星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよび
デジモンアドベンチャー02の
二次創作(小説)中心に稼働します。

注)『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』は
管理人が勝手に想像するフロンティアのその後の物語です。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。


テーマ:
 サッカーも好きだけど、走るのも好きだ。
 サッカーのように攻め方を考えることもなく、ただ足を動かしていくだけ。単純な運動をしているうちに、頭の中が空っぽになって、走ることだけに集中していく。今の状況も、悩みも、頭から抜けていく。
 森の中は風も涼しくて、ただ城の周りを走っているだけで落ち着いてくる。
 俺の斜め前を、兄貴が走っている。デジタルワールドに来る前は、2歳分の体格差があってがむしゃらに走らないと追いつけなかった。それが、今は自然と兄貴と同じ速さで走っている。ハードな旅をしているうちに、体力がついたのかな。
 30分くらい走ったところで休む。城の壁にもたれかかって、水を飲む。冷たい水がほてった体に染みる。
「信也、走り方上手くなったな」
「そうか?」
 急に言われて、俺は首を傾げる。走り方を変えたつもりはないんだけど。
「無駄な力が抜けたって感じでさ。前は肩に力入ってて、こんな風に走ってたよな」
 兄貴が大げさに肩を上げて、走る真似をしてみせた。
「っ、そんな走り方してねえよ!」
 俺が半笑いでつかみかかると、兄貴もげらげら笑って応戦してきた。
 兄貴が俺を励まそうと、わざとふざけてるのが分かって嬉しかった。
 
 しょうもないじゃれあいの後、ふと思ったことを口にしてみる。
「あのさ、ノゾムの考えたパワーアップが上手くいったとして、それをユピテルモンが知ったらどんな反応するかな」
「昨日戦った時、俺達が勝てば引っくり返せるみたいなこと言ってたよな。新しい手段を考えたって知ったら、興味持つんじゃないか?」
 兄貴の意見にうなずきながら、自分の胸をさする。
「ユピテルモン自身の命が危なくなっても正々堂々と戦ってくるかな。もしそうなら、心臓の爆弾を心配しなくて良くなるんだけど」
  一番怖いのは、戦ってる最中に心臓をぶっ飛ばされることだ。ユピテルモンは倒したいけど、あっちが不利になった時に爆弾を利用するかもしれない。っていうか、俺がユピテルモンの立場だったら絶対そうする。
 俺の悩みに、兄貴が腕を組んでうーんとうなる。
「俺もユピテルモンのことはよく知らないからなあ。一番知ってそうなデジモンに聞いてみないか?」
 兄貴はそう言って、城を見上げた。
 
 
 
 ネプトゥーンモンの部屋に入ると、ユニモンが怒っていた。
「そんな体で動いても傷が開くだけです。アンブロシアも全部十闘士にあげたから、もうないんですよ。戦いは十闘士に任せて大人しく寝ていてください」
 ネプトゥーンモンが槍を杖にして立ち上がろうとしていた。治りかけてはいるけど、まだ包帯だらけだ。ネプトゥーンモンは部屋に入ってきた俺達に気づいて、不満そうにベッドに座り直した。
 兄貴がベッドに近づく。
「俺達が負けたのは……ごめん。でも、ユニモンの言う通り、そのケガじゃ戦うのは無理だ」
「十闘士の盾くらいにはなれる」
「ダメです。僕が許しません」
 ネプトゥーンモンの反論を、ユニモンがばっさり切り捨てた。
 ネプトゥーンモンがやっと諦めて、槍を床に置いた。改めて俺達に顔を向ける。
「何か聞きたいことでもあるのか」
 俺が戦いと心臓の爆弾の心配について話すと、ネプトゥーンモンはふむ、と考え込んだ。
「二人の言う通り、心臓の刻印はユピテルモンの有効手段だ。しかし、それは審判に負けた者への刑罰であって、戦いの手段ではない」
「つまり、俺が戦いに負けたって決まるまでは気にしなくていいってことか?」
 俺が聞くと、ネプトゥーンモンがうなずいた。
「狂ってしまったとはいえ、ユピテルモンの審判の方式に変わりはない。十闘士が勝つのならば、ユピテルモンは素直にそれを受け入れるだろう」
「そっか……良かった」
 俺は安心して深く息を吐いた。命を握られてるってことには変わりないんだけど、少し気が楽になった。
「ネプトゥーンモン、ありがとな。これで思いっきり戦える」
 俺がお礼を言うと、ユニモンが歯を見せて笑った。
「ほら、戦えなくたってネプトゥーンモン様はちゃんと役に立ってるんですよ」
「……そうか」
 ネプトゥーンモンはいまいち納得できていないような、不思議そうな顔をした。
 
