第181話 さまよいの果てに! 人魚姫の守り | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

  朝ごはんの席に輝二だけは現れなかった。昨日のうちにユニモンから緊急連絡があって、一人で迎えに行ったらしい。
 城を出る前に声かけていけよ……なんて、俺が言えたセリフじゃないか。

 朝ごはんが終わってすぐに、兄貴のデジヴァイスが目覚ましのような電子音を立てた。
 兄貴がデジヴァイスを手に取ると、輝二からの通信がつながった。
『今すぐに大型デジモン向けの客室に移動してくれ。そこでゲートを開いてほしい』
「何があったんだ?」
 聞き返しながらも、兄貴は素早く席を立って、客室に走る。俺達も後を追う。
『詳しいことは俺もまだ聞いてない。とにかく重傷のデジモンを連れて帰るから、エンジェモンも呼んでくれ』
「もういますよ」
 エンジェモンが答えながら、俺達の頭上を飛んで先行する。そのまま大型デジモン向けの、俺の4倍サイズの扉の解除スイッチに触れる。
 扉が自動的に開いて、俺達は中に駆け込んだ。
 中には俺達全員が寝転がれそうな巨大なベッド。掃除をするデジモンの労力を考えて、高さは俺達の使うベッドと変わらない。
 そのベッドに兄貴がデジヴァイスを向ける。
 スキャナから普段より細いデジコードが流れ出す。
 両開きの白い扉が出来上がり、強い光を放つ。
 その光が収まると、ベッドの上に横たわる巨大なデジモンと、その体に浮かぶデジコードが目に入った。
 体長は6メートルくらい。魚の頭に水かきのついた手足と、魚が人間の姿になったようなデジモンだった。全身には赤いやけどが木の枝のように広がっている。まとっている鱗の鎧は半分以上が砕けていて、激しい戦いがあったと分かる。
 そばには白い馬のデジモンが寄り添っている。
 輝二が素早くベッドから降りて、エンジェモンに声をかける。
「ユピテルモンの雷にやられたらしい。ユニモンによると、生きているのが不思議なくらいのダメージだって。すぐに手当てしてやってくれ」
「分かりました」
 エンジェモンがケガを診て、城のデジモンを呼び指示を出す。静かだった城は急に騒がしくなった。
 俺達は寄り添っていたデジモンを引き離し、邪魔にならないように部屋を出た。
 
 兄貴と輝二から紹介されて、ケガをしていたデジモンがオリンポス十二神族の一体のネプトゥーンモン、馬デジモンが部下のユニモンだってことが分かった。
 彼らは俺達と十二神族の戦いを止めようとしていて、兄貴と輝二のことも助けてくれたんだって。
 ユニモンのために食事が用意されたけど、ユニモンは一口も食べなかった。
「僕がネプトゥーンモン様を見つけた時には、虚空の土地の断片に引っかかって気を失っていました。ケガもひどくて、僕の手当てじゃどうにもならなくて。それで、こっちの世界の拓也さんや輝二さんなら、ネプトゥーンモン様を助けてくれるんじゃないかと思って……」
 床に伏せたままのユニモンの背を、兄貴が軽く叩く。
「心配するな、ユニモン。ここは元三大天使のいる城だ。この世界でも一流の腕のデジモンがいる。だからネプトゥーンモンも助かる」
 兄貴の励ましに、ユニモンはうつむいたまま頷いた。
 俺は改めてユピテルモンの危険さを噛みしめていた。
 今まで分身とは何度も戦ってきた。でも今日のネプトゥーンモンのケガを見て、ユピテルモン本体の攻撃の威力を感じた。同等であるはずの十二神族にあれだけのダメージを与えられる。これまで戦ってきた十二神族や分身とは格が違う。
 俺は黙ってこぶしを握りしめる。
 びびっていられるか。倒すんだ、絶対に。
 あいつは十闘士の世界を滅ぼそうとしているだけじゃない。自分の治めていた世界を壊して、今もネプトゥーンモンやユニモンを苦しめている。
 ユニモン達のような生き残ったデジモンを守るためにも、ユピテルモンには勝たなきゃならない。
 
 
 
 ネプトゥーンモンの治療には夕方近くまでかかった。エンジェモンが言うには、全身のケガがひどい割に、胸の中心核だけは無傷だった。何かの力が致命傷を癒したような、そんな不思議な状況だった、って。
 
 彼が目を覚ますまでには、更に一晩かかった。
 
 
 
 俺達が部屋に入ると、ネプトゥーンモンはぼんやりと目を開けて、天井を見つめていた。体に浮かんでいたデジコードは消えている。体には包帯が巻かれ、薬草のつんとした臭いが漂っている。
「ネプトゥーンモン様……」
 ユニモンが声をかけても、ユニモンにちらりと目を向けただけでまた視線を上に戻す。天井を見ている、というよりどこを見ているのか分からない、そんな目だ。
 まだ思うように動かない腕をゆっくりと動かして、自分の胸に手を当てる。
 その口から、独り言のような小さな声が漏れた。
「私は、また生き延びてしまったのか」
「……はい」
 ユニモンが静かに答える。
 それが聞こえているのかいないのか、ネプトゥーンモンはまたつぶやく。
「負ける気はなかった。この手でユピテルモンに引導を渡そうと思って戦った。……だが、ユピテルモンの雷撃が胸を貫いた時、これでマーメイモン殿と同じデータの屑になるのだな、という妙な安心感があった」
 ネプトゥーンモンの顔が辛そうにゆがむ。
「だが、夢ともうつつとも分からない中で、マーメイモン殿の声がしたような気がした。あれは私に、死んではならない、生き延びてほしいと、そう言った」
 俺達は、どう声をかけたらいいのか分からない。
 ネプトゥーンモンが自分の胸をさする。
「マーメイモン殿が最期にくれたお守りが……癒しの力が私を致命傷から救った。私を、死なせてくれなかった。……ひどいやつだ、あれは。この期に及んでも、私をそばに行かせてくれない」
 無事でよかった。助かってよかった。そう言葉をかけるつもりでこの部屋に来たのに。
 結局俺達は、やりきれない気持ちを抱えたまま、何も言えずに部屋を出た。
 
 

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長らく生死不明だったネプトゥーンモンですが、辛うじて生き延びました。それが本人にとって幸せなのか分かりませんが……。 

ところで先日、プロット整理を兼ねてフロ02が何話でエピローグを迎えるか試算してみました。
結果、「198話」というとても微妙な数字に(汗)いつも試算より少し長くなるのが星流の癖なので、200話ワンチャンある。
前から「200話いくかどうか」と言っていましたが、本当に200話いくかどうかの話数になりそうです。……ある意味、予測通り?←