☆慢性子宮内膜炎と着床障害 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

着床障害を論じる上で非常に重要な知見を示す論文が発表されました。現在、掲載準備中(in press)の状態ですが、いち早くご紹介したいと思い取り上げます。本論文は、慢性子宮内膜炎(長期間の子宮内膜の炎症が継続する病態)が体外受精反復不成功の一因であることを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 323(イタリア)
要約:2009~2012年に体外受精反復不成功の256名の女性のうち、BMI>30、卵管因子、男性因子、排卵障害、子宮筋腫術後、子宮内膜症、反復流産の方を除外した106名について、慢性子宮内膜炎の有無を後方視的に検討しました。慢性子宮内膜炎の診断は、子宮鏡、子宮内膜組織の病理検査、培養検査により行いました。慢性子宮内膜炎と診断された方には抗生剤による治療を行い、子宮鏡、子宮内膜組織検査により治癒したかを確認しました。子宮鏡により70名(66%)の方が慢性子宮内膜炎と診断され、61名は病理組織検査で、48名は培養検査で確定診断がなされました。検出された菌は、マイコプラズマとエンテロコッカスがそれぞれ1/3を占めました。抗生剤治療後に慢性子宮内膜炎が治癒した方が46名、慢性子宮内膜炎が存続した方が15名でした。治療後半年以内に体外受精を実施したところ、慢性子宮内膜炎治癒群は存続群と比べ、妊娠率(65.2% vs. 33.0%)も出産率(60.8% vs. 13.3%)も有意に高くなっていました。

解説:体外受精反復不成功は、2~3回の胚移植が不成功、あるいは累積10個以上の胚の移植が不成功など、様々な見方がありますが、はっきりとした定義はありません。何回も胚移植の結果が出ない場合に、胚の問題か母体の問題か、あるいは両方かになります。母体の問題として考えられるのは、構造、血栓、着床能、免疫などです。子宮鏡検査を移植前に行うと、11~45%に何らかの異常がみつかるという報告があります。また、慢性子宮内膜炎は、超音波検査や子宮卵管造影検査で見つかりませんが、病理検査(形質細胞が子宮内膜間質細胞に存在)で診断がつきます。本論文の著者らは、子宮鏡検査による、小さな多数のポリープ、間質の浮腫、うっ血が慢性子宮内膜炎のサインであることを報告しています。さらに、反復流産の方でも慢性子宮内膜炎がしばしば認められ、抗生剤の治療により次回の妊娠継続率が改善するという報告、体外受精反復不成功の方の30.3%に慢性子宮内膜炎が認められ、着床率は11.5%という報告もあります。一方で、慢性子宮内膜炎の関与に否定的な見解を示した論文も認められます。本論文は、慢性子宮内膜炎が体外受精反復不成功の一因であることを示しています。一時的な感染による急性の子宮内膜炎ではありませんので、ご注意ください。

なお、着床障害については、当院の「北宅弘太郎」医師のブログも参照してください。
「着床不全・着床障害のブログ」