慢性子宮内膜炎の際の免疫学的変化 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、慢性子宮内膜炎の際の免疫学的変化について末梢血と子宮内膜を用いて検討したものです。

 

Fertil Steril 2020; 113: 187(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.001

Fertil Steril 2020; 113: 85(スペイン)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.008

要約:2014〜2018年に反復流産(324名)あるいは反復胚移植不成功(200名)の方を対象に、慢性子宮内膜炎検査及び、末梢血と子宮内膜(LH+7〜9)の免疫学的変化を後方視的に検討しました。反復流産は2回以上の連続した妊娠20週未満の流産、反復胚移植不成功は2回以上の採卵で11個以上の良好胚移植を行い結果が出ていない方としました。免疫学的指標として、末梢血はT細胞、NK細胞、B細胞、NK活性、Th1をフローサイトメトリーで、子宮内膜はCD56+NK細胞、CD163+M2マクロファージ、CD1a+樹状細胞、CD68+マクロファージ、CD83+樹状細胞、CD8+T細胞、Foxp3+Treg細胞を免疫組織化学で調べました。慢性子宮内膜炎の有無により、末梢血の全ての項目と子宮内膜のCD56+NK細胞、CD163+M2マクロファージ、CD1a+樹状細胞に有意な変化を認めませんでしたが、慢性子宮内膜炎の方では子宮内膜のCD68+マクロファージ、CD83+樹状細胞、CD8+T細胞、Foxp3+Treg細胞が有意に増加していました。しかし、慢性子宮内膜炎の治療完了後は、これらの細胞は有意に減少しました。

 

解説:慢性子宮内膜炎は、反復流産の7〜56%、反復胚移植不成功の7.7〜44%で認められるとの報告があります。妊娠成立には絶妙な免疫バランスが必要であると考えられますので、慢性子宮内膜炎の方の末梢血や子宮内膜で免疫学的な変化が生じている可能性が考えられます。本論文の研究はこのような背景の元に行われ、末梢血の変化はなく子宮内膜で一部の免疫担当細胞が増加することを示しています。これらの免疫担当細胞は、慢性子宮内膜炎治療後に正常化していますので、その関与には疑いがないものだと思います。

 

コメントでは、PGT-A正常胚での検討が必要であり、結論は導くことはできないとしています。

 

慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。

2020.1.3「慢性子宮内膜炎の評価:後方視的検討

2019.10.10「慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ

2019.4.19「☆慢性子宮内膜炎の診断に子宮鏡が有効か?

2018.8.10「☆慢性子宮内膜炎治療の有用性について:メタアナリシス

2018.1.7「原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は?

2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討

2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係

2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2

2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係

2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」