 
 
 夜になっても、純平の体にはデジコードが浮かんだままで、意識も戻らない。エンジェモンとボコモン、ネーモン達が必死に看病してくれている。
 ノゾムとテイルモンも部屋に引きこもったままだ。スピリットを下手に動かすと、ノゾムの体が危険にさらされる。時間をかけて、慎重に進めているらしかった。
 自分の部屋に戻る途中で、窓から月を見上げる。三つの月の中で、今日は黄色の月だけが満月だ。
 その形を見て、ケーキみたいだな、と思った。丸い、バースデーケーキ。
 誕生日の朝、寝坊してベッドから飛び起きた。あの時は、サッカーの試合に行って、父さんが買ってくれた誕生日プレゼントを開けて、母さんが用意してくれたバースデーケーキを家族四人で食べる。そんな一日になると思っていたんだ。
 それが、デジタルワールドを知って、デジモンになって戦って、もうすぐ最後の戦いに挑もうとしている。こっちの世界に来てから何日経ったのかも、もう分からない。
 空の向こうの月と同じくらい、バースデーケーキを遠いものに感じる。
 父さん、母さん。
 心の中で呼びかけながら、黄色い月に手を伸ばす。
 俺、ユピテルモンとの戦いに勝って、兄貴と一緒にあの日の家に帰るから。
 だから、待ってて。
 
 
 
☆★☆★☆★
 
 

夜の展開をどう書くか迷って時間かかりました(汗) 短めですがキリがいいのでここまで。
1日経過。ユピテルモン襲来まで残り1日です。
AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:

 敵に完敗した後でも、心臓に爆弾を仕込まれていても、成長期の男子の腹は減る。
 部屋の机に置いてもらったカレーライスを、ノゾムと二人で食べる。コンソメスープもついていて、ノゾムは嬉しそうに飲んだ。
 純平の命が危ないって時に腹いっぱい食べるのは気が引ける。でも、悔しいけど俺に純平を助けることはできない。
 俺にできるのは、まず食べること。
 十二神族の世界から帰ってきてから、もう半日経っている。ユピテルモンが俺に残した時間はあと1日半。
 食べ終わったら、ユピテルモンに勝つ方法を考えること。そして心臓の刻印の問題を解決すること。
 最後の一口を飲み込む。
「むっ、げほっ」
 変なところに入ってむせた。ノゾムが慌てて水を渡してくれる。
「大丈夫、焦らないで」
 ノゾムに言われて、自分が焦って食べていたことに気づく。1日半なんて、たまった夏休みの宿題を片づけることさえできない。そんな時間で、俺の命とデジタルワールドを救う方法を考えるなんて。
 水を飲んで、深く息を吐く。ノゾムが俺の背中をさすってくれた。
「お皿は僕が台所に持っていく。信也は吐き気が収まるまで休んでて」
「ああ、ありがと」
 ノゾムが二人分の皿をお盆に乗せて、部屋を出ていった。俺はイスの背もたれにもたれかかって、吐き気がなくなるのを待つ。
 俺が落ち着いた後も、ノゾムは戻ってこなかった。
 この城に来るのは初めてだし、迷子になったかな。
 俺は探しに行こうと立ち上がって、ベッド横に置いたデジヴァイスを取りに行った。
 伸ばした指が、途中で止まる。
 
