BRCA遺伝子変異保因者における卵巣癌発症リスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、BRCA遺伝子変異保因者における卵巣癌発症リスクについて妊娠治療との関連を調査したものです。

Fertil Steril 2015; 103: 1305(イスラエル)
要約:1995~2011年に、イスラエルのユダヤ教徒でBRCA遺伝子変異を持つ女性1073名のデータ解析を行ないました。妊娠治療は164名(15.2%)の方に行なわれており、クロミフェン治療82名、hMG治療69名、体外受精66名でした。卵巣癌は175名に発症し、BRCA1遺伝子変異139名、BRCA2遺伝子変異33名、未知の遺伝子変異3名でした。妊娠治療と卵巣癌発症との関連は認めませんでした。しかし、BRCA遺伝子変異保因者では、更年期ホルモン補充療法により卵巣癌リスクが2.22倍と有意に増加し、ピルにより卵巣癌リスクが0.19倍と有意に減少しました。また、出産歴は卵巣癌リスク増加の一因となりました。

解説:卵巣癌発症頻度は、BRCA1遺伝子変異では39~54%、BRCA2遺伝子変異では11~23%に認められます。絶え間ない排卵現象が卵巣癌発症の一因ではないかと考えられており、排卵誘発は卵巣癌のリスク因子の可能性が示唆されていました。しかし、最近のメタアナリシスによると、妊娠治療と卵巣癌の関連は否定されています。BRCA遺伝子変異保因者では卵巣癌発症のリスク高まりますので、本論文はこれら卵巣癌発症率の高い方において妊娠治療がどのような影響をもたらすか初めて調査したものです。その結果、BRCA遺伝子変異保因者においても、妊娠治療と卵巣癌の関連は否定的となりました。

ピルは排卵を抑制する治療ですので、卵巣癌リスクが低下します。一方、更年期ホルモン補充療法は、閉経後長期にわたるホルモン療法ですので、同じようなホルモン治療でも真逆の結果が得られたのではないかと考えます。

BRCA遺伝子変異については、下記の記事を参照してください。
2013.5.31「乳癌遺伝子(BRCA)と早発閉経の関係」
2013.8.29「BRCA遺伝子変異があるとなぜ早発閉経になるか」
2015.1.20「BRCA遺伝子変異とAMH低下の関連」