第178話 8方向のベクトル! 拓也・泉・純平・輝二 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 信也とノゾムと合流した俺達は、木のエリアにあるエンジェモンの城に移動した。
 本当は土のエリアにあるトゥルイエモンの城の方が近かったけど、あの城はディアナモンが連れてきた避難民の対応で忙しい。
 厄介ごとを抱え込んだ俺達が行っても、トゥルイエモンを余計に困らせるだけだ。
 俺は夕飯の皿が下げられた食堂を見回した。席には俺とボコモン、ネーモンしか残っていない。虹色にきらめく壁も、なんだかくすんで見える。
 やっと信也と再会できたのに、今日の夕飯は俺の人生で最悪の時間だった。
 会話はなし。みんな気まずそうにうつむいて、端に座っているノゾムをちらっと見てはすぐに視線をそらした。食べ終わった後は、眠いとか散歩に行くとか、適当な理由を言って急いで出ていった。
 信也はともかく、ノゾムと顔を合わせているのがきつい。
 その気持ちは、俺にも分からなくはない。
「拓也はんは、ノゾムはんを信用できるハラ?」
 ボコモンが急に質問を投げてきた。直球ど真ん中の質問に、俺はどう答えるか迷った。
「ボコモンはどう思ってるんだ?」
 逆に聞き返すと、ボコモンは顔をしかめて腕組みした。
「怖い、というのが正直なところじゃマキ。一度デジタルワールドを壊滅に追いやったデジモンのデータが使われてるんじゃからな。そばに置いて後ろから刺されたら、わしやネーモンなんかひとたまりもないわい」
「うんうん」
 横でネーモンも頷いている。
 やっぱり、そうだよな。
「でも俺は、ノゾムとルーチェモンは別人だと思ってる」
 賛成してもらえないのは分かった上で、俺は自分の意見を口にした。
「初めて顔を合わせた時、ノゾムは俺達を警戒してたけど、敵意や威圧感はなかった。だから俺は、このままノゾムをここに置いてもいいと思う」
 俺個人の意見だけどさ、と最後に付け加えた。ボコモンとネーモンは納得できないのか首を傾げている。
 俺は信也の兄弟だから、自分の弟が信じてほしいと訴えることを信じたいと思ってる。でも、他のみんながどう感じるかは分からない。まだ心の整理ができてない部分もあるだろう。
「部屋の方、見てくるよ」
 ボコモン達に声をかけて、俺は食堂を出た。
 客室へ歩いていくと、廊下に泉が立っていた。窓から夜の森を見下ろしている。
「泉、散歩に行くとか言ってなかったか?」
 俺が声をかけると、泉は困ったように苦笑した。
「うん。お城の中を歩いてたんだけど、色々考えてたら足が止まっちゃって」
「そっか」
 俺がどう聞くか考えている間に、泉の方から切り出してきた。
「私はあの子と友達になれたらいいなって思ってるの」
 そう言うわりに、泉の表情は固い。
「この戦いの中で、いろんな別れがあった。最初はフェアリモンがスピリットに戻された。信也が行方不明になった。ディアナモンとは立場を越えて分かり合えたのに、守れなかった。だから助けを必要としてる相手が目の前にいるなら、私は手を貸してあげたい」
 甘いかな、と言って泉は苦笑した。
「俺はいいと思うぜ。友達が増えればノゾムも喜ぶだろうし」
Grazie グラッチェ (ありがとう)。そうする。話したら元気出てきたわ」
 もう少し散歩してくる、という泉と別れて、俺は客室の方へ歩き出した。

 
―――
 
 
 
 私が階段を上がると、くしゃみが聞こえた。
 純平だ。今日は冷えてるのに、テラスに出てじっと下を見ている。
「何やってるの? 風邪ひくわよ」
「あ、泉ちゃん」
 純平は振り返って、気まずそうにまた視線を戻した。
 横に並んで純平の視線の先を見る。下の階の客室のドア。
 私達が貸してもらっている部屋だ。
「! まさか純平、私のこと見張ってたんじゃ」
「なっ、ち、違うよ泉ちゃんじゃないって!」
 息を飲む私に、純平は大慌てでぶんぶん両手を振った。
「私じゃないなら誰目当てなのよ!」
「だからそういうんじゃなくて! ノゾムが変な行動しないか気になって監視してたんだ」
 純平がどうにか真面目な顔をとりつくろった。
「純平は、ノゾムを疑ってるのね」
「怪しいところだらけだろ。ユピテルモンが作ったとか、ルーチェモンのデータでできてるとか、世界を壊せるスピリットが埋め込んであるとか。ここで実は俺達の首を絞める命令も受けてました、って言われても俺は驚かないよ」
 純平の考えることも間違ってない。私達がノゾムを信じる理由は、信也がノゾムを信じているから、ただそれだけ。何の根拠もない。
「この城から追い出せとは言わないけどさ。できればあいつの部屋に鍵をかけておきたいよ」
「信也は反対するわよ、絶対」
「あいつ頑固だからな。だけど、俺は年長者だからみんなの安全を考えなきゃいけないんだ。何かあってからじゃ遅いんだから」
 純平が大きいくしゃみをした。
「風邪をひいてから後悔しても遅いわよ。まだ見張っていたいなら、毛布持ってきてあげる」
 頑固なのは信也も純平も同じね。こっそり呆れながら、私は毛布を取りに向かった。
 
