FMR1遺伝子と妊娠成績の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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卵巣予備能低下(AMH低下)の原因については、これまでにBRCA1/2遺伝子変異(BReast CAncer 1/2)、FMR1遺伝子変異(Fragile X Mental Retardation、脆弱X精神発達障害)、SF1遺伝子変異(Steroidgenic Factor 1)、GDF9遺伝子変異の関与が示されています。本論文は、FMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数に着目し、妊娠成績との関連を検討したものです。

Fertil Steril 2016; 105: 1537(米国)
要約:2012~2015年に自己卵子による体外受精を行った3290名、4690周期を対象に、FMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数と妊娠成績の関連を後方視的に調査しました。FMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数は採卵数と有意な正の相関を認めましたが、極めて弱い関連であり、AMH、AFC、年齢、FSH値に及ばないものでした。また、FMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数は、胚のグレードや生産率との関連もありませんでした。

解説:脆弱X症候群(Fragile X syndrome)は、FMR1遺伝子のCGG配列のリピート数によって症状の出方が異なります。男性ではCGGが200回以上のリピート数で軽度精神発達障害となりますが、女性では55~199回のリピート数で早発卵巣不全(早発閉経)になることが知られています。CGG塩基のリピート数が多くなると、FMR1遺伝子の機能不全が生じます。リピート数200回以上では完全変異となりますが、リピート数55~199回の場合は部分変異です。このCGGリピート数が54回以下の場合、26回未満を低下、26~34回を正常、35~54回を正常上限と定義しています。CGGリピート数が54回以下の場合の卵巣予備能については、CGGリピート数が多くても(35~55)少なくても(26未満)FMR1蛋白が低下し、卵巣予備能も低下すると過去に報告されていました。一方、2015.11.14「FMR1遺伝子と卵巣予備能の関係」では、逆にリピート数35~54の方もリピート数26回未満の方も、CGG塩基のリピート数と卵巣予備能の関連がないことを示しました。本論文は、FMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数は採卵数と有意な正の相関を認めましたが、極めて弱い関連であり、AMH、AFC、年齢、FSH値に及ばないものであることを示しています。まだ結論づけることができませんので、今後の検討を待ちたいと思いますが、現状では卵巣予備能の指標としてFMR1遺伝子のCGG塩基のリピート数を採用するのは得策ではありません。

FMR1遺伝子と卵巣予備能については、下記の記事を参照してください。
2015.11.14「FMR1遺伝子と卵巣予備能の関係」
2012.10.26「AMHは人種によって違う」
2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します」