BRCA遺伝子変異を有する方の妊娠治療による卵巣癌リスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、BRCA遺伝子変異を有する方の妊娠治療による卵巣癌リスクは増加しないことを示しています。

Fertil Steril 2016; 105: 781(欧州)
要約:欧州20カ国72施設で、BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異を有する女性15,002名を登録し、欠落データのない13,108名から、卵巣癌になった方1,642名と卵巣癌にならなかった方11,466名を抽出し、後方視的に解析しました。この2群間で遺伝子変異、年齢、出産歴、居住地、ピル使用歴、乳癌既往歴をマッチさせた941組を比較検討しました。体外受精実施の有無、人工授精の有無、排卵誘発剤使用の有無は、2群間で有意差を認めませんでした。

解説:一般集団において、妊娠治療による卵巣癌リスクは増加しないことが知られていますが、BRCA遺伝子変異を有する方においての検討は症例数の少ない報告しかありませんでした。本論文は複数の国にまたがる多施設共同研究(ケースコントロール研究)により、BRCA遺伝子変異を有する方においても妊娠治療による卵巣癌リスクは増加しないことを示しています。

BRCA遺伝子変異を有する方では、乳癌および卵巣癌卵管癌のリスクの増加のみならず、卵巣予備能の低下や閉経が早くなることが知られています。妊娠治療で使用される薬剤は、エストロゲンを増加させるものが含まれていますので乳癌のリスク増加にもなります。しかし、卵巣癌の増加にはならないことを示しています。BRCA1遺伝子変異を有する方は35歳までに、BRCA2遺伝子変異を有する方は40歳までに両側卵巣卵管の摘出が推奨されています。したがって、BRCA遺伝子変異を有する方は、卵巣摘出前に妊娠治療を積極的に行い、短期決戦で勝負するのが良いと考えます。

BRCA遺伝子変異については、下記の記事を参照してください。
2013.5.31「乳癌遺伝子(BRCA)と早発閉経の関係」
2013.8.29「BRCA遺伝子変異があるとなぜ早発閉経になるか」
2015.1.20「BRCA遺伝子変異とAMH低下の関連」
2015.6.7「BRCA遺伝子変異保因者における卵巣癌発症リスク」