 デジヴァイスがない。
 
 床に落としたのか、と思ってベッドの下ものぞいてみるけど、ない。
 ノゾムと話した後、確かにここに置いたはずだ。
 あの後、この部屋に来たのは食事を持ってきたデジモンだけ。でも、ベッドには近づいていない。
 ってことは……ノゾムが俺に黙って持っていった?
 嫌な予感がする。すぐに部屋を出て、ノゾムを探しに走った。
 城を出てはいないはずだ。襲撃に備えて入り口は全部閉められている。
 廊下を走り、ドアを片っ端から開けていく。
「信也!」
 兄貴の声に、足を止めて振り返る。
 兄貴がノゾムを背負っている。ノゾムはぐったりとして、肩で息をしている。
 はっと息をのんで駆け寄る。ノゾムの顔は青白く、汗をかいている。
「ノゾム! どうしてこんな」
「俺もたまたまドアの開いた部屋で見つけただけで、よく分からない。とりあえずお前の部屋に運ぶから、テイルモン呼んできてくれ」
 兄貴に言われて、俺はすぐさま廊下を走った。
 
 
 
 手当てをしてすぐに、ノゾムは目を覚ました。まだ顔色は悪いけど、とりあえずベッドで体を起こせるようになった。
 テイルモンがノゾムの胸に手をかざしている。
「胸の中心辺りにケガをしていました。それも、内側から圧迫されたような傷つき方です」
 その言葉に、ノゾムが気まずそうに視線をそらす。
 俺の手にはノゾムから回収したデジヴァイスがある。それをノゾムに見せる。
「俺のデジヴァイスで何しようとしたんだ?」
「…………」
「お前がケガをして倒れたことと関係あるんだろ?」
 ノゾムがしかめ面をした。
「信也が気にすることじゃないから」
「お前なっ! 意地張ってる場合じゃないだろ!」
 カッとなってベッドを叩く。こっちは心配してるってのに。
 ノゾムが肩をすくめながらにらみ返してくる。二人の間で火花が散る。
「ぷっ、あはははっ!」
 急に兄貴が噴き出して、俺はぽかんと兄貴を見た。ノゾムも笑い転げる兄貴を見て戸惑っている。
「いや、ノゾムって本当に信也に似てきたなと思ってさ。悪いとこばっか似てるよなあ」
 なぜか嬉しそうに俺とノゾムの頭をつかんで、わしゃわしゃとなでてきた。笑顔で言われてるけど、こっちは全然嬉しくねえ。
 でも、おかげでイライラがどこかにいった。
 兄貴が改めてノゾムの顔を見る。
「信也のためなんだろ」
 優しい言い方に、ノゾムはうつむいて、でもはっきりとうなずいた。
「信也は僕のこと励ましてくれたけど、本当はこのままじゃユピテルモンに勝てないってこと分かってる。だから、僕がスーリヤモンを強くする」
「強くって、どうやって」
 俺が聞くと、ノゾムが自分の胸に手を当てた。
「僕の中にあるスピリットには、信也をプルートモンに進化させられるだけの力がある。でも僕の体が邪魔になって、力が信也まで届いてない。だから、スピリットをできるだけ体の表面に引き寄せる」
 テイルモンが俺のデジヴァイスに目をやって、うなずいた。
「確かに、デジヴァイスにはスピリットを引き寄せる力があります。信也さんのデジヴァイスをノゾムさんの胸に当てれば、体の中のスピリットを移動させられる」
「そんなの無茶だ」
 俺にだって分かる。人間でいうと、心臓を移動させるってことだ。肋骨とか肺とかにぶつかって、傷つく。ぶっ倒れて当たり前だ。
 俺が顔をしかめても、ノゾムの目は変わらなかった。真剣で、頑固な目。
「でも、俺が止めても諦めない、よな」
 ふっと笑うと、ノゾムもにやりと笑った。
「信也の相棒だから、ね」
 兄貴が仕方なさそうに首を振った。
「だってさ、テイルモン。ノゾムの体を傷つけずに、スピリットを移動させられるか?」
「ノゾムさんの体はデジモンと違うので上手くいくか分かりませんが……」
 テイルモンの言葉を聞いて、一つ思い出した。
「そうだ、前に異世界に行った時に、ノゾムと俺の体を調べてもらったことがあるんだ」
 ポケットから、バンドのちぎれた通信機を出す。旅の途中でなくしてしまったのを、友樹が見つけてくれていた。バンドは切れたけど、機械の方は無事だった。
 中には調べてもらった結果が保存されている。俺が見ても難しくて分からないけど、テイルモンがノゾムの構造を考えるのに役に立つかもしれない。
 よし、と兄貴が膝を叩いて立ち上がった。
「スピリットのことはノゾムとテイルモンに任せる。俺はあんまり休んでても体がなまるし、ちょっと城の周り走ってくるよ」
「俺も行く。心臓の刻印のことも、気分転換したら何か思いつくかもしれないし」
 最後の戦いに備えて、少しでも自分にできることをする。
 そのために、俺は兄貴を追って部屋を出た。
 
