フタル酸による卵巣予備能低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、フタル酸による卵巣予備能低下を示しています。

Hum Reprod 2016; 31: 75(米国)
要約:2004~2012年にリクルートした215名の女性において、11種類の尿中フタル酸濃度(DHEP)を測定し、CD3のAFC(胞状卵胞数)を前方視的に調査しました(EARTHスタディー)。なお、年齢、BMI、喫煙の有無で補正を行いました。総フタル酸濃度を下位から上位へ4群に分けたところ、総フタル酸濃度最小群と比べ、その他の群でいずれも有意なAFC低下を認めました(2番目24%減、3番目19%減、最多群14%減)。4種類のフタル酸ではAFCの有意な低下を認めましたが、7種類のフタル酸では有意な変化を認めませんでした。

解説:フタル酸は、プラスチックをやわらかくする物質(可塑剤)で、塩化ビニルの可塑剤として使用されます。やわらかいプラスチックに含まれており、子供用玩具(歯固め、おしゃぶり)、医療器具(点滴バッグ•チューブ)、フィルム(食品包装、衣類包装)、壁紙、ビニル床材、テーブルクロス、電線コード、ワッペン、水着用バッグなどに幅広く用いられています。また、DHEPは、牛肉、豚肉、魚、調理油、チーズなどの加工食品に含まれている可能性が指摘されています。

本論文のグループは、2013年にビスフェノールAによるAFC低下を報告しており(Reprod Toxicol 2013; 42: 224)、本論文はフタル酸によるAFC低下を初めて示したものです。環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)は女性ホルモン作用を持つため、ちょうどピル服用中と同じようなことが起こります。つまり、卵巣からの卵胞供給が低下します。卵巣には原始卵胞が残っていますから、妊孕性は保たれているわけですが、一時的に妊娠しにくい状態になっていると言えます。

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)については、下記の記事を参照してください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」
2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?」
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク」
2014.11.4「環境ホルモンは黄体機能不全の原因」
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症」
2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?」
2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係」
2015.10.22「UVフィルターによる精子への影響」
2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係」

EARTHスタディーについては、下記の記事を参照してください。
2015.6.11「☆野菜や果物の農薬量と男性不妊の関係」
2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係」