子宮内膜症と環境ホルモンの関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮内膜症は最近増えていますが、その一因として環境ホルモンが考えられています。国際内分泌学会は環境ホルモンについて、暴露後に生殖機能が悪化すること、初期の暴露はエピジェネティクス的な遺伝子変化*をもたらし、その影響は世代を超えていくことを2009年以降の公式声明として発表しています。本論文は、フタル酸のうち6種類の暴露により、子宮内膜症のリスクが2.20~2.92倍有意に高くなることを示しています。

Fertil Steril 2013; 100: 162(米国)
要約:米国の14カ所の施設で、2007~2009年に登録された合計600名の女性における検討を行いました(ENDOスタディー)。手術により診断したコホート473名(内膜症190名、非内膜症283名)、MRIにより診断したコホート127名(内膜症14名、非内膜症127名)の尿中の環境ホルモンを測定し、年齢、BMI、クレアチニン(尿の濃度)で補正しました。測定した環境ホルモンは、ビスフェノールAと14種類のフタル酸です。手術コホートでは全ての環境ホルモンについて2群間に有意差を認めませんでしたが、MRIコホートではフタル酸のうちmBP、mECPP、mCMHP、mEHHP、mEOHP、mEHPの暴露により、子宮内膜症のリスクが2.20~2.92倍有意に高くなることを示しています。

解説:本論文は6種類のフタル酸に暴露すると子宮内膜症のリスクが高くなることを示していますが、環境ホルモンが子宮内膜症を発症させるメカニズムについて、3つの可能性が考えられます。
1 環境ホルモンがホルモンとして働く、あるいは体内からのホルモンの合成や分解を妨害することにより、子宮内膜細胞の遺伝子発現を変化させる
2 環境ホルモンが神経系に作用し、身体全体のホルモンシステムを変化させる
3 環境ホルモンがエピジェネティクス的な遺伝子変化*をもたらし、遺伝子転写機能を変化させる
これらの変化が思春期前に生じていれば、初潮の頃から子宮内膜症が起きやすい環境になっていて、20歳前後で診断されても不思議ではありません。

本論文で示された環境ホルモン値は、過去に報告されたものより低くなっていますが(NHANESスタディー)、プラスチック製造の各企業が環境ホルモンを減少させるように努力している成果の現れといえるでしょう。

*エピジェネティクス的な遺伝子変化とは、
DNAメチル化やヒストンのアセチル化の変化による遺伝子発現の変化を意味します。
「メチル化=スイッチOFF」「非メチル化=スイッチON」、「ヒストンの脱アセチル化=スイッチOFF」「ヒストンのアセチル化=スイッチON」というように遺伝子にはそれぞれスイッチがあります。
キチンと遺伝子スイッチのON/OFFが決められたパターンになっていれば正常な遺伝子発現が起きますが、遺伝子スイッチのON/OFFが違うパターンになってしまうと、異常な状況が生じます。遺伝子そのものに変異がなくともエピジェネティクス的な遺伝子変化が起きれば、遺伝子発現が変わります。「エピジェネティクス」=遺伝子の「スイッチ」については、2012.10.21の「iPS細胞」のコーナーをご参照ください。

環境ホルモンについては、下記の記事も参考にしてください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」