 
 
☆★☆★☆★
 
 
 
レポや感想書いたり、体調崩し気味だったりして小説投稿の間が空いてしまいました(汗)お待たせして申し訳ない。

時々アクセス解析を見ていると、「一気読みしてくれた方がいるのかな?」と思う時があり、嬉しくなります。頑張ります。

AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:

 目を覚ますと、俺はベッドに寝かされていた。
 枕に頭を乗せたまま、周りを見る。虹色の水晶の壁だから、エンジェモンの城か。客室に俺一人だ。ベッド脇の机には俺のデジヴァイスが置いてある。
 ぼうっとしながら、自分の左ももを触る。ユピテルモンに神剣を刺され、えぐられた場所。傷どころかカサブタもない。痛みもない。
 上半身を起こして、他にもケガがないか確認する。
 手足にも擦り傷一つない。取り込んだデジコードが、完璧に癒してくれている。
 全然嬉しくねえ。
 俺は深いため息をついた。
 それで初めて、胸に引きつれを感じた。
 思い出した。俺の記憶が間違いじゃなければ、ユピテルモンに刻印を押されたはずだ。シャツを脱いで、胸をむきだしにする。
 胸の中心から少し左にずれたところに、赤みがかかったやけどの跡があった。俺のこぶしくらいの大きさで、円の中に×印がついている。ユピテルモンのハンマーと同じ模様だ。
 やけどの跡を、指でなでる。少しかゆみを感じた。
 いや、肌だけじゃない。この刻印は心臓に打ち込まれてるはずだ。ユピテルモンの意志ひとつで心臓を蒸発させるために。

 「目覚めたようですね」
 顔を上げると、テイルモンが部屋に入ってきていた。
「テイルモン、どうしてここに?」
「エンジェモンから連絡が入りました。十闘士の治療のため、手を貸してほしいと」
「純平は、無事なのか!? ノゾムは、友樹達は!?」
 思わずベッドから降りかける。それをテイルモンが両手で押し留めた。
「落ち着いてください。順番に話します」
 俺がベッドに座り直すと、テイルモンが横に飛び乗った。手を俺の胸にかざし、具合をみている。そうしながら話し出した。
「まず、拓也さん、輝一さん、泉さんは傷が浅かったため、手当だけして休んでもらっています」
「信也!」
 ノゾムが部屋に駆け込んできた。俺の顔を見てほっとした表情になる。
「信也が起きたって、聞いて来た」
「ああ。ノゾムも元気そうで良かった」
 俺が小さく笑うと、ノゾムも笑顔を見せた。
「ユニモンが最後に残っていたアンブロシアをくれた。輝二さんも友樹さんも、食べたら良くなった」
 ノゾムの言葉を聞いて、俺は顔がこわばった。まだ、純平の名前が出てこない。
 俺の反応を見て、ノゾムが話すのをためらう。
 テイルモンが代わりに口を開いた。
「純平さんは、生きています。ただ、デジコードが体に浮かんだままで、予断を許さない状況です。エンジェモンがつきっきりで看ています」
 まだ死んでないだけまし、か。
 俺のせいだ。俺がデジコードを吸収する力を抑えきれなかったから。
 うつむいて、こぶしを強く握りしめる。
 擦り傷くらい俺にはなんてことないのに、そんな軽いダメージまで俺は純平に押しつけた。
 俺のこぶしを、テイルモンの手が優しく包んだ。
「あなたのせいではありません。あなたの持っている力自体は悪ではない」
 テイルモンの言葉に、ノゾムも大きくうなずく。
「悪いのは、信也を利用したユピテルモンだから。それに、信也は自分の体の心配もしないと……どう?」
 ノゾムが聞くと、テイルモンが俺とノゾムの顔を交互に見た。
「刻印は確かにコア――心臓の表面に達しています。信也さんが動いたり戦ったりする分には問題ありませんが、外部からの命令で高圧電流が流れ、心臓を焼く仕組みになっています」
 ユピテルモンの言っていた通りってわけか。
「なあ、取り除くことはできないのか?」
 俺の質問には、ノゾムが答える。
「ネプトゥーンモンに聞いたけど、刻印を消そうとすれば発動するって言われた。傷じゃないから、アンブロシアを食べても治せないって」
「結局、ユピテルモンに発動される前に倒すしかないのか」
 つぶやいて、ため息をつく。
 それに対して、テイルモンが力強い言葉をかけてくる。
「まだ手はあります。十闘士のスピリットを全て合わせることで生まれるスサノオモン。あの力でなら、ユピテルモンを倒せるはずです。だからあなたは、ユピテルモンに刻印を発動されることのないように隠れていてください」
 俺は反射的に、ふっと笑った。
「俺は隠れたりしない。スーリヤモンの力で、あいつを倒すって決めてるからな」
「しかし、ユピテルモンが刻印を発動させたら、あなたの命もそれまでです!」
 テイルモンの反論に負けず、俺は話し続ける。
「分かってるよ。でも、どこにいても敵に命を握られてるのは変わらない。だったら行動する方が、戦う方がましだ」
 俺が不敵に笑うと、テイルモンは呆れたように首を振った。
「さすがです。こんな状況でも、あなたの決心は揺るがないようですね」
 テイルモンは、食事を運ばせます、と言って部屋を出ていった。

