本論文は、鉄過剰摂取で卵巣予備能が低下することを示しています。
Hum Reprod, 2023; 38: 1613(米国)doi: 10.1093/humrep/dead118
要約:2007〜2019年に582名の不妊女性(年齢中央値35.0歳)を対象に、鉄の摂取量(食事+サプリ)と卵巣予備能との関連について横断研究を実施しました(EARTHスタディ)。卵巣予備能は、月経周期3日目の胞状卵胞数(AFC)とFSHで評価し、鉄摂取量は5段階に分けて検討しました。総鉄摂取量中央値は29mg/日でした。総鉄摂取量はAFCと逆相関しており、鉄サプリ摂取によって逆相関が増強しました。種々の交絡因子を除外したところ、1日あたり20mgの鉄サプリを摂取している女性と比べ、45~64mg/日の鉄サプリを摂取している女性はAFCが17%有意に低く、65mg/日の鉄サプリを摂取している女性ではAFCが32%有意に低くなっていました。 多変量解析では、鉄サプリを1日20mg摂取した女性と比較して、65 mg/日摂取した女性ではFSH値が0.9 IU/mL有意に高くなっていました。
解説: 妊娠中は母体と胎児の血液を作るため原料である鉄が不足します。そこで、妊娠中の鉄補給は重要なメリットがあることは明らかです。しかし、鉄摂取が十分な女性への鉄補給はリスクがあると考えられ、あくまでも鉄欠乏症(貧血)の女性にのみ鉄補給が推奨されます。 また一般的に、鉄過剰は冠状動脈性心疾患、インスリン抵抗性、2型糖尿病のリスク増加と関連することが明らかにされています。しかし、妊娠前の鉄摂取が生殖能力に及ぼす影響については賛否両論がありました。マウスやベータサラセミアでは、鉄過剰は卵巣毒性があることが報告されています。本論文は、このような背景のもとに実施された研究であり、鉄過剰摂取で卵巣予備能が低下することを示しています。本論文の問題点としては、鉄摂取量が自己申告に基づくこと、1日あたり45mgの鉄を摂取した女性は36人だけだったこと、不妊女性のみでの検討であることです。結論を導くためには今後の大規模な検討が必要ですが、少なくとも1日あたり45mgを超える鉄サプリ摂取は卵巣予備能が有意に低下するので注意が必要です。サプリメントの鉄含有量を是非チェックしてみてください。
2018.2.3「☆フェリチンと不妊症の関連は?」の記事で示したように、鉄の過剰は妊娠を目指す男性にも女性にも悪影響です。また、妊娠中のフェリチンの基準値(12.0あるいは15.0 ng/mL以上)はありますが、妊活中のフェリチンの基準値はありません。フェリチン減少と不妊症の関連を示す根拠はなく、むしろ鉄は悪影響ですのでご注意ください。
EARTHスタディについては、下記の記事を参照してください。
2023.6.27「☆大豆やイソフラボン摂取と卵巣予備能」
2023.5.9「男性の仕事がハードだと精液所見が良くなる!?」
2022.1.12「☆葉酸サプリで卵胞数改善!?」
2020.12.30「Chavarro先生と対談」
2020.12.13「磁場と妊娠の関係」
2020.10.19「食生活と卵巣予備能の関連は?」
2019.10.21「☆EARTHスタディーのまとめ」
2019.6.12「☆ビタミン摂取と体外受精の成績は?」
2018.12.13「有機リン酸エステルと流産」
2018.2.18「☆葉酸と妊娠成績」
2018.1.23「☆オメガ3脂肪酸摂取で妊娠成績向上」
2017.9.5「アルコールとカフェイン摂取について」
2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響」
2016.6.26「全粒粉摂取と子宮内膜厚、妊娠率の関係」
2016.3.27「食生活は体外受精の成績に影響を及ぼすか?」
2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下」
2015.6.11「☆野菜や果物の農薬量と男性不妊の関係」
北宅先生のブログ記事も参考にしてください。
2018.1.28「栄養学・サプリメント~補足:鉄欠乏性貧血」
2018.1.27「栄養学、男性因子、子宮内膜症、卵巣予備能低下:鉄・フェリチンと不妊症~まとめ」
2018.1.26「栄養学・サプリメント、子宮内膜症:鉄過剰と卵巣癌」
2018.1.25「栄養学・サプリメント、卵巣予備能低下:鉄荷電粒子と早発卵巣不全」
2018.1.24「栄養学・サプリメント、子宮内膜症:鉄と不妊症~チョコレート嚢腫からの鉄が近隣の卵胞を攻撃」
2018.1.23「栄養学:鉄・フェリチンと不妊症~血清フェリチン値と女性不妊の関係」←上記②の論文を紹介
2018.1.22「栄養学:鉄・フェリチンと不妊症~フェリチン欠乏/過剰と病気 」
2018.1.22「栄養学・サプリメント:鉄・フェリチンと不妊症・フェリチンとは何か?」