原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査を実施した結果を示したものです。

 

 

Am J Reprod Immunol 2018; 79: e12782(イタリア)doi: 10.1111/aji.12782

 

要約:原因不明不妊症の方95名を対象に子宮鏡検査および慢性子宮内膜炎検査(BCE)を実施しました。原因不明とは、少なくとも片側の卵管通過性があり、規則的な排卵があり、精液所見が正常な方であり、人工授精、体外受精、顕微授精の実施歴がなく、40歳以下、CD3のFSH<10、AFC>7、AMH>1.1、BMI<30の方としました。また、子宮奇形、子宮筋腫、子宮内膜症、自己免疫疾患、血栓症、抗精子抗体陽性の方は除外しました。慢性子宮内膜炎(CE)56.8%の方に見られ、治療により82.3%の方で消失しました。95名の方を3群(子宮鏡検査でCEなし42名、BCEでCEあり治療で改善38名、BCEでCEあり治療で改善せず15名)に分け、医学的介入をせずに1年間経過観察し、妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は以下の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

 

 

       子宮鏡検査でCEなし   BCEでCEあり治療で改善   BCEでCEあり治療で改善せず

 

 

妊娠率     9.5%(4/42)      76.3%(29/38)       20.0%(3/15)

 

 

出産率     4.8%(2/42)      65.8%(25/38)        6.6%(1/15)

 

 

流産率     4.8%(2/42)      10.5%(4/38)        13.3%(2/15)

 

 

 

解説:本論文は、いわゆる積極的な妊娠治療を行なっていない(タイミング治療まで)方に対して、慢性子宮内膜炎の関与を検討したものです。本論文では、子宮鏡検査で所見の見られた方のみに慢性子宮内膜炎検査(BCE)を実施していますが、子宮鏡検査で慢性子宮内膜炎(CE)なしと判断された方の成績が著しく不良ですので、子宮鏡検査ではCEを肯定することはできても否定することはできない可能性を示唆しています。また、BCE検査は、体外受精や顕微授精が上手くいかない方のみならず、一般妊娠治療の方にも取り入れる価値があることを示しています。

 

 

 

なお、本論文の引用文献には北宅先生の論文が4編引用されており、本領域における先駆的立場であることを実感します。

 

 

 

下記の記事を参照してください。

 

 

2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討

 

2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係

 

2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2

 

2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係

 

2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」