フタル酸で女児の思春期が遅くなる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)のひとつとされるフタル酸は、プラスチックの製造で非常によく使用されています。本論文は、フタル酸の暴露により女児の思春期が遅くなることを示したものです。

Hum Reprod 2014; 29: 1558(米国)
要約:2004~2007年に6~8歳であった女児1239名(米国3カ所)対象に、2011年まで追跡調査を行いました。調査内容は、尿中のフタル酸代謝物、胸部と陰毛の発育度(思春期の状態を現す)、体格についてです。尿中の高分子フタル酸代謝物が高濃度になるほど、思春期が遅くなりました。この傾向は正常体重の女児において最も顕著に現れました(上位1/5は下位1/5の方より9.5ヶ月遅い陰毛の発達および胸部の発達)。しかし、低分子フタル酸代謝物と思春期との関連は認められませんでした。

解説:内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)は、文字通り、正常な性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)作用を撹乱する物質です。通常は女性ホルモン(エストロゲン)作用を有するとされていますが、メスのラットでは、フタル酸の暴露によりエストロゲン作用と抗エストロゲン作用の両者が観察されます。本論文は、フタル酸の暴露による女児の思春期の影響を長期的に調査した初めての報告です。フタル酸の暴露により女児の思春期が遅くなることを示したものですので、抗エストロゲン作用が現れているものと推察されます。

フタル酸は、プラスチックをやわらかくする物質(可塑剤)で、塩化ビニルの可塑剤として使用されます。やわらかいプラスチックに含まれており、子供用玩具(歯固め、おしゃぶり)、医療器具(点滴バッグ•チューブ)、フィルム(食品包装、衣類包装)、壁紙、ビニル床材、テーブルクロス、電線コード、ワッペン、水着用バッグなどに幅広く用いられています。

内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)については、下記の記事を参考にしてください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.1.10「☆妊娠中にヘアカラーやパーマは大丈夫?」
2013.2.20「心臓の先天異常は父親の化学物質暴露と関連」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる」
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響」
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響」
2014.4.18「☆パラベンの影響は?」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」