性があります。
例えば兼業での収入もあり、そもそもやりたいことがある職員であれば、週5日(40時間)を原則とする勤務体系にこだわらず、例えば週4日(32時間)や週3日(24時間)で働く人や、毎日4時間だけ働いて1週間に20時間勤務といった働き方も考えられるのでは無いでしょうか。
そして、残りの時間で兼業の活動をする。
それまで年収600万円だった人が、国家公務員として得る年収が300万円になったり400万円になって、そこにNPO等での兼業による収入が足されて、全体の収入は減るけれども好きなことに取り組んでる時間が増えるような働き方。
こういった国家公務員の働き方の多様性が増す動きの中で、時間数だけではなく、テレワークのような働き方が今よりも一般的になったり、そもそも時間数ではなくて成果によって給与が決まるようになるかもしれません。兼業の範囲もNPO等公益的なものだけではなく、一定の制限は残しつつも、いずれは民間企業での兼業まで認められることでしょう。
5.身分保障の緩和
4.の続きのようなことですが、働き方が多様になり、民間企業での兼業も認められるようになれば、いよいよ身分保障の在り方を改めて考える段階になるのではないでしょうか。
これまで公務員は、役所の中だけで働いていることで民間企業への転職のハードルはかなり高かったのではないかと思います。
しかし、兼業によって民間企業勤務経験のある公務員であれば、公務員として働いている部分を辞めてしまい、複数の民間企業での兼業に移行するのも、さほどハードルは高くないように思えます。そうなれば、公務員にとって身分保障というのは、それほど大きな恩恵ではなくなります。
本来は全体の奉仕者として、外部の圧力や幹部・首長などによる不適正な指示よりも倫理観を優先できるように身分が保障されているという考え方もありますが、そもそも身分を保障してもらわなくても生きていけるなら、幹部や首長の指示よりも住民の幸せを優先することは可能です。それこそ、組織に寄りかかるからそういった指示に抗えないのであって、組織に対して対等に自律できていれば不正な指示に抗うことは難しくないはずです。
身分保障を緩和することでそういった自律した職員を増やせるのか、自律した職員が多くなることで身分保障の意義が薄れていくのか、後先は正直言って分かりません。しかし、兼業の解禁がいずれは身分保障の緩和に繋がるのではないか、少なくともその遠因となるのではないかと私は考えています。

ちなみに、私自身は個人的に、公務員が多様な働き方をするようになること、身分保障が緩和されることは、歓迎する立場です。
おさらいすると、
最初はNPO等限られた範囲で、優等生的な国家公務員によるモデル的な兼業スタイルが現れ、社会的に露出していく。同時に、先進的な地方自治体での兼業の環境整備が進む。
その法令上の整理は、あくまで現行法令上の範囲内での施策となり、運用改善のための基準の明確化に留まる。
兼業の広がりを梃子に、公務員の生産性向上・人件費圧縮を意図した多様な働き方の選択肢が整えられ、週3日は国家公務員、週2日はNPOスタッフといった働き方も。併せて、兼業できる活動もNPO等公益的なものから民間企業などへ拡大。
兼業により団体や民間企業勤務を経験する公務員が増え、人材の流動化が進む。自律した職員が増え、その意義が薄れた身分保障は緩和される。
その先は・・・・・・また別の機会に書きたいと思いますが、公務員と民間に勤める人という分類は意味が無くなって、
パブリックな仕事をしている人、ソーシャルな仕事をしている人、それらではない事業をしている人という分類を経て、
最終的には、パブリックな仕事を60%、その他事業の仕事を40%やってる私と、ソーシャルな仕事を20%、その他事業の仕事を80%やっている貴方と、といった考え方になるのではないかな~と感じています。
皆さんは、今回の「国家公務員の兼業容認」のニュースをどのように受け止めましたでしょうか。
6月16日 10時40分 一部追記しました。
6月16日 15時13分 一部追記しました。