 
 
―――
 
 
 
 泉ちゃんの言う通り、毛布くらいあった方がいいかも。
 俺はまくっていたワイシャツの袖を戻して、両腕をさすった。
 と、客室のドアが開いた。輝二が急ぎ足で出てきた。どこかに向かおうとしている。
 俺は階段を駆け下りて、輝二を呼び止めた。
「何かあったのか?」
「さっきデジヴァイスに、ユニモンから通信があった」
「本当か!?」
 十二神族側から寝返ってくれたデジモンだっけ。正直、あんまり連絡がないから忘れてた。
「とりあえず、生きてるらしい。でもだいぶ参ってて、動ける状態じゃないというか、動かせる状態じゃないとか言ってた。とにかく迎えに行ってくる」
「一人でいいのか?」
 俺が聞くと、輝二は首を横に振った。
「いい」
 輝二は一度言葉を切って、背後の客室の方を振り返った。
「もしこっちで何かあっても困るからな」
 輝二が何を心配しているのか、すぐに察しがついた。
「あいつか。一応、今晩は俺が見張っとくよ」
 俺の言葉に、輝二も真剣な顔で頷いた。
「頼む。しおらしい顔してたって、腹の中で何考えてるか分からないからな。……俺は、ルーチェモンが輝一を吸収した時のことを、今でも忘れていない」
 最後は独り言のようにつぶやいて、輝二は早足で歩いていった。
 
 
 
―――
 
 
 
 夕食の席で、黙り込む俺に対して信也と拓也は不満そうな顔をしていた。
 お前達兄弟と違って、俺は単純に考えられる人間じゃない。あれは敵が送り込んできた人形なんだ。仲間扱いなんかできるか。
 考え事に気を取られて、玄関の戸が向こう側から開いたのに一瞬気づかなかった。
「あれ、輝二。今から出かけるの?」
 驚いて目を丸くする輝一。俺の険しい表情を見て、怪訝そうな顔をした。
 俺は笑ってその場をとりつくろう。
「ユニモンから通信が入ったから、迎えに行ってくる。闇のエリアの結界を安定させるのに時間がかかったから、疲れてるだろ。厨房に夕飯とっておいてくれてるぜ」
「うん……」
 頷きながらも、輝一は俺の顔から視線をそらさない。
「輝二が出かけている間に、ノゾムが何かしでかすんじゃないかって心配してるのか?」
 図星を突かれて俺はひるんだ。
「っ、何も言ってないだろ」
「今一番の心配事なんてそれに決まってるじゃないか」
 そう言われて、自分の視野が狭まっていたことに気づく。
 確かに俺は警戒しすぎている。だけど。
「帰ってきた時に、仲間達が倒されていたらって思うと……怖いんだ」
 つい本音がこぼれた。信也がどれだけ熱心に訴えてきても、この気持ちは拭い去れない。俺は2年前、それくらい怖い思いをしたんだ。
「大丈夫だよ。気をつける。だから安心して行ってきて」
 輝一に逆に励まされてしまった。
 城を出るのは気が進まないけど、ユニモンも放っておけない。
 すぐ戻るから、と声をかけて、ターミナルに続く階段を駆け下りた。
 

 
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第三部スタートです。第一部の最初は神原兄弟のケンカ、第二部の最初は信也の放浪、第三部の最初はノゾムの処遇に意見の割れる子ども達。どうやら星流は重い展開から始めるのが好きらしいです←他人事のように
どうにか今年中にもう一回更新しようと思って、どうにか間に合いました。

今年のブログ更新はこれで最後になります。コメント返信は引き続き行います。 
最後にクリスマスということでこちら。

コップのふちロップモンをどうにか完成させて、テリアモンとロップモンのマジパン(偽)ケーキにしてみました。モノは紙粘土なのでケーキに付かないようにラップを敷いて防御しています。

この写真が撮りたくて抹茶シフォンとガトーショコラを買ったのであって、別に一個だけケーキを買うのが嫌で見栄を張ったわけではないですから、念のため!←

あと、ロップモンの顔の造形が若干失敗してるのもツッコまない方向でお願いします。かわいくできたんですが、なんかロップモンっぽくない……。

 

それでは。今年1年ありがとうございました! 皆様よいお年をっ。