Q&A1068 不育症検査をするか迷っています | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 結婚3年目、妊娠治療歴2年目、妻41歳(卵管両閉塞)、夫32歳(精子指数40前後)

4回目の胚盤胞5AA移植(3回目までは初期胚)で初めて妊娠し、妊娠判定日(4w2d)のhCG 470でしたが、妊娠9週にて稽留流産となりました。
妊娠5週と6週で少量ながら一度ずつ鮮血出血し、チョコレート色のオリモノはほぼ毎日続いていながらも発育は週数相当で、妊娠10週に入る頃にはオリモノも透明になり順調な中、妊娠10週後半の初回妊婦健診で心音が消えていました。胎児は21mmでした。診察した産科の先生が、ここまで育つとダメになることは滅多にないんですが…と仰っていたのが気になり、母体側なのか胎児側の原因なのか調べた方が良いのではとも思いましたが、突然の流産宣告と数日後の掻爬手術のショックで染色体検査をする決断を下せないまま全てを終えてしまいました。今となっては染色体検査をしておけば良かったと悔やむばかりです。

数日前流産後初めての生理になり、次の生理が来たらまた治療を再開する予定ですが、このまま移植を続けて良いか悩んでいます。5日目胚盤胞4AB、4BB、初期胚3日目グレード2桑実胚のストックがあります。
一度の初期流産のみですので、不育症検査を受ける要件を満たしていませんが、次の移植に進む前に検査をする価値はあるのでしょうか。去年10月にショート法にて19個採卵、顕微受精、胚盤胞3個と初期胚1個の凍結に至りましたが、私の歳のこともあり次の採卵で良い結果を出せるかの保証もなく、今ある凍結胚を無駄にしたくありません。どうすれば良いか迷っています。

A 私は、1回の流産でも流産胎児絨毛染色体検査をお勧めしています。染色体が正常なのに流産したのであれば不育症検査を行う価値が出てくるからです。一方、染色体異常だったのであれば、不育症検査をせずに安心して次の妊娠を目指すことができます。流産胎児絨毛染色体検査をしていない場合は考え方によりますが、現在ある凍結胚を無駄にしたくないお気持ちでしたら、不育症検査を行うことをお勧めいたします。もちろん、この場合、不育症の定義にはあてはまりません。

このように、医学的な定義と実際の臨床は異なる場面が出てきます。医師にとっては大勢の患者さんの中の1人のことですが、患者さんにとっては自分自身の問題です。流産1回で不育症検査をするのを頑なに拒む医師もおりますが、流産をもう一度繰り返すまで待つのは患者さんにとって酷なことだと思います。流産は身内の死と同じ程度の重大な喪失体験です。次の妊娠がうまくいくように最善を尽くすのは非常に良いことだと思います。