☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

患者さんからよく聞かれる質問に、「妊娠中に髪の毛を染めても大丈夫ですか?」「パーマはかけてもよいですか?」というのがあります。本論文は、美容師さんの妊孕性(妊娠できる力)、妊娠中の異常、児の異常について論文のレビューを行ったところ、これらのリスクの増加は否定できないが確定的ではないと述べています。

J Occupational Med Toxicol 2010; 5: 24
要約:職業上美容師さんは、多くの化学薬品を取り扱い(脱色剤、染色剤、整髪剤、パーマ液など)、また長時間の立ち仕事で特殊な姿勢で働いています。美容師としての職業が妊娠へどう影響するかについて過去の論文を調べたところ28論文がみつかりました。全ての論文の結果が一致するということはありませんでしたが、以下のリスクの増加が否定できません。児の異常としては、父親が美容師の場合に子供の腎臓がん母親が美容師の場合に神経芽細胞腫と口唇裂•口蓋裂小児発達障害フタル酸を用いたヘアスプレーの使用で尿道下裂のリスク増加。妊孕性としては、不妊症や生理不順のリスク増加。妊娠中の異常としては、低体重児、流早産、周産期死亡のリスク増加。一方で死産のリスクは少なくなっていました。

解説:本論文は、美容師さんの職業としての妊娠へのリスクを疫学(統計)的に調べたものです。個々の化学薬品についての検討はされておらず、結論は出ていません。美容師さん自身の対応策としては、化学薬品に極力暴露しないような取り扱いの方法をとることしかないと思います。接触、吸引、経口摂取により吸収されますから、マスクや手袋などの防護対策をとることで予防できます。
冒頭の質問(染毛剤、パーマ液)への回答は以下です。
染毛剤には多くの種類があります。化粧品に分類される一時染毛剤(ヘアカラー、ヘアリンス、ヘアマニキュアなど)では、タール系色素を除いて大きな問題はないように思います(化学物質ですから皮膚炎やアレルギー反応を起こす場合はあります)。一方、永久染毛剤のうち酸化型染毛剤(ヘアダイ、ヘアブリーチなど)では、アミノフェノール類、フェニレンジアミン類、トリエタノールアミンなどの薬品が含まれており、強いアレルギー反応や皮膚炎を起こすリスクはあります。動物実験では、アミノフェノール類とフェニレンジアミン類は発癌性はありませんが生殖細胞毒性を認めます。また、トリエタノールアミンの生殖細胞毒性と発癌性はありません。永久染毛剤のうち非酸化型染毛剤(お歯黒型)は植物成分からできており、最も安心と考えられています。確定的なことは言えませんが、どのタイプの染毛剤を使用しているのか確認のうえ使用の可否を判断して欲しいと思います。
パーマ液は酸化還元反応を利用したもので、チオグリコール酸かシステインがS-S結合を切断するために使用され、臭素酸塩か過酸化水素がS-S結合の再結合に使用されます。チオグリコール酸、臭素酸塩、過酸化水素の生殖細胞毒性と発癌性に関するデータはありません。システインはアミノ酸です。わからないことが多い場合には、「君子危うきに近寄らず」という対応が良いのだと思います。