 ドアが閉まってすぐ、無理して作ってた笑顔が崩れた。
「揺らぐさ、俺だって」
 ノゾムが心配そうに俺の横に座った。
「ごめん、ノゾム。でも俺、初めて……戦うのが恐くなった」
 相棒と二人だけになって、本音が出た。胸の刻印を何度もさする。
「デジタルワールドに来て、数えきれないくらい戦ってきたし、危ない目にも遭ってきた。でも今回の戦いで仲間を殺しかけて、自分も死にそうなくらい痛くて、心臓に爆弾みたいなの仕掛けられて。仲間が、俺が死ぬかもしれないって思ったら、すごく恐い」
 刻印に触れる指が震えている。左ももに剣を刺された時の痛みがフラッシュバックする。
 戦うってことは、命を危険にさらすってこと。敵はたくさん倒してきたのに、自分や仲間の命も危ないんだって当たり前のことに気づいてなかった。いや、気づいてはいたけど、実感してなかった。
 ノゾムが自分の胸に左手を当てた。右手で机からデジヴァイスを取り、俺に手渡す。
「……信也が使いたいのなら、使ってもいいんだよ。僕のスピリットの、プルートモンの力。それなら勝てる」
「っ! 使えるわけないだろ。ノゾムだって、死なせたくない仲間の一人なんだから」
 弱音を吐いたことを後悔した。恐いのはノゾムも同じだ。
「悪い、弱気なこと言って。ユピテルモンがどれだけ強くても、俺達がやることは変わらない。スサノオモンとスーリヤモンでユピテルモンを倒す。ノゾムの命を引き換えにするプルートモンは使わない。そう決めたんだからやりきるだけだ!」
 明るく言ってノゾムの肩を叩く。
 でもノゾムはじっと俺の目を見つめたまま、「うん……」とつぶやいただけだった。
 俺自身が俺の言葉を信じられてないんだから、当たり前か。
 ノゾムに渡されたデジヴァイスを、俺は静かに机に戻した。



☆★☆★☆★
 
 
 
 ここから最終戦までは純シリアスの予定です。

AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:
 俺を見下ろすユピテルモンをにらんだ。そうやって、神剣の刺さっている自分のももから必死に意識をそらす。
「誰が……お前なんかの……言いなりに、なるかよ……」
 歯の隙間から言葉を絞り出す。デジコードを吸収しないように、スーリヤモンのスピリットに必死に念じる。
 ユピテルモンは残念そうに息を吐いた。神剣を握る手をひねり、無造作に俺のももをえぐる。 
「つああああっ! ぐっっがあっ!」
 視界が真っ白になった。
 遠くで兄貴達が戦う音も、全て俺の絶叫にかき消される。
 えぐられるもも。
 自分の叫び。
 その刺激だけで、頭が、破裂しそうだ。

