「シネマ報告書」は、映画鑑賞後の率直な感想を伝えるため、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれる場合があります。
これから観ようと思っている方は、本報告書の趣旨についてご理解のうえ十分注意してお読みくださるようご了承願います。
アンソニー・ホプキンス
オリビア・コールマン
マーク・ゲイティス
イモージェン・プーツ
ルーファス・シーウェル
オリビア・ウィリアムズ
【あらすじ】
ロンドンで独り暮らしをしている81歳のアンソニーは、娘アンの献身的な介護に支えられながら静かに暮らしていた。
ある日、新しい恋人とパリで暮らすことをアンから告げられアンソニーは哀しみに暮れるが、翌日目覚めると、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと説明される。さらには、買い物から帰ってきたアンが全くの別人になっており、パリなど行かないといわれ混乱する。
アンソニーの身に何が起こっているのか、何が現実で何が虚実なのか分からないまま、アンソニーは混乱していく―
【コメント】
緊急事態宣言延長により、未だシネコン系の映画館が開館できていない今日この頃。僕としては映画館の休館自体が納得できないのですが、そんな中、小規模の映画館は営業を再開しているようで、近所の映画館「立川キノシネマ」も営業再開したとの情報を得たことから、さっそく足を運んだ次第。
鑑賞した本作は、見事、今年度第93回アカデミー賞の主演男優賞と脚色賞を受賞した作品で、自分の受賞はないだろうと家で寝てた主演のアンソニー・ホプキンスが急きょオンラインでコメントしたというほのぼのニュースもあったり。
ともあれ、小さい映画館も再開したし、本作の評判も上々のようなので、さっそく鑑賞してみた次第です。
(C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
まず、本作のポスター、親子の絆を確かめ合うかのように娘が父親に寄り添う1シーン。本作のキーワードとして“認知症”というテーマがあることからも、認知症の父親と、彼を懸命に介護する娘との日常を描いた、よくあるお涙頂戴の感動のヒューマンドラマであろうと推測するでしょう。
全っ然違う!全く違うんです!本作は、認知症を患った主人公アンソニーの視点、つまり認知症の主観で物語が展開していく画期的な物語で、つまりは観る者が“認知症”という病気を追体験させられる映画なんです。これまで認知症をテーマにした作品は数あれど、それらはすべて客観的視点から描かれたものなんですね。それが本作では、主人公アンソニーの目線で、認知症患者は日常がこのように見えている、このように感じている、という主観的な視点で描かれている、ありそうでなかった映像なんです。医学的に認知症患者が本作のように見えているのかどうかは定かではありませんが、本作はヒューマンドラマどころかSFスリラー、もっと言えばホラーと言っても過言ではない衝撃的な作品。良い意味でポスターに騙されましたね。めっちゃくちゃ面白かったです!!!
名優アンソニー・ホプキンスの名演は言わずもがな、本作はストーリーテリングがとにかく秀逸で、前半???な展開が続くのですが、その???な展開が後半に行くにしたがってパズルのピースのようにはめ込まれていき、最後に全体像が見えてくる。まるで終始タイムスリップしているかのような感覚で、何が本当で何が妄想なのかもはっきりしない。まるっきりSFスリラーな展開なんですが、恐ろしいのは、これが認知症の主たる症状であるということ。SFでも何でもない、これが“認知症”という現存する病気で、誰が患ってもおかしくない病気であるということなんです。
僕は本作、将来認知症の不安がある人や、実際に認知症を患った身内を介護したことのある人、そして現在進行形で介護中の人に是非とも観てもらいたいと感じます。僕も昔、祖母が認知症を患い色々と大変な思いをした経験がありますが、本作を観ることで、認知症患者が日常的にどんな世界を見ているのか、どう感じているのかということがなんとなく理解できるんですね。認知症の立場になって考えることで、彼らがいかに日常的に混乱しているのかというのを理解でき、介護の姿勢も変わってくるんじゃないかと思います。訳の分からないことを言う祖母に対し冷たくあしらったり、時には声を荒げてしまったりしたこともありました。だけど、ああ、あの時ばあちゃんはこういう状態だったのか、こんな風に見えていたのかと、本作を観て初めて理解できた気がします。
(C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
そんなわけで、このコロナ禍で映画上映もままならない中、2021年度の中で大傑作の部類に入る一本を鑑賞できたのは非常に嬉しいことです。今年、これ以上の作品が出てくるのかな~と危惧してしまうくらいの最高な作品。
認知症は決して他人事ではない。身内が発症してしまう可能性も、自分が患ってしまう可能性も十分にある。現在においても認知症のはっきりした原因と治療法は見つかっておらず、世界中で社会的な問題となっています。データによると、現在日本での認知症患者は約600万人、2050年には1000万人を超えるともいわれています。寿命が延び長生きする世の中になってきているとはいえ、その裏には認知症で苦しんている老人と、その介護に苦しんでいる家族たちがいるわけです。
言ってしまえば、認知症は人間の脳の老化であり、それを果たして現代の医学で克服できる時代が来るのでしょうか。少なくとも僕が生きているうちはできないと思ってますが、本作のように認知症を追体験することで、老後の備えや覚悟に繋がるのであれば、それだけでも一歩前進だと思います。
【2021年度 Myランキング】(5/16時点)
本作は、本年度のベスト10中1位(暫定)にランクイン。
また胃痛が・・・
(ベスト)… ★★★☆以上が基準
1位:ファーザー ★★★★★
2位:すばらしき世界 ★★★★
5位:ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実 ★★★★
6位:哀愁しんでれら ★★★☆
7位:騙し絵の牙 ★★★☆
9位:ノンストップ ★★★☆
次点:
(ワースト)… ★★☆以下が基準
2位:太陽は動かない ★★☆
3位:
<その他ランク外一覧>
燃えよデブゴン TOKYO MISSIONおとなの事情 スマホをのぞいたら名も無き世界のエンドロールファーストラヴチャイニーズ・ゴースト・ストーリー(未