AMHは人種によって違う | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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AMH値は人種によって違うことが知られています。本論文は、人種間のAMH値の違いはFMR1遺伝子発現の違いによることを示唆しています。FMR1遺伝子は早発卵巣不全(早発閉経)と関連していますので、興味深い論文だと思います。

Reprod Biol Endocrinol 2012;10: 77
要約:62名の若い卵子ドナー(平均24歳)と536名の高齢の不妊治療女性(平均38歳)のAMH、FSHとFMR1遺伝子(サザンブロット、PCR法)を検査しました。若い卵子ドナーでは、白人、アフリカ人、アジア人の人種間でAMH、FSHに違いはありませんでしたが、採卵できた卵子数がアフリカ人で有意に多い結果でした。一方、高齢の不妊治療女性では、アジア人のAMHが有意に高く、FMR1遺伝子変異(正常/低下のヘテロパターン)が有意に少ない結果でした。

解説:FMR1遺伝子は、脆弱X症候群、失調症候群(男性)、早発卵巣不全(女性)と関連することが知られています。FMR1遺伝子の変異は、CGG塩基の繰り返しが正常では5~40回であるのに対し、これらの疾患ではCGG塩基の繰り返しが多くなり、FMR1遺伝子の機能不全が生じます。特に脆弱X症候群では200回以上の繰り返しの完全変異となりますが、失調症候群と早発卵巣不全では59~199回の繰り返しの部分変異です。本論文では、CGG塩基の繰り返しが26~34回を正常、35回以上を増加、26回未満を低下と定義しています。その上で、AMH低下とFMR1遺伝子のCGG塩基の繰り返しが低下パターンの関連を示唆しています。これは、早発卵巣不全とは逆のパターンです。また、CGG塩基の繰り返しが5~40回の範囲にある正常な方も含まれています。