《ハンティングキャノン》の一斉射撃を避けられると、ケンタルモン達は素早く散らばった。
龍輝さんに目をやると、見た目には落ち着いていた。ドルモンがすぐに飛び出せるよう腰を落とさせて、自分はケンタルモン達の動きを目で追っている。
本音を言えば、二人には邪魔にならないよう隠れてて欲しいんだけど。ドルモンはあまり戦いに向いているように見えないし……。
ケンタルモンは右手と一体化した武器をいつでも撃てるよう構え、俺達を包囲する形に広がる。数およそ二十体。
「これだけいると、攻撃の的に困らないな」
俺が軽口を叩いた直後、一斉に向けられる銃口。的は俺達の方らしい。
空を飛び小回りの利くシューツモン、身長一七〇センチ台の龍輝さんと、それより小柄のドルモン、恐竜並に大きな俺。
一番いい的は、間違いなく俺だ。
ケンタルモン達も同意見らしい。二発目は全弾、俺目がけて飛んできた。
だが、一番堅いのも俺だという事を分かってないな。
俺は角を一振りして、周囲に磁場を生み出す。磁場に達した電磁弾は残らずはじけ飛んだ。
動揺して目配せするケンタルモン達。俺は自慢げに角を振り上げた。
「どうだ、もう一発やってみるか?」
挑発してみたが、乗ってはこなかった。
代わりにまた陣形を変更。狙いは龍輝さん達。防御が薄い。
二十弱の弾が二人を襲った。
「危ない!」
シューツモンが《ウィンドオブペイン》を弾丸にぶつける。
空気を切る甲高い音。龍輝さん達の前で爆発が起こった。
結論から言うと、二人は守ってあげるほど弱い存在ではなかった。
風と電磁波が収まった後には、半球のバリアに包まれた龍輝さん達がいた。ダメージを受けた様子はない。
それと同時に、龍輝さんの観察結果も出たらしかった。
「行くぞ、ドルモン!」
その言葉と共に、バリアが砕け散った。欠片が雪のように降る。
龍輝さんの手には四隅の凹んだデジヴァイス。
その画面から白銀の粒子がほとばしった。
正確には粒子ではない。小さな0と1の
渦の中心でドルモンも変化する。体が輪郭だけ残して無色透明になる。体内には骨や臓器の代わりに、これまた0と1の激流。
それが外に流れ出すと同時に、白銀の粒子が体内になだれ込んだ。
何が起こったのかも理解できない内に、流れ出した粒子は消えた。ドルモンも元の外見に戻る。
「一体どうなってるんだ?」
俺の言葉に、龍輝さんは軽く頷いた。まず先に指示を出す。「ドルモン、次に攻撃が来たら、その後すぐに敵の右腕を攻撃だ」
「うん~」
ドルモンは元気よく飛び出していった。三度陣形を変えようとするケンタルモン達を、猟犬のように追いかけていく。その勢いは時空酔いしてたデジモンと同じとは思えない。
上空からシューツモンも後を追う。
それを見守りながら、龍輝さんが早口に説明してくれる。
「ドルモンを一時的にウイルス化――データ種のケンタルモンに有利な属性に変えたんだ」
次の言葉を聞く前に、ケンタルモン達の一斉射撃。俺は全電気量を角に集め、横なぎに放った。
「《サンダーレーザー》!」
ドルモン達の前から、全ての電磁弾が蒸発する。
走る勢いのまま、ドルモンが大口を開ける。
「“ダッシュメタル”~!」
鈍く光る鉄球が、敵の銃を捉える。
暴発した。
銃身が粉みじんに吹き飛び、ケンタルモンが大きくのけぞる。ドルモンの見た目からは想像もつかない威力だ。
これが「有利な属性」の威力なのか。
逃げ出そうとするケンタルモン達を、シューツモンの風が押しとどめる。その周りを駆け回って、ドルモンが矢継ぎ早に鉄球を射出する。
見ていて気づいた。
「ケンタルモン達が、撃ってこない」
目の前に格好の的があるのに、ケンタルモン達は逃げるか踏み潰そうとするかのどちらか。右腕の銃はほとんど撃ってこない。
龍輝さんが頷いた。
「あの銃はエネルギーの充填に時間がかかるみたいだ。それで充填に時間がかかるのを隠すためか、あるいは敵に接近されないために、移動を繰り返す戦法を取っていたんだ」
