リプロの外来で、フェリチンと不妊症の関連についての質問が極めて多いですので、論文を調べてみました。
①Reprod Fertil Dev 2017; 29: 2005(イタリア)doi: 10.1071/RD16348
要約:ミトコンドリア内のフェリチン(FtMt)は精巣に豊富に存在しているため、FtMtノックアウトマウスを作成し、その役割を検討しました。FtMtノックアウトマウスは、オスの妊孕性低下をもたらしましたが、メスの妊孕性低下は認めませんでした。FtMtノックアウトマウスの精巣には変化はありませんでしたが、精巣上体が軽く、内部の精子が少なく、精子のATP量も減少していました。
②Fertil Steril 2017; 107: 236(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2016.10.008
要約:不妊症女性と妊娠歴のある女性の顆粒膜細胞および子宮頸管細胞のフェリチン、トランスフェリン受容体、フェロポーチンのmRNAを比較検討しました。不妊症女性の顆粒膜細胞はフェロポーチンmRNAが有意に減少し、ヘプシジンが有意に増加していました。また、妊娠歴のある女性の顆粒膜細胞でのみ、フェロポーチンとトランスフェリン受容体には正の相関を認めました。
解説:フェリチンは鉄結合性タンパク質の一つであり、鉄を水溶性かつ非毒性に保ちながら、鉄不足と鉄過剰を抑えるバッファーの役割を担っています。フェリチンは、細胞質と血液中に存在し、血液中のフェリチン量は、体内の鉄総量の推計指標となります。また、トランスフェリン受容体は細胞内鉄欠乏の指標となります。フェロポーチンはSLC40A1遺伝子によりコードされるタンパク質で細胞膜に存在し、細胞の内側から外側へ鉄イオンを輸送する機能を持つ膜貫通タンパク質です。ヘプシジンは,鉄のホメオスタシスに中心的な役割を果たす液性因子です。ヘプシジンは鉄負荷や炎症によって増加し,低酸素や造血亢進で低下します。ヘプシジンは,フェロポーチンの発現を低下させることによって,マクロファージからの鉄の放出と腸管からの鉄の取り込みを抑制します。
これまで、鉄による活性酸素(ROS)増加が男性不妊をもたらすことが報告されており、論文①はその作用機序を明らかにしています。論文②の解釈は難しいと思いますが、不妊症女性は顆粒膜細胞内に鉄を溜め込むこと、妊娠歴のある女性は顆粒膜細胞から鉄を排出することを示しています。つまり、鉄の過剰は妊娠を目指す男性にも女性にも悪影響であることになります。
一方、妊娠中の女性の貧血は治療すべきであり、Hbやフェリチンなどが指標に用いられています。Hbは11.0以上が基準値とされていますが、フェリチンの基準値については賛否両論があり一致した見解は得られていません。最新の論文では、12.0 ng/mLあるいは15.0 ng/mL以上が良いのではないかとしています(Transfus Med 2017; 27: 167、Am J Clin Nutr 2017; 106: 1634S)。
栄養学的な立場での基準値もまた違って当然だと思いますが、大事なことは「その方の目的にあった基準値」で判断することです。妊娠を目指すご夫婦は、栄養学ではなく妊娠治療の基準値で判断して欲しいと思います。
リプロ大阪の北宅院長のブログ記事にもフェリチンに関する特集が組まれていますので、そちらも参考にしてください。
なお、結論は同じで「フェリチン減少と不妊症の関連を示す根拠はない(むしろ鉄は悪影響)」です。
2018.1.28「栄養学・サプリメント~補足:鉄欠乏性貧血」
2018.1.27「栄養学、男性因子、子宮内膜症、卵巣予備能低下:鉄・フェリチンと不妊症~まとめ」
2018.1.26「栄養学・サプリメント、子宮内膜症:鉄過剰と卵巣癌」
2018.1.25「栄養学・サプリメント、卵巣予備能低下:鉄荷電粒子と早発卵巣不全」
2018.1.24「栄養学・サプリメント、子宮内膜症:鉄と不妊症~チョコレート嚢腫からの鉄が近隣の卵胞を攻撃」
2018.1.23「栄養学:鉄・フェリチンと不妊症~血清フェリチン値と女性不妊の関係」←上記②の論文を紹介
2018.1.22「栄養学:鉄・フェリチンと不妊症~フェリチン欠乏/過剰と病気 」
2018.1.22「栄養学・サプリメント:鉄・フェリチンと不妊症・フェリチンとは何か?」