ビスフェノールAの精子と胚への影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ビスフェノールAをはじめとした環境ホルモンの影響については、これまで多数の記事でご紹介致しました。本論文は、男性の尿中ビスフェノールA濃度は、精液所見低下と有意な相関を認めましたが、胚(受精卵)発生には影響しなかったことを示しています。

Fertil Steril 2014; 101: 215(スロベニア)
要約:2011~2012年に初回あるいは2回目の顕微授精を行った方149名の精液所見と胚発生を前方視的に検討しました(男性の平均年齢34.05歳、女性の平均年齢30.95歳)。尿中ビスフェノールAは98%の男性に検出され(>0.1 ng/mL)、平均1.55 ng/mLでした。尿中ビスフェノールA濃度は、総精子数低下、精子濃度低下、運動性低下と有意な相関を認めましたが、受精率、良好分割胚率、胚盤胞到達率には影響しませんでした。

解説:ビスフェノールAは、ポリカーボネート製のプラスチックを製造する際や、エポキシ樹脂の原料として広く利用されています。ポリカーボネートやエポキシ樹脂は現在、哺乳瓶、水道管、食品や飲料品の容器、歯科の詰め物、コピー用紙、レシートの紙などに使われています。これらのプラスチックに紫外線、酸、アルカリ、熱を加えた際にビスフェノールAが溶け出し、環境中に放出されます。それを口にすることでビスフェノールAが体内に入ります。ビスフェノールAはエストロゲン(女性ホルモン)受容体を活性化し、女性ホルモン的な働きを示すため、「環境ホルモン」という名前がつきました。

ビスフェノールAが精子へ及ぼす悪影響については知られていましたが、本論文は、男性のビスフェノールAと胚発生の関係を調査した初めての報告です。米国では全体の人口の95%以上の方の尿からビスフェノールAが検出されますが、今回調査したスロベニアの不妊カップルの男性では98%とさらに高率にビスフェノールAの暴露を受けていました。本論文は若いカップルを対象に調査することで、女性の年齢因子の影響を極力少なくしていますが、本当に胚発生に影響しないのかどうかについては症例数を増やした検討が必要です。

ビスフェノールAについては、下記の記事を参考にしてください。
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」