慢性子宮内膜炎の評価:後方視的検討 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、慢性子宮内膜炎の評価について後方視的検討を行ったものです。

 

Fertil Steril 2019; 112: 1103(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.08.006

要約:良好新鮮胚移植を2回行って結果が出ていない方141名(20〜38歳、BMI 18〜25)を対象に、CD138陽性細胞のカウント数と凍結胚移植の関連を後方視的に検討しました。なお、良好新鮮胚移植は、3日目初期胚は7G2以上のもの、5日目胚盤胞は4BC以上のものとしました。内膜組織採取は、自然周期の排卵後7日目に実施しました。CD138陽性者は31.2%(44/141)に認められ、ROC曲線から妊娠を予測するためのAUCは、全体のCD3陽性細胞数で0.660、1mm2あたりのCD3陽性細胞数で0.658でした。ROC曲線から求めたカットオフ値は、全体のCD3陽性細胞数で0.5、1mm2あたりのCD3陽性細胞数で0.024でした。このカットオフ値を元にした臨床妊娠率は下記の通り有意差を認めました。

 

全体のCD3陽性細胞数    0    1〜5   6〜

臨床妊娠率        80.4%  60.6%  27.3%

 

1mm2あたりのCD3陽性細胞数   <0.024  0.024=<  

臨床妊娠率            80.8%   50.0%  

 

また、内膜組織採取当日の腹水が無いことがCD138細胞陽性と有意に相関しました(P=0.011)。

 

解説:慢性子宮内膜炎の診断には一定の基準がないのが現状です。各施設で独自の基準を用いており、リプロでは、400倍で20視野に5個以上のCD138細胞がある場合に陽性としています。この基準は、臨床成績と非常に相関しています。本論文は慢性子宮内膜炎における後方視的検討を行ったものであり、本論文の筆者はROC曲線から標本全体のCD138陽性細胞が1個以上をカットオフにするように記載していますが、臨床妊娠率の検討からは6個以上が良いのではないかと考えます(ただし、実際に何視野見ているかは記載されていません)。ただし、一つの施設の後方視的検討で、症例数も少ない為、結論を導くことはできません。

 

慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。

2019.10.10「慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ

2019.4.19「☆慢性子宮内膜炎の診断に子宮鏡が有効か?

2018.8.10「☆慢性子宮内膜炎治療の有用性について:メタアナリシス

2018.1.7「原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は?

2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討

2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係

2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2

2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係

2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」