「ぐあああああっ!」
 俺の耳に音が割り込んできた。
 この音は、背中の下から聞こえてくる。俺は、どこにいるんだっけ、そうだ、ライノカブテリモンの上に倒れてるんだ。
 これは、ライノカブテリモンの声?
 焦点の合わない目を、自分のももに向ける。
 傷口にデジコードが流れ込んでいる。噴水を逆回しにしたように、吹き上がったデジコードが傷口になだれ込み、傷を癒していく。
 ライノカブテリモンの体をボロボロと崩し、デジコードに変えて。
「っ! やめ――」
 俺が体を起こすより速く、ユピテルモンが神剣をねじった。何度目か分からない激痛に、俺は再びうめき、倒れる。 

 新しい傷をデジコードが塞ぎ、また神剣がえぐり、できた傷をデジコードが塞ぐ。

 悪夢の無限ループに、もがく体力も、叫ぶ気力も失われていく。

 体がぐらりと傾いた。ライノカブテリモンの進化が解けた。俺もライノカブテリモンの背から落ちて、地面に打ちつけられる。
 体がデジコードに包まれ、俺の進化も解けた。俺の横に、ノゾムが転げ落ちる。
 そこでようやく、ももから神剣が抜けたことに気づいた。さっき、落ちた時に抜けたのか。
 事態は何も良くなっていないのに、ほっと気が抜けてしまった。体がすごく重い。
 ノゾム、純平。
 ノゾムに手を伸ばしたいのに、指一本動かす力も残っていない。
 純平の状況を確認したいのに、頭を起こすこともできない。
 誰かが近づいてくる気配がした。俺の視界に金色の鎧が現れる。
 ユピテルモンの声が頭上から降ってくる。
「第二審議の判決を申し渡す。お前は雷の闘士に神罰を与える役目を果たした。また、ここで死なすには惜しい能力の持ち主だ。よって執行猶予を与える」
 ユピテルモンはハンマーを縦向きに振り上げ、俺の胸に振り下ろした。
 電流が走り、体が勝手に跳ね上がった。
 痛かった、と思う。もう感覚が麻痺して分からない。胸が熱い、とだけ感じる。
  虚ろな目で、ユピテルモンの目を見上げる。感情のない、赤いY字の目。
「心臓に雷の刻印を打ち込んだ。私の意志一つで刻印は発動し、大電流でお前の心臓を跡形もなく蒸発させる」
 そうなったら、俺、死ぬな。
 意識の飛びかけた頭で、それだけは理解する。
「プルートモンになる道を選ぶか、なおも私に逆らって死ぬ道を選ぶか。丸二日考える時間を与えよう。賢明な判断を期待している」
 ユピテルモンの姿が視界から消える。
 入れ替わりに、兄貴が俺を呼ぶ声が近づいてきた。
「信也! しっかりしろ!」
 俺の体は担ぎ上げられて、運ばれていく。
「純平! ……駄目だ、意識がない」
 輝一の焦ったつぶやき。
 慌ただしい足音。ボコモンとネーモンが声を張る。
「これで全員車両に乗ったぞい!」
「発車して~!」
 トレイルモンが動き出してすぐに、俺は意識を失った。
 
 

☆★☆★☆★
 
 
 
お待たせいたしました。短めですが、敗北による逃走で一区切りです。

星流は小説を書く時、主人公の五感や感情をイメージして、自分が感じた感覚を文字化しています。時には、部屋の中で実際に動いてみたり、考えているセリフを言ったりします。傍から見たら間違いなく変人です(苦笑)
今回の話を書いた直後、左ももが上手く動かせなくなりました。痛い痛いと思っていると、本当に体に影響出るんですね……。(今はもう大丈夫です)
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

テーマ:
 俺が振り下ろした剣を、ユピテルモンの左のハンマーが打ち払った。
 間髪入れず、右のハンマーが俺の腹に打ち込まれる。
 猛烈な吐き気と共に、背後に吹き飛ばされた。翼を広げて踏みとどまる。
「お前を……絶対倒すっ」
 友樹と輝二は俺よりもずっと深い傷を受けたんだ。
 この程度でひるむもんか。
 神剣を両手で握り、再びユピテルモン目がけて飛ぶ。
 
