子宮内および膣内フローラ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会(ASRM)の機関誌であるFertil Steril誌に、子宮内および膣内フローラ(微生物叢=microbiota)の特集が組まれました。今ホットな分野です。チームリプロからは慢性子宮内膜炎についてのレヴューの依頼原稿がリプロ大阪の北宅院長あてにあり、今月号に掲載されました。なお、北宅先生は慢性子宮内膜炎の世界的権威のひとりです。

 

Fertil Steril 2018; 110: 325(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.06.041

Fertil Steril 2018; 110: 327(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.06.036

Fertil Steril 2018; 110: 337(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.04.041

Fertil Steril 2018; 110: 344(日本、チームリプロ) doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.04.012

要約:子宮内および膣内フローラのメインキャストはラクトバシルスですが、ラクトバシルスの減少と不妊症、不育症、妊娠合併症との関連が示唆されています。膣内のラクトバシルスの減少により、細菌性膣症(膣炎)、性感染症(STD)、骨盤内感染のリスクが増加します。同様に、妊娠中には早産や破水のリスク増加に繋がります。また、生理周期により膣内細菌数に変化が見られ、E2濃度と膣内細菌数が逆相関することが知られています。つまり、E2濃度が高い時(排卵期と着床期)は膣内細菌が少なく、安定した状態と言えます。一方で妊娠中の膣内ラクトバシルスは徐々に増加し、出産後に大きく低下します。このような現象は、膣内フローラが女性の生殖機能に関与する可能性を示唆します。子宮内フローラは膣内フローラと良く似ていますが、やや異なることも明らかにされています。子宮内のラクトバシルスの減少により、着床障害、流産、早産との可能性が報告されています。特に着床障害については、慢性子宮内膜炎との関連が示唆されており、抗生剤による治療が奏功します。

 

解説:当初、子宮内は無菌であると考えられていましたが、1980年代になり子宮内の培養から健常な女性でも子宮内に細菌があることが確認されました。頸管粘液が言わば子宮に栓をすることで膣内細菌が子宮に侵入するのを阻止している訳ですが、頸管粘液中を細菌や粒子が通過することも可能であり、もちろん精子の侵入も可能な訳です。また、牛の研究では、血液を介したルートで子宮内に細菌が侵入することが確認されています。したがって、経膣ルートのみではありません。なお、血液を介したルートは口腔内腸管内でも同様な現象がみられ、粘膜バリアの破綻は歯周病リーキーガット症候群として現れます。しかし、メインルートは経膣ルートであるため、膣内細菌と同様の細菌がみられることが多くラクトバシルスが主な菌とされています。ただし、子宮内のサンプル採取に際しては、膣からのアプローチになるため、膣内あるいは頸管内の細菌を同時に採取してしまっている可能性が否定できません(これをコンタミと言います)。2007年にNGS法が登場し細菌検出の方法が一変しました。NGSは細菌の16S rRNA遺伝子解析により、培養法では検出できない細菌の検出が可能です。培養法ではNGS法のわずか1%しか細菌の検出ができていないことが判明しています。NGS法で検出されるこれらの細菌のことを微生物叢(microbiota)と呼びます。子宮内フローラ検査とは、子宮内のmicrobiotaを検査することであり、2015年から論文が発表されるようになりました。本特集は、子宮内および膣内フローラについて最新の知見を紹介しています。

 

まだ研究初期の段階ですので、何ら結論的なことは言えませんが、子宮に限らずNGSを用いた微生物の研究が他の分野でも盛んになっています。大変注目度の高い分野です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.4.10「☆子宮内フローラ検査について

2015.12.19「マイクロバイオーム