寺子屋でビッグバンを扱うということは、期せずしてこれまでの物理学の総復習にもなりました。
ニュートン力学、ファインマンのQED、ビッグバンの熱力学、マクスウェルの電磁気学、ラプラスの魔、アインシュタインの相対論などが次々と出てきました。
今回、波動関数を通じて、ビッグバンを観るというときのネタはホーキングの無境界仮説でした。いや、実際に数式に触れるには、少し難しすぎて簡単な紹介のみでしたがw
アインシュタインのフリードマン解から、ガモフの火の玉宇宙論、ビッグバン理論、そしてハッブルの赤方偏移、ガモフの予言した火の玉宇宙の残光である3K背景放射。これらが示すのはアインシュタインの厳密解の1つである特異点から宇宙が生まれたというものです。
フリードマン解(方程式)は膨張宇宙のモデルを示しました。
膨張宇宙ということを認めるなら、数学的には最初は大きさゼロの点からスタートしたと考えざるを得ません。
これを特異点からのビッグバンという形にきちんと定式化したのがペンローズとホーキングです。
ヒントはブラックホールでした。
十分に大きな質量を持つ星は、自分の重みに耐えかねてどんどん収縮します。パウリの排他原理も無視して潰れていきます。ある臨界点を超えるとその星の中心は特異点になるというのがペンローズの理論でした。
このビッグバンの生成の時間を逆向きにするとビッグバンになるというのがペンローズとホーキングの理論です。
そもそも現在の宇宙が膨張しているのはハッブルの観測によって明確なのですから、ずっと膨張しているという前提に立つならば、時間を逆向きにすれば収縮していきます。
物理現象は時間に対して対称性があるので(もちろん熱力学的な現象にはそれが当てはまりません。覆水盆に返らずです)、時間の矢を逆向きにしても問題ありません。これがペンローズとホーキングの特異点理論です。宇宙は特異点からスタートしました。これが相対性理論のアインシュタイン方程式での結論です(前述したように、その後ホーキングは量子力学を導入した無境界仮説を発表しますがw)。
それはさておき、無境界仮説そのものがファインマンの経路積分の考え方を使います。
経路積分の考え方はすべての経路を通る振幅の和が波動関数であり、その自乗が存在確率というものでした。
ファインマンのQED(量子電磁力学)では、最初に鏡の反射などからそれを考えます。
ユークリッドによって始まり、フェルマーによって完成した幾何光学は整合性の高い完璧な理論でしたが、説明できないことがいくつかあります。
もちろん二重スリット実験はその代表例ですが、もっとシンプルな実験もあります。
たとえば、A地点を光源とし、B地点に光が届くとすると、その光子の通り道は直線と考えます。すなわち測地線ですね。
しかし、もし光が直進すると考えると奇妙なことが起こります。
A地点からB地点に道があるとしたら、その両端を塞ぎます。壁のようなものでふさいで、AとBを結ぶ直線道路だけを残すようにします。すると、奇妙なことに光はB地点に届かなくなります。光は直進をやめて、曲がり始めます。むしろB地点に届かなくなります。
*AとBを結ぶ直線上だけを通り道として確保しても、恥ずかしがり屋の光はそこをまっすぐには通過してくれません。
これは経路積分の考え方をきちんと採用すれば説明できますが、幾何光学で考えればナンセンスな現象です。
この一連の話は寺子屋「ファインマン先生の量子電磁気学」のテーマの1つでしたが、この話に続けて、ファインマン先生はこう語ります。
(引用開始)
これは「不確定性原理」の一例で、光が遮蔽物のどこを通るのかということと、そこを通ったあとどこへ行くのかということは、両方を正確に知ることは絶対できないという意味で、いうなれば「二者択一的」なものである。私はこの「不確定性原理」を歴史上の位置に据えたい。量子物理という革命的な理論ができはじめた頃、人はまだ(たとえば光は直進するなどというように)ものごとを旧式な考えで理解しようとしていた。ところがある点から先は旧式な考えが役に立たなくなりはじめ、「これについては旧式な考え方なんぞ全然通用しない」というような警告が発せられるようになった。もしわれわれが旧式な考えを完全に捨て去り、私がこの講演で説明しているような考え方、すなわちある事象が起り得る経路全部の矢印を合せる考え方を使ってゆけば、もはや「不確定性原理」などわざわざ持ち出す必要もなくなる。(引用終了)(ファインマン 光と物質の不思議な理論pp.78-79)
端的に言えば、幾何光学は古いパラダイムであり、経路積分という考え方がきちんと浸透すれば、「不確定性原理」という奇妙な原理自体も消えるということです。もちろん不確定性原理を否定しているのではなく、経路積分もしくは量子力学に不確定性原理は包摂されるので、取り出す必要がないということです。
ニュートン力学以降に科学としてアリストテレスの「四大元素」を持ち出す必要がないのと同じです。
不確定性原理が不確定性原理として存在するのは、古典力学の世界観ゆえということです。
これはかなり納得のいく議論です。マクスウェルの電磁方程式における光速度一定は、アインシュタインの相対性理論によって包摂されました。不確定性原理も同様ということです。
早く「旧式な考え方を完全に捨て去り」たいものです!
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