 突然、右肩が軽くなった。 
 
 はっと止まって、すぐさま眼下の虚空を見る。俺の目に、真っ暗な空間に落ちていくノゾムが映った。
 俺が激しく動いたせいか? いや、直前までちゃんと座っていたはずだ。
 混乱しながらも、その姿を追って一気に降下する。翼をすぼめ、精一杯手を伸ばす。
 近づくにつれて、ノゾムの表情が分かるようになった。戦場の真っただ中で俺と離れたのに、不思議と焦りはなく、少し怒ったような顔。
 その背後に雷が閃いた。
「っ!」
 ノゾムをひっつかんで、すぐさま右に軌道を変える。
 俺がきりもみ落下する横を、雷が飛び過ぎた。
 体勢を整えて、そっと手を開く。ノゾムは手のひらに座っていて、落ち着いた顔で俺を見上げた。
 その態度に俺は直感した。
「まさかお前、わざと飛び降りたのか」
 ノゾムがこくりと頷く。
「信也を一度落ち着かせるにはこれしかなかった。僕が危険になったら、必ず助けにきてくれると思った」
 痛いところを突かれて、俺は言葉に詰まる。黙ってノゾムを右肩に戻して、戦場に戻る。
 その耳元で、ノゾムが俺に言い聞かせた。
「すぐにかっとなるのが信也の悪いところ。仲間が傷ついた時ほど落ち着いて。作戦が崩れたら、この戦い勝てなくなる」
「ああ。今ので頭が冷えた」
 ついでに言うなら肝も冷えた。仲間を失いたくなかったら、冷静さを失うなってことだ。
 
 ライノカブテリモンが積極的にユピテルモンの周りを飛び回り、角からレーザーを浴びせている。《コンデンサストーム》だと敵にエネルギー吸収されてしまう。それなら、吸収されない程度の微弱な電気でバリアを乱そうってことか。
 兄貴はレーザーに巻き込まれないよう適度に距離をとって、ユピテルモンにレーザーが当たるとすぐに《ブラフマストラ》の連射を浴びせる。バリアの隙を突いた熱線が、少しずつ敵の鎧を削っている。ユピテルモンはライノカブテリモンと兄貴に気を取られて、俺に背を向けている。
 攻めるなら今だ。
 気づかれないように空中のがれきを飛び移り、神剣アパラージタに炎を溜める。
 最後のがれきの裏に隠れ、タイミングをうかがう。
「《サンダーレーザー》!」
 ライノカブテリモンの渾身の一発がユピテルモンに当たった。体を覆うバリアが消える。
 俺はがれきを踏み台に跳んだ。奴の右肩目がけて、神剣を振り下ろす。
「《トリ…シューラ》!」
 熱い切っ先が、鎧を溶かし食い込んだ。全力を込めて、右肩から左脇まで切り裂いた。
 ユピテルモンがよろめいた。振り返り、赤いY字の目が俺を捉える。
 が、奴が動くより速く、突風と赤い光線が追い打ちをかけた。
「ジェットシルフィーモン!」
「ライヒモン!」
 ライノカブテリモンと兄貴が攻撃が上空を見上げる。上空の二人が俺達を見て、頷くのが見えた。雷雲を引きつけるのに慣れてきたのか、俺達を援護する余裕が生まれている。
 俺は剣を握り直し、ユピテルモンに向き直る。こっちの態勢は立て直した。
 一方のユピテルモンは、首を回して俺達全員の様子を眺めた。背中の傷は痛むはずだが、俺達を観察する目は淡々としている。
 観察を終えると、低い声で宣言した。
「第一審議……十闘士勝利により、無罪とする。続いて第二審議に入る」
「はぁっ?」
 俺の戸惑った声には構わず、ユピテルモンが両手のハンマーを打ち合わせた。裁判官が机を打つ時のような、よく響く音がした。
 その響きに反応して、ライヒモンとジェットシルフィーモンを追っていた雷雲が突如動きを止めた。五つ全てが横に伸びていき、分裂した。
「嘘だろ……っ!」
 唖然とする間もなく、ユピテルモンが殴りかかってきた。必死に剣で受け流そうとする。けど、さっきより動きが断然早い。
「まさか、今まで手を抜いてた!?」
 ノゾムの声にユピテルモンが答える。
「私の戦いはすなわち審議。戦いぶりをもって罪の有無を判断する。被告が何の戦いぶりも見せずに倒れてしまっては審議ができぬ。故に、私は被告の戦闘力に見合った力で戦う」
「俺達は第一段階クリアってことか。そりゃ光栄だな!」
 俺は皮肉を言いながら剣を振り上げる。
 その手を、ユピテルモンのハンマーが殴った。
「ぐっ」
 俺の手から神剣が落ちる。
 ユピテルモンがそれをつかみ、剣の柄で俺のこめかみを打った。
 頭が揺れて、意識が一瞬飛んだ。
 
