快晴の元、線路沿いに歩く子ども達。
「でさ、俺がそこに反則ギリギリのスライディングで突っ込んで」
「大輔のポジションはトップ下だろ? よくゴール前まで戻れたな」
「俺、ダッシュには自信あるんだ。MFもやってみたいけど、持久力がまだイマイチなんだよ~」
先頭で活発に語り合っているのは大輔と拓也だ。今朝全員を叩き起こした時からヤッカイな絆の臭いがしたが、案の定意気投合してしまったらしい。
二人ともサッカークラブに入っている事まで判明し、さっきからサッカーの話で大盛り上がりしている。
その後ろで、一生懸命話についていこうとするブイモンと友樹。
残りはその更に数歩後を、静かに歩いている。静かな訳はずばり、寝不足だ。
泉は恨めし気な顔で大輔達を凝視している。
「こっちは野宿で疲れてるし朝早く起こされて眠いのに……一体あの二人はどこから元気が湧いてくるのかしら」
止めどなくあふれてくる文句に、純平がフォローを入れる。
「心配することないよ、泉ちゃん。あいつらも泉ちゃんと同じ五年生なんだからさ、その内『もう疲れたー!』とか言い出すに決まってるよ。その点俺は六年生だし体力はあるし――」
後半から聞き流されている事に、純平は気づいていない。むしろ、気づいていなくて幸せかもしれない。
泉はますます不機嫌な表情になり、大輔達を睨んでいた。
「あの二人がそう簡単に疲れてくれるなら、悩まなくていいんだけど」
「え?」
聞き返してきた純平を、泉は黙殺した。
昼前に、進む先を選ぶ事になった。
線路が二手に分かれていたからである。
一方は左。今までと変わらない荒れ地の中へ。
一方は右。森の木漏れ日の中へ。
泉達が追いついた時には、大輔と拓也が頭を突き合わせて相談していた。
「何か、嫌な予感がするんじゃが」
ボコモンの言葉通り、大輔と拓也が爽やかな笑顔で振り向いた。
「よしみんな!」
「今度は左に行くぞ!」
そして答えも待たずに歩き出す。
「って! ちょっと待てよ!」
純平が慌てて駆け寄って、二人は不思議そうに足を止めた。
ため息まじりの息を吐いて、純平が口をとがらせる。
「勝手に決めるなよ。大体、何で左なんだ?」
「俺の勘だ!」
「何となくだ!」
即答する大輔と拓也。言葉は違うが言ってる事は同じである。しかもそろって胸を張る。
呆れて絶句する純平の隣に、今度は泉が割り込む。
「あんた達、勘とか何となくでみんなを引きずり回すつもり!? もし間違ってたらどうするのよ!?」
拓也が面倒臭そうに頬をかく。
「その時は戻ってくればいいじゃんか」
純平が文句を言おうと口を開く。
が、泉の方が速い。
「あっそう。だったら拓也も大輔も左に行ったら? 私はついてかないから!」
そう言ってさっさと右に歩き出す泉。
「勝手に動くなよ! デジモンに襲われたらどうするんだー?」
大輔が叫ぶが、泉は足を止めない。純平があたふたと後を追う。
「今日の泉、まるで京みたいだな……」
ブイモンがぽつりとつぶやいた。大輔も大きく頷く。
「ホントだよな。あんなやつほっといて、さっさと行こうぜ」
拓也が大きく頷く。
「そうだな。行くぞ、友樹! ほら、ボコモンとネーモンも!」
拓也が戸惑う友樹の背中を押し、大輔がボコモンを、ブイモンがネーモンを引きずって、一行は左に進んだ。
線路沿いに進み、森へと入っていく泉と純平。
しかめ面の泉に、純平が積極的に話しかける。
「大輔達についてかなくて正解だったよ。あのコンビについていったら何が起こるか分からないからな」
「うん」
「俺もこの道で合ってるとおもうぜ。だって目指すは『森のターミナル』だろ? だったら森の中にあるに決まってるじゃん」
「うん」
「おなかすいてない? 俺とチョコ半分こにしようよ!」
泉が立ち止まった。勢いよく純平に顔を向ける。その顔ときたら、目は吊り上がり、口は一文字に結ばれている。
後に続くのは叩きつけるような言葉。
「黙っててくれる? 私、今おしゃべりしたい気分じゃないの」
「……はい」
乱暴な早足で歩く泉に、純平は黙って従った。
「本当に、こっちの道でいいのかな……」
どこまでも変わらない景色に、友樹が弱音を吐く。
その両肩を、同時に二人の手がつかんだ。
左から大輔が。
「心配すんなって友樹!」
右から拓也が。
「俺達がついてるって!」
根拠のない自信が両側からあふれだしている。
ネーモンがのんびりと首を傾げた。
「ホントに大丈夫かなぁ?」
直後、友樹の足元にひびが入った。
足をどける暇もなく、地面が崩れ出す。
友樹が悲鳴を上げながら、谷底に落ちていく。
大輔と拓也が、友樹の両手をつかむ。
しかし、二人の足元も崩れ去る。
今度は大輔の足をブイモンが、拓也の足をボコモンとネーモンがつかむ。
ただ残念なことに。
デジモン三人には子ども三人を支えるだけの力がなかった。
結果。
「うわあああああ!」
全員が悲鳴を上げながら、谷底へと落ちていった。
◇◆◇◆◇◆
アニメ4話相当の話に入りました。
大輔&拓也が暴走するのは、アニメで純平が言ってた「もし拓也が二人いたら」を実際にやってみた結果です。しかも、この時点だとまだ輝二がパーティーに加わっていないので、ストッパーが誰もいないという恐ろしい事に……。