☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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若年者の卵巣予備能低下(AMH低下)の原因について様々な研究がなされています。本論文は、GDF9(growth differenciation factor-9)の遺伝子変異が卵巣予備能低下の一因であることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2473(中国)
要約:37歳未満で卵巣予備能低下の方139名と対照群152名のGDF9遺伝子変異を検討したところ、2つの遺伝子変異(p.R146C、p.D57Y)が認められました。p.R146C遺伝子変異は卵巣予備能低下群3名に認められましたが、対照群では認められませんでした。p.R146C遺伝子変異では培養細胞のGDF9蛋白分泌が有意に少なく、GDF9による顆粒膜細胞の増殖やSmad2経路活性化を減弱しました。また、GDF9のアルファへリックスの構造が変化していました。一方、p.D57Y遺伝子変異は、卵巣予備能低下群(6名)のみならず対照群(2名)にも認められ、問題となる影響を認めませんでした。

解説:現在までのところ、卵巣予備能低下(AMH低下)の原因については、BRCA1/2遺伝子変異(BReast CAncer 1/2)、FMR1遺伝子変異(Fragile X Mental Retardation、脆弱X精神発達障害)、SF1遺伝子変異(Steroidgenic Factor 1)、そしてGDF9遺伝子変異の関与が示されています。BRCA 1/2遺伝子とFMR1遺伝子については2013.8.29「BRCA遺伝子変異があるとなぜ早発閉経になるか」で、FMR1遺伝子については2012.10.26「AMHは人種によって違う」でもご紹介しました。

GDF9は卵子から分泌される因子として1998年に初めて発見され、2013.9.16「卵巣凍結の進歩」では卵巣の免疫染色における卵子マーカーとして使用されています。GDF9は、BMPRによって修飾され、顆粒膜細胞のSmad 2/3経路を活性化します。GDF9欠損メスマウスは完全に不妊となり、初期の卵胞発育が起こらず、顆粒膜細胞の分化も障害されます。一方、GDF9欠損オスマウスでは何も障害されません。in vitroの実験では、GDF9は前胞状卵胞から胞状卵胞への変化を促進し、卵子の機能を活性化し、Smad 2/3経路を通じて顆粒膜細胞を分化させることが知られています。

ヒトでは、GDF9遺伝子変異と早発卵巣不全(早発閉経、POF)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、2卵性双胎出産との関連が明らかとなっています。興味深いことに、メスの羊ではGDF9遺伝子変異により、排卵率の増加と小さな黄体が認められ、LH受容体の早期獲得と卵胞の早期成熟が示唆され、その結果多胎妊娠となります。ヒトではふたごを出産した女性はそうでない女性より閉経が早いことも報告されています。つまり、GDF9遺伝子変異は、元々卵子が少ないのではなく、卵子の消費スピードが早いため枯渇すると推察されます。2013.10.13「☆☆チョコレート嚢腫術後に低下したAMHが増加する場合がある?」では、卵胞供給システムをダムと水門のような関係にたとえました。ダムに貯蔵されている原始卵胞の数が同じだとしても、卵胞供給の蛇口である「水門」が沢山あればどんどん卵子がなくなっていくわけです。若い時にはPCOSの方も、年齢を経るにつれ普通の状態になったり、1年前に正常だったAMHが突然半減していたりということがしばしば経験します。これは、まさに「水門」の開放を意味しているのではないかと考えています。もし、AMH低下に「水門」の開放が原因となる方がおられるとしたら、「水門」を閉じれば良い訳です。それが自由に調節できたら、卵子の現象を食い止められるかもしれません。非常に興味深い論文です。