 気づいた時には、仰向けに倒れていた。
「大丈夫か、スーリヤモン!」
 ライノカブテリモンの声が下から聞こえた。どうやら、ライノカブテリモンの背中で受け止めてくれたらしい。
「きゃああっ!」
 悲鳴に顔を上げると、ジェットシルフィーモンが落ちていくのが見えた。デジコードに包まれ、泉の姿に戻る。上空は雲から放たれる雷で埋め尽くされている。これだけの攻撃に対処するなんて、ムリだ。
 泉が離脱したことで、雷雲の一部が兄貴を狙い始めた。ライヒモンは自分の身を守るのに精いっぱいで、兄貴のフォローに回れなくなっている。
 そして、止める者のいなくなったユピテルモンが、白いマントをなびかせて俺に迫っていた。その右手には、神剣アパラージタを握っている。
「俺の剣……返せ!」
 返答の代わりに、ユピテルモンがハンマーを投げた。連続して2本。1本は俺の胸に、もう1本はライノカブテリモンの背中に当たった。電流が俺の全身を駆け巡り、焼き焦がす。
「うあああっ!」
 俺と、ノゾムと、ライノカブテリモンの悲鳴が重なった。
 電流が収まり、俺はどうにか息を吐いた。
 直後に、ユピテルモンが俺の左ももに神剣を突き刺した。
「ぐっ……つっ!」
 ももの筋肉が微かに動くだけでも痛みでめまいがする。敵が目の前にいるのに、電流のダメージとももの痛みで動けない。
「スーリヤモン! しっかり、しろ!」
 ライノカブテリモンの苦しげな声が聞こえる。雷の闘士だけに、まだダメージが少ないか。
 でも、俺とユピテルモンが背中の上にいるせいで、ライノカブテリモンは下手に動けない。
 神剣の柄を握ったまま、ユピテルモンがライノカブテリモンの顔の方に目を向ける。
「ライノカブテリモン、電気の扱いなら負けないと言ったな。お前が雷の闘士なら、私は天空を統べる神。雷も天候も、全て私の手中にある」
 ユピテルモンが俺の足に刺した神剣をねじった。脳天まで突き抜ける痛みに、俺は絶叫する。
「ぐあああっ!」
 頭の奥で、ドクンと何かが脈打った。
 スーリヤモンの体が、デジコードを求めている。
 ダメだ。今データを吸収する力が働いたら、俺の下にいるライノカブテリモンを吸収してしまう。
「やめて……これ以上、信也を」
 ノゾムの言葉はユピテルモンに殴られて途切れた。俺の胸の上に、気絶したノゾムが倒れる。
 どうせ吸収してしまうのなら、ユピテルモンのデータを。
 そう思って伸ばした右手から、ユピテルモンは足を遠ざけた。
「スーリヤモン、私の判断に抗い続けた罰だ。お前の手で、雷の闘士に刑を与えろ」
 
 
 
☆★☆★☆★
 
 
 
「デジモンフロンティア」の二次創作である以上、ラスボスに一発で勝てるほど甘くするつもりはありません。
ただ自分で書いてて、少し過酷すぎるかな、と思わなくはないです(汗)今回もまあ過酷なんですが、しんどさのMAXはここじゃないので……。
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。