慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、慢性子宮内膜炎と子宮内フローラに関する報告です。

 

Fertil Steril 2019; 112: 707(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.015

Fertil Steril 2019; 112: 649(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.06.019

要約:24〜45歳不妊症および不育症の方130名を対象に、LHサージ+7日目の子宮内膜のCD138細胞数と子宮内フローラを測定し、慢性子宮内膜炎の有無による子宮内フローラの違いを検討しました(症例対照研究)。なお、慢性子宮内膜炎の診断は、出産経験のある女性の子宮内膜のCD138細胞数の95パーセンタイルとしました(5.15個/10mm2以上)。子宮内フローラは、16S rRNA遺伝子を解析して行いました。12名(9%)で慢性子宮内膜炎が陽性であり、子宮内フローラのラクトバシルス率は1.89%と有意に少なくなっていました(慢性子宮内膜炎陰性群80.7%)。ラクトバシルス(L)の中ではL crispatusが有意に低下しており、ラクトバシルス以外ではDialister、Bifidobacterium、Prevotella、Gardnerella、Anaerococcusが有意に増加していました。特に、Gardnerella、Anaerococcusはラクトバシルス量と負の相関を示しました。

 

解説:近年、慢性子宮内膜炎に大きな注目が集まっています。今年の日本受精着床学会でも一般演題、シンポジウム、セミナーなど大変多くの発表がありました。しかし、慢性子宮内膜炎と子宮内フローラの関連については一致した見解は得られていませんし、慢性子宮内膜炎の診断基準も各施設でまちまちであり、混乱を極めています。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、慢性子宮内膜炎の有無による子宮内フローラの違いを示しています。

 

コメントでは、慢性子宮内膜炎陽性率がわずか9%であること、症例対照研究であることなどマイナスポイントを強く指摘しており、この分野は未だ未解明であることを強調しています。本論文で用いられている基準は、本論文の著者が昨年同一雑誌に発表したものを採用しています(Fertil Steril 2018; 109: 832)が、この基準を元にした研究はほとんどありません。

 

慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。

2019.4.19「☆慢性子宮内膜炎の診断に子宮鏡が有効か?

2018.8.10「☆慢性子宮内膜炎治療の有用性について:メタアナリシス

2018.1.7「原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は?

2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討

2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係

2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2

2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係

2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」

 

マイクロバイオーム(フローラ)については下記の記事を参照してください。

2019.7.12「膣内フローラと妊娠成績

2018.11.13「子宮膣フローラ:システマティックレビュー

2018.8.26「異常妊娠における膣内フローラ、腸内フローラ

2018.8.23「子宮内および膣内フローラ

2018.7.14「無精子症の精巣組織のマイクロバイオーム

2018.4.10「☆子宮内フローラ検査について

2015.12.19「マイクロバイオーム