DORの原因遺伝子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、DORDiminished Ovarian Reserve:ボローニャクライテリアに基づく卵巣刺激で低反応、AFCゼロかごく僅か)の原因遺伝子に関するシステマティックレビューです。また、Fertil Steril Revという新しい医学雑誌の記念すべき第1号の巻頭に掲載された論文です。

 

Fertil Steril Rev 2020; 1: 1(米国、中国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfnr.2020.06.001

要約:これまでに発表されたDORの原因遺伝子に関する108論文を対象に、システマティックレビューを行いました。DORの方では、FMR1、FMR2、BMP15、GDF9、FSHR、NOBOXの遺伝子変異の頻度が有意に高くなっていました。また、DORの方でBRCA1やBRCA2遺伝子変異の頻度増加を示唆する報告もありますが、有意差を認めていません。これらの遺伝子変異は子孫へも受け継がれる訳ですが、その中でFMR1遺伝子変異はお子さんの脆弱X症候群(Fragile X syndrome)が、BRCA1およびBRCA2遺伝子変異はお子さんの乳癌・卵巣癌が懸念されます。

 

解説:男性の場合、造精機能障害と他臓器の機能障害とのリンクがあるとして、TDS(精巣形成不全症候群=Testicular Dysgenesis Syndrome)が提唱されています。TDSは、精子数減少、精巣癌、尿道下裂、停留精巣の4つの男性の生殖器異常を指し指し、北欧諸国で提唱されました。本論文は、女性の場合にも、DOR(卵巣機能低下)と他臓器疾患のリンクを示唆するものです。つまり、男女とも、生まれつきの生殖機能低下がある場合には、生まれつき他臓器の機能異常も生じている可能性があるのではないかと考えられます。しかし、この研究はまだ始まったばかりですので、今後の経過を見守りたいと思います。

 

早発卵巣不全(POF、POI)の遺伝子変異については、下記の記事を参照してください。

2021.1.7「早発卵巣不全に対するIVAとLOI:ビデオ論文

2020.6.10「早発卵巣不全のMCM9遺伝子変異

2019.12.14「STAG3遺伝子変異による精子形成過程における減数分裂停止

2015.7.13「NGSでPOFの原因遺伝子検索

2015.5.13「☆POF(早発卵巣不全、早発閉経)の発生率

2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します

FMR1遺伝子変異については、下記の記事を参照してください。

2016.7.4「FMR1遺伝子と妊娠成績の関係
2015.11.14「FMR1遺伝子と卵巣予備能の関係」

 

BRCA遺伝子変異については、下記の記事を参照してください。

2016.4.22「BRCA遺伝子変異を有する方の妊娠治療による卵巣癌リスク
2013.5.31「乳癌遺伝子(BRCA)と早発閉経の関係」
2013.8.29「BRCA遺伝子変異があるとなぜ早発閉経になるか」
2015.1.20「BRCA遺伝子変異とAMH低下の関連」
2015.6.7「BRCA遺伝子変異保因者における卵巣癌発症リスク」

 

AMH低下については、下記の記事を参照してください。

2020.11.7「37歳以下で採卵数低下女性の加齢依存性疾患罹患

2020.8.4「☆卵巣予備能低下の35歳以下の女性の妊娠予後

2020.6.7「AMH低下で不育症増加!?

2018.7.22「AMHと妊孕性

2018.7.9「AMHと流産との関連

2018.7.7「卵巣反応不良の方の出産率

2017.12.29「卵巣予備能低下と流産の関係は?

2017.10.3「AMHと卵子の質の関係は?

2016.5.24「不育症では卵巣予備能が低い?

2016.5.14「不妊症の方はAMHが低いのか?