☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

大変興味深い論文が発表されました。本論文は、慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連を初めて示したものです。

Fertil Steril 2015; 103: 1049(フランス)
要約:子宮鏡検査、子宮内膜組織検査、3分間の超音波動画撮影を行い、慢性子宮内膜炎(CE)の有無と子宮収縮(EW)の関連を検討しました(CE群45名、非CE群45名)。超音波検査(7.5MHz)は卵胞期(CD11~14)と黄体期(CD19~22)に実施し、動画の分析は4~8倍速で行ないました。結果は下記の通り。

卵胞期(CD11~14)
収縮の向き   CE群   非CE群
下→上     26.7%   88.0%
上→下     24.0%    -
下→中←上   22.7%   12.0%
不規則     13.3%    -
収縮なし    13.3%    -

黄体期(CD19~22)
収縮の向き   CE群   非CE群
下→上      5.3%    -
上→下     13.3%    -
下→中←上   24.0%   25.4%
不規則     41.3%   61.3%
収縮なし    16.1%   13.3%

なお、好ましい動きを「青」で、好ましくない動きを「赤」で示しています。

解説:子宮収縮は、生理周期で変化することが知られており、卵胞期ではエストロゲンの作用により収縮が増強し、黄体期ではプロゲステロンの作用により収縮が減弱します。卵胞期前期では「上→下」への動きがメインであり、子宮内容(月経血、子宮内膜)を外に排出しようとする動きです(anterograde EW)。卵胞期後期~排卵期では「下→上」への動きがメインであり、精子を卵管に運ぼうとする動きです(retrograde EW)。また、黄体期では動きがほとんどない状態であり、着床させようとするものと考えられます。このような観点から本論文の結果を見ると、まさに非CE群では理想的な子宮収縮の生理周期による変化がみられています。一方で、CE群ではその逆を示しており、妊娠しにくいパターンであると言えます。なお、不規則な動きがどのような役割を担っているのかについては不明です。

炎症が生じると筋肉の収縮パターンが変化することは、他の臓器でしばしばみられます。たとえば、胃腸炎が起きると下痢になったり、膀胱炎が起きると排尿障害になります。このような理由から、子宮内膜炎が起きると子宮収縮のパターンが変化するのは理解できます。

慢性子宮内膜炎(CE)は、超音波検査や子宮卵管造影検査で見つかりませんが、病理検査(形質細胞が子宮内膜間質細胞に存在)で診断がつきます。子宮鏡検査は診断の補助にはなりますが、確定診断ができませんのでご注意ください。

また、慢性子宮内膜炎(CE)は子宮内膜症との関連も示唆されています。子宮内膜症の発症には月経血の腹腔内への流入(月経血の逆流)が引き金になると考えられています。本論文では、生理中の子宮収縮について検討していませんが、慢性子宮内膜炎の方の生理中の子宮収縮が「下→上」が多いとすれば納得できます。このように、「炎症」「収縮」をキーワードにこれまで原因不明であった疾患の共通点が見いだせるのではないかと考えます。

慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」


当院では、3回以上の胚移植で結果が出ていない方には、最近、慢性子宮内膜炎の検査(北宅医師担当)と超音波動画撮影による子宮収縮の検査(松林担当)をお勧めしています。この両者には何ら関連がないかと思っておりましたが、本論文により両者が結びつくことになりました。このように、別方面からのアプローチがつながる場合に、本質をついていることが多いのではないかと私は考えています。なお、これらの検査を初回の移植前に実施していないのは、初回でのエビデンスが存在しないからです。あくまでも反復不成功の場合の検査とお考えください。

「北宅弘太郎」医師の「着床不全・着床障害のブログ」も参照してください。