フタル酸が胚発生に与える影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、男女のフタル酸暴露が胚発生に与える影響をそれぞれ検討したものです。

 

Hum Reprod 2017; 32: 65(米国)

要約:50組の不妊カップルを対象に、採卵日の尿中の17種類のフタル酸およびフタル酸関連物質の濃度と体外受精の成績を前方視的に検討しました。761個の卵子を採取し、423個が分割し、261個は良好初期胚(分割胚)でした。137個が移植可能な胚盤胞になり、47個は良好胚盤胞でした。初期胚では、唯一男性のDEP濃度と良好初期胚(分割胚)発生率に正の相関を認めました。胚盤胞では、男性の5つのフタル酸関連物質濃度(MBzP、MBP、MHBP、MMP、MCOCH)と良好胚盤胞発生率に負の相関を認め、女性の3つのフタル酸関連物質濃度(MHiBP、MMP、MHiNCH)と良好胚盤胞発生率に正の相関を認めました。

 

解説:フタル酸は環境ホルモンのひとつです。これまでにフタル酸と胚発生の関係を調査した研究はたったひとつです(EARTHスタディー)。これによると、男性のフタル酸と着床率低下の関連、女性のフタル酸と卵子の成熟率低下の関連を示していますが、胚の質に関しては有意な変化を認めていません。男性因子の関与は受精後4日目以降に起きると考えられていますので、胚盤胞発生率の評価が重要です。本論文は、このような背景のもとに行われ、男性のフタル酸濃度が高いと良好胚盤胞発生率が低下することを示しています。たった50名での検討に過ぎませんので結論を導くことはできませんが、男性の環境汚染の関与を示した興味深い結果です。