男性のフタル酸濃度の影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

国際内分泌学会は、内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)がヒトの妊娠に悪影響であると結論づけています。特に、ダイオキシンやPFOAの影響についての報告が多くあります。本論文は、夫婦のビスフェノールAとフタル酸濃度を調査したところ、夫のフタル酸濃度が高い場合に妊孕性(妊娠する力)が約20%低下することを示しています。

Fertil Steril 2014; 101: 1359(米国)
要約:2005~2009年に、米国内16カ所から501組の夫婦を対象とし、ビスフェノールAと14種類のフタル酸の濃度を測定し、1年間経過観察しました(LIFEスタディー:Longitudinal Investigation of Fertility and the Environment)。ビスフェノールA濃度はTTP(妊娠するまでの期間:Time To Pregnancy)と関連を認めませんでしたが、夫のフタル酸の一部(モノメチル、モノn-ブチル、モノベンジル)はTTPを有意に延長しました(妊娠率はそれぞれ、0.80倍、0.82倍、0.77倍に低下)。

解説:ビスフェノールAとフタル酸が妊娠を妨げるメカニズムについて、卵子の成熟障害、ステロイドホルモン産生障害、生殖器官発達障害などが報告されています。これは、卵胞や精液がビスフェノールAとフタル酸の標的臓器として感受性が高いためと考えられています。本論文は、夫のフタル酸濃度が高い場合に妊孕性が約20%低下することを示していますが、これはタバコやBMI増加による妊孕性低下とほぼ同等です。

PFOAについては、下記の記事を参考にしてください。
2012.10.11「残留性有機汚染物質の影響:女性編」女性の血中のPFOA・PFOSにより妊孕性(妊娠する力)が約2/3に低下する
2012.12.25「残留性有機汚染物質の影響:男性編」POPsにより精子形態異常が高くなる
2013.4.4「PFOSと男性不妊」PFOS濃度は男性ホルモン濃度と逆相関する
2014.2.19「母体のPFOA暴露による子どもに与える影響」妊娠中のPFOA暴露により生まれた女児の初潮が遅くなる2014.3.30「PFOA暴露で生理不順に!」PFOA・PFOSにより、生理不順が起きる

ビスフェノールAとフタル酸については、下記の記事を参考にしてください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」