言葉通り、ケンタルモンは充填する時間を得られず攻撃されるままになっている。
振り上げる脚よりドルモンの方が速い。ドルモンの独り舞台だ。
属性の有効活用。龍輝さんの分析力と的確な指示。それを実行できるドルモンのポテンシャル。
俺は内心舌を巻いた。龍輝さん達は俺が思ってたよりずっと強い。一瞬でも邪魔だと思った事を、心の中で謝る。
「ちょっとライノカブテリモン! 援護が来ないんだけど!」
シューツモンの声でようやく我に返った。慌てて稲妻の嵐を呼び出す。
「二人とも離れてろ! 《コンデンサストーム》!」
満身創痍のケンタルモン達は、なすすべもなく吹き飛ばされた。全員にデジコードが浮かび上がる。
「シューツモン、スライドエボリューション!」
「フェアリモン!」
「爽やかな風に乗せ、このデジヴァイスが美しくピュアな心に浄化する!」
「悪に染まりし魂を、我が雷が浄化する!」
デジコードが俺達のデジヴァイスに吸い込まれる。
龍輝さんのデジヴァイスにデジコードが流れ込む。デジコードは吸い込まれる直前に0と1の粒子に変わった。
「あー疲れた!」
進化を解いた俺は、そのまま草地に寝転がった。
泉ちゃんが呆れた視線を向けてくる。
「もう。お客さんが来てる前でみっともない事しないで」
「戦った後なんだし、俺の事は気にしなくていいよ」
そう言って泉ちゃんをなだめてくれる龍輝さん。人間的にもできた人だ!
俺はお言葉に甘えて思う存分ダラダラする。
……あれ、そういえばドルモンはどこに行ったんだ?
寝たまま視線を動かすと、ケンタルモン達のいた辺りでドルモンがしゃがんで何かやっている。耳を澄ますと、ばりばりと何かを食べる音。
「ドルモン?」
龍輝さんの言葉に振り返るドルモン。口の周りには焼き菓子のかけらがいっぱい。
ポテチくらいの袋を抱えて、俺達の元に走ってくる。
「リュウキ~! これおいしいよ~!」
無邪気な笑みのドルモンに、龍輝さんが恐る恐る聞く。
「それ、どこから持ってきたんだ?」
「そこにおちてたの~」
ケンタルモン達のいた場所を指す。多分やつらが落としてったんだろう。
つまりドルモンは「敵が落としていった得体のしれない何か」を食べているわけで――。
龍輝さんがドルモンの背中を勢いよく叩き始めた。
「ドルモン! 今すぐ吐くんだ! 毒かもしれない!」
毒、と聞いて俺も飛び起きる。ドルモンの手から袋を素早く没収する。
「むり~! もうたべちゃった~!」
ドルモンは涙目になって訴えてくる。
「どうしよう……ドルモンしっかりして!」
泉ちゃんもドルモンの手を握りしめ、激しく振っている。
ドルモンのつややかな尻尾が苦しそうに動いている。
「ち、ちょっとタンマ!」
俺の言葉に、龍輝さんと泉ちゃんが動きを止めた。ドルモンがきゅう、と倒れる。
俺を見る二人に、俺はドルモンの尻尾を指さした。
「勘違いだったら悪いけど。ドルモンのケガ、治ってないか?」
やけどしてたはずの尻尾がすっかり元通りになっている。
二人の視線がぎぎぎ、と尻尾に向き。
またぎぎぎ、とドルモンの顔に戻る。
「まさか、食べ物のおかげで治ったのか?」
「毒じゃなくて、薬?」
龍輝さんと泉ちゃんの呆けた声。
もみくちゃにされたドルモンは地面に伸びていた。それこそ毒でも盛られたみたいだった。
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これにて龍輝&ドルモン組の戦闘も終了です! 最後ギャグオチでしたが……ドルモンごめんね☆←
「得体のしれない何か」はお察しの通りアンブロシアです。「アンブロシアがおみやげに欲しい」との話でしたので、ドロップ品での獲得ということにしました。この場にいる人間は『アンブロシア』という名称を知らないので「焼き菓子」としか呼べませんが。
あと一話、三か所それぞれのエンディングをやったらリアマトとのコラボも終了です。