フタル酸濃度と妊娠治療の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、フタル酸濃度(DHEP)と妊娠治療の関係を調査したものです。

Fertil Steril 2015; 104: 1227(米国)
要約:2010~2012年妊娠初期の方の尿中フタル酸濃度(DHEP)を測定し、過去の妊娠治療(妊娠治療なし群、一般妊娠治療群、体外受精群)との関連を調査しました。妊娠治療を行った方の中では、体外受精による妊娠でDHEP濃度が0.83倍に有意に低下していました。しかし、妊娠治療の有無でDHEP濃度の有意差を認めませんでした。

解説:文明社会の進化とともに妊孕性(妊娠できる力)が低下していますが、この理由のひとつとして内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の関与が示唆されています。なかでもフタル酸は、米国人の99%で見出される化学物質であり、特に抗アンドロゲン作用(抗男性ホルモン作用)を有するDEHPについて研究が進んでいます。本論文は、体外受精妊娠でDHEP濃度が低く、一般妊娠治療や妊娠治療なしの方がむしろDHEP濃度が高いことを示しています。この結果は逆なのではないかと思うわけですが、体外受精を行っている方は、フタル酸などの摂取をしないようなライフスタイルに注意を払っていることを意味しているのかもしれません。しかし、本論文では食事や生活習慣などの調査を行っておりませんので、今後の検討が待たれます。

フタル酸は、プラスチックをやわらかくする物質(可塑剤)で、塩化ビニルの可塑剤として使用されます。やわらかいプラスチックに含まれており、子供用玩具(歯固め、おしゃぶり)、医療器具(点滴バッグ•チューブ)、フィルム(食品包装、衣類包装)、壁紙、ビニル床材、テーブルクロス、電線コード、ワッペン、水着用バッグなどに幅広く用いられています。また、DHEPは、牛肉、豚肉、魚、調理油、チーズなどの加工食品に含まれている可能性が指摘されています。

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)については、下記の記事を参考にしてください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」
2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?」
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク」
2014.11.4「環境ホルモンは黄体機能不全の原因」
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症」
2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?」
2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係」
2015.10.22「UVフィルターによる精子への影響」