ユピテルモンが俺達に与えた猶予は過ぎた。
今日が最後の戦いになる。俺達がユピテルモンを倒すか、俺がプルートモンと化して世界を滅ぼすか。
ユピテルモンは恐らく、ここに攻め込んでくる。みんな見通しがきく森のターミナルに集まった。適度に城に近くて、でも戦闘に巻き込まないで済む、そんな距離だ。
エンジェモン、テイルモンに続いて、トゥルイエモンも集まってくれた。戦場が広がった時に、住民の避難やバリアを担当してくれることになっている。
「みんなは周りを気にせず思い切り戦ってくれ」
トゥルイエモンの言葉を、俺達はありがたく受け取った。
「純平、体はもう大丈夫なの?」
泉が聞くと、純平はにっと笑った。
「もちろん。アンブロシアでだいぶ回復したし、今戦わなくてどうするんだよ」
エンジェモンがその後ろから声をかける。
「普段なら無理はしないでください、と言うところですが、今日は全員の力が必要です。よろしくお願いします」
俺はというと、さっきから何度も城に続く道を振り返っている。まだテイルモンとノゾムが来ない。スピリットを動かす作業はまだ終わらないのか。ノゾムがいないと、俺は戦えない。
頼む。間に合ってくれ。
思いも虚しく、急に空に黒雲が湧き出し、辺りは夕方のように暗くなった。黒雲のあちこちで雷が走り、ゴロゴロと低い音が聞こえる。
その雲を突き抜けて、ゆっくりと降りてくる金色の鎧。
「――ユピテルモン」
兄貴達がデジヴァイスを手に身構える。俺は歯がゆい思いでポケットの中に手を入れる。何も入っていない。デジヴァイスは、テイルモンに預けたままだ。
森の木々に足が触れるほどの高さで、ユピテルモンは降下を止めた。空を飛んだまま、俺達を見下ろす。
「丸二日が経過した。答えを聞こう」
赤いY字の目は、まっすぐに俺を見据えている。
ノゾムはまだ来ない。それでも、俺は足に力を入れて、ユピテルモンを真正面から見た。
「俺の答えは変わらない。プルートモンにならずにお前を倒す」
「残念だ」
ユピテルモンの答えはたった一言だった。
ユピテルモンが両手のハンマーを振る。雷雲から雷が降り注いだ。
「はあっ!」
「むっ!」
エンジェモンとトゥルイエモンが素早く両手を掲げ、バリアで俺達を守った。
兄貴が俺を見る。
「信也、雷がやんだら城に向かって走れ。ノゾムを連れて戻ってくるんだ」
兄貴達は大丈夫なのか。口に出しかけた言葉を飲み込む。今の俺には、他にできることがない。
兄貴達6人が輪になり向かい合う。
「輝一、できそうか」
輝二が聞くと、輝一が少し考えてから頷いた。
「うん。初めてのはずだけど、この感じ知っているような気がする」
6人がそれぞれのデジヴァイスを突き出した。
「エンシェントスピリット・エボリューション!」
デジヴァイスからまばゆい光があふれだした。目がつぶれそうなくらい強い光。目を固くつぶっても、まぶたの向こうに光が見えた。
光が収まって、ゆっくりと目を開ける。
そこには、1体の大柄なデジモンがいた。大きさはユピテルモンより一回り大きい。赤と青の鎧を身に着け、背中に金色の日輪を背負っている。
「スサノオモン!」
これが、十闘士の力を結集させた究極の姿。
スサノオモンが俺をちらりと見降ろした。俺は一度頷いて、城に向かって走りだした。
エンジェモンの城まで、木の階段をひたすら上っていく。階段を踏む規則的な音に、爆発音や木の倒れる音が混ざりだした。歯を食いしばって速度を上げる。
「信也!」
ノゾムの声がして、はっと足を止めた。右の方を見ると、ノゾムを乗せたユニモンが急ブレーキをかけたところだった。
ユニモンが階段に寄せてきて、ノゾムが俺の横に降り立つ。
ノゾムは申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめん、遅くなって」
「心配するなって。まだ十分間に合う」
スピリットをうまく動かせたのか、聞く必要はなかった。シャツの上からでも、胸の中心が少し盛り上がっているのが分かった。俺の視線に気づいたノゾムがシャツの首元をひっぱって見せてくれる。盛り上がっている部分は黒ずんでいて、更に赤い光を帯びている。体の表面ぎりぎりまでスピリットを動かしてくれた証拠だ。
ノゾムが俺にデジヴァイスを手渡す。つかんでみると、やけどしそうなくらい熱い。でも不思議と、強く握っても手は焦げない。
この火力があれば、スーリヤモンはもっと強くなれる。
「行くぞ、ノゾム」
左手にデジコードを呼び出すと、幾重にも荒れ狂うデジコードが生まれる。勢いが増して、手を覆いつくしている。
それを押さえつけるようにデジヴァイスを押し当てる。
「ホロウスピリット・エボリューション!」
「スーリヤモン!」
背中に慣れない感覚がある。背中を見ると、4枚だった翼が8枚に増えている。手にしている剣も白い刀身に赤い光を帯びている。
「2人とも、お気をつけて」
「ああ」
ユニモンの言葉を聞きながら、ノゾムを左肩に乗せる。
階段を力強く蹴って、戦場へとまっすぐに飛んだ。
ほんの数分離れていただけなのに、森のターミナルはすっかり破壊されていた。
線路は引きちぎれ、森の木々は折れ、燃え上がっている。
その上空で、2柱の神がぶつかり合っている。武器が交わるたびに、雷や光がほとばしる。
ユピテルモンを見据えながら、剣を握る手に力を込める。刀身が白い炎で燃え上がる。
「《ガーンディーヴァ》!」
剣を振り抜くと、巨大な炎が飛んだ。ユピテルモンもスサノオモンも軽く呑み込んでしまいそうな白光する炎。
「っ、スサノオモン!」
名前を呼んだ分、スサノオモンの反応の方が早かった。
「くっ!」
スサノオモンがユピテルモンのハンマーを打ち返して、炎の軌道外に逃れる。
ユピテルモンもすぐに気づいて飛び去ろうとしたが、ハンマーが1つ炎に巻き込まれた。
ハンマーは一瞬で蒸発し、跡形もなく消えた。
ユピテルモンがハンマーを持っていた手をつかみ、籠手を外して捨てた。落下していく籠手は、熱に焼かれて溶けかけていた。
あらわになったのは、人間のような肌色の手だった。それを見つめた後、ユピテルモンが俺を見た。
「なるほど、一度撤退したのはこの力の準備のためか。ノゾムが生きていられるギリギリまでスピリットの力を引き出している、といったところか」
その言葉には、微かに驚きが含まれていた。淡々としていたユピテルモンが初めて見せた動揺。
正直、俺自身も技の威力に戸惑っている。でも敵の手前では顔に出さない。
敵が動揺している今を突く。
「ユピテルモン、この戦いは審議だと言っていたな。スサノオモンと俺達の力と、お前の力、どちらが正義となるか見極めてもらおうか!」
俺の言葉に、ユピテルモンが姿勢を整え、俺達と向かい合う。
「良かろう。どちらかが勝つまで終わらぬ、最終審議といこう」
☆★☆★☆★
最終決戦突入です。
メインはもちろんパワーアップしたスーリヤモンなのですが、「輝一がなぜかスサノオモンに進化した時のことを知ってる」というのだけはやりたかったのでねじ込みました←
だって、アニメの最終話の時、一瞬輝一の手が見えるじゃないですか……心は一緒に戦ってたんだって信じてる。