本論文は、慢性子宮内膜炎の診断と治療に関するもので、極めて重要なポイントを示しています。
Fertil Steril 2021; 116: 413(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.036
Fertil Steril 2021; 116: 345(イタリア)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.022
要約:2017〜2018年に中国の一つの大学病院で子宮内膜組織(CD138)+子宮鏡検査を実施した2274名のうち胚移植結果が明らかである640名を対象に、400倍20視野あたりのCD138陽性細胞数と治療成績を後方視的に検討しました。なお、子宮内腔異常(癒着、筋腫、ポリープ、形態異常)、子宮腺筋症、40歳以上、PGT実施、不育症、キャンセル周期を除外しました。フローチャートは下記の通り。なお、初回抗生剤治療はドキシサイクリン(200mgx14日)を、2回目抗生剤治療はレボフロキサシン(400mgx14日)+メトロニダゾール(1500mgx14日)を投与しました。
CD138陽性細胞数 0個 1〜4個 5個以上
88名 315名 237名
A群
抗生剤治療(初回) あり なし あり
199名 116名 237名
B群 C群
CD138陽性細胞数 4個以下 5個以上
177名 60名
D群
抗生剤治療(2回目) あり
CD138陽性細胞数 4個以下 5個以上
34名 26名
E群 F群
A群、B群、C群の妊娠成績には有意差を認めませんでした(それぞれ、臨床妊娠率:65.9%、65.8%、65.5%、出産率:47.7%、52.2%、55.2%)。
A群+B群+C群とD群+E群の妊娠成績には有意差を認めませんでした(それぞれ、臨床妊娠率:65.7%、63.4%、出産率:52.1%、52.6%)。
A群+B群+C群とF群の妊娠成績には有意差を認めました(それぞれ、臨床妊娠率:65.7%、42.3%、出産率:52.1%、30.7%)。
解説:慢性子宮内膜炎の重要性が認識される昨今ですが、慢性子宮内膜炎の診断と治療に関するガイドラインはありません。従って、それぞれの施設で独自の基準を設けて対応しています。本論文は、400倍20視野あたりのCD138陽性細胞数5個以上を慢性子宮内膜炎と診断することで、治療成績が最も高くなることを示しています。つまり、CD138陽性細胞数1〜4個では治療の意義がありません。
コメントでは、慢性子宮内膜炎診断の問題点として、子宮内の一部にしか存在しない場合には偽陰性になる可能性、子宮頚管を採取した場合に偽陽性になる可能性を指摘しています。また、CD138細胞と子宮鏡検査の診断の齟齬についても注意が必要です。
なお、リプロダクションクリニックでは、CD138陽性細胞数5個以上を慢性子宮内膜炎と診断する基準で実施しており、この基準による治療効果を実感しています。
慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。
2021.7.9「慢性子宮内膜炎を治療しなかったら? 」
2020.3.13「慢性子宮内膜炎の際の免疫学的変化」
2020.1.3「慢性子宮内膜炎の評価:後方視的検討」
2019.10.10「慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ」
2019.4.19「☆慢性子宮内膜炎の診断に子宮鏡が有効か?」
2018.8.10「☆慢性子宮内膜炎治療の有用性について:メタアナリシス」
2018.1.7「原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は?」
2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討」
2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係」
2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2」
2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」