心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今回ご紹介する論文は、疫学(統計)調査により、職業上の化学物質暴露が赤ちゃんにどう影響するかを調査したものです。本論文は、父親の暴露(フタル酸、ポリ塩化化合物、アルキルフェノール化合物)により、赤ちゃんの心臓の先天異常のリスクが増加することを示しています。

Hum Reprod 2012; 27: 1510
要約:産後15ヶ月経過した、心臓に先天異常がある赤ちゃんの両親(A群)と、同じ時期に生まれた先天異常のない赤ちゃんの両親(B群)を対象とし、職業上の化学物質への暴露について質問票調査を行いました。母親の化学物質暴露の頻度は、A群で5.0%B群で6.2%父親の暴露は、A群で22.3%B群で15.9%といずれも有意差を認めませんでした。母親の暴露と心臓の先天異常に関連はありませんでしたが、父親のフタル酸暴露は心臓の先天異常のリスクが2.08倍に増加しました。特に、フタル酸暴露は心室中隔欠損が2.84倍、ポリ塩化化合物は心房中隔欠損が4.22倍、アルキルフェノール化合物は大動脈異常が3.85倍にリスクが増加していました。

解説:心臓の先天異常は、生まれた赤ちゃんの異常の中で最も頻度の高いもので、全ての異常の30%を占めています。1000人のうち6~8人の赤ちゃんに認められ、なかには致死的な異常もあります。リスク因子として、社会的因子、母体の感染、環境因子が考えられています。

フタル酸については、2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」で、ヒト精巣からの男性ホルモン産生を低下させることをご紹介しました。ただ、業界団体はフタル酸が安全であることを強調しています。

ポリ塩化化合物の代表は、有名なPCBです。加熱•冷却用熱媒体、変圧器、コンデンサといった電気機器、可塑剤、塗料など、非常に幅広い分野に用いられていました。人体に対する毒性がダイオキシンに匹敵するほど強力で、発癌性、皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすことが明らかとなっています。日本では、1968年の「カネミ油事件」をきっかけに、1972年の生産中止、1975年に輸入が禁止されました。しかし、以前に作られたものの対策はとられておらず、老朽化した蛍光灯からPCBが漏れたり爆発したりする事故が起き、社会問題となりました。2001年、日本はPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)に調印、PCB処理特別措置法を制定、環境事業団法を改正、2016年までに処理する制度を作りました。

アルキルフェノール化合物の代表は、ノニルフェノールです。ノニルフェノールは、界面活性剤として、洗剤、油性ワニス、ゴム加硫促進剤、石油製品の酸化防止腐食防止剤などに広く使われています。エストロゲン様物質であることが知られ、環境ホルモンの扱いになります。

通常、赤ちゃんへの影響は母体のことだけを考えがちですが、男性も注意が必要であることを示しています。女性ばかり気をつけても片手落ちですので、男性も女性も同じ目標に向かって進んでいくためには、男性の協力が必要不可欠だと思います。

環境ホルモンの影響については、2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」で、残留性有機汚染物質の影響については、2012.10.11「残留性有機汚染物質の影響:女性編」2012.12.25「残留性有機汚染物質の影響:男性編」で紹介しました。また、職業上の影響については、2013.1.10「妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」2012.11.20「妊娠中の航空機搭乗」2012.10.1「有機溶剤の影響 その1」2012.10.2「有機溶剤の影響 その2」2012.10.4「有機溶剤の影響 その3」も併せてご覧下さい。