慢性子宮内膜炎を治療しなかったら?  | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、慢性子宮内膜炎を治療しなかった場合と治療を行った場合の治癒率に関する症例対象研究です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 1541(イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.018

Fertil Steril 2021; 115: 1443(リプロ大阪北宅医師)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.023

要約:2017〜2019年に慢性子宮内膜炎と診断された方(CD138免疫染色、病理標本、子宮鏡検査)64名を対象に適切な抗生剤治療を実施しました(最大3クール)。一方、2015〜2019年に慢性子宮内膜炎と診断され抗生剤治療を拒否した64名を対照群とし、内膜炎の治癒率を後方視的に検討しました。なお、抗生剤の選択は細菌検査を元に選択しました。1クール目は、グラム陰性菌にはシプロフロキサシン1000mgx10日間、グラム陽性菌にはアモキサシリン+クラブラン酸(オーグメンチン)2gx8日間、2クール目はミノサイクリン200mgx12日間を用いました。細菌検査陰性者には、セフトリアキソン250mg筋注+ドキシサイクリン200mgx14日間+メトロニダゾール1000mgx14日間を用いました。慢性子宮内膜炎治癒率は下記の通り(有意差ありを赤字表示)。

 

                  診断方法

抗生剤治療群    子宮鏡     病理標本      CD138      

1クール    31.3%(20/64) 65.6%(42/64) 46.9%(30/64)

2クール    62.5%(40/64) 87.5%(56/64) 75.0%(48/64)

3クール    81.3%(52/64) 93.8%(60/64) 93.8%(60/64)

無治療群    6.3%(4/64)

 

解説:本論文は、慢性子宮内膜炎を治療しなかった場合と治療を行った場合の治癒率に関する症例対象研究であり、抗生剤治療群で治癒率が有意に高いことを示しています。

 

コメントでは、慢性子宮内膜炎の診断方法、診断基準に定まったものがないこと、しかしながら慢性子宮内膜炎は間違いなく着床障害や胎盤形成にマイナスに作用することを前提とし、抗生剤の治療が有効であるとしています。一方で、自然治癒の可能性もあり得ますが、本論文がその可能性が極めて低いことを示しています。また、慢性子宮内膜炎は、細菌感染だけでなく、免疫応答の不備によって生じる可能性も示唆されており、今後の研究が必要であるとしています。

 

慢性子宮内膜炎については、下記の記事を参照してください。

2020.3.13「慢性子宮内膜炎の際の免疫学的変化

2020.1.3「慢性子宮内膜炎の評価:後方視的検討

2019.10.10「慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ

2019.4.19「☆慢性子宮内膜炎の診断に子宮鏡が有効か?

2018.8.10「☆慢性子宮内膜炎治療の有用性について:メタアナリシス

2018.1.7「原因不明不妊症の方へ慢性子宮内膜炎検査は?

2017.10.31「☆慢性子宮内膜炎の治療戦略:前方視的検討

2016.5.27「慢性子宮内膜炎と全身の炎症は無関係

2016.4.17「☆正常胚が着床しないのは何故? その2

2016.1.22「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係

2015.10.18「慢性子宮内膜炎と反復流産の関係」
2015.5.21「☆慢性子宮内膜炎と異常子宮収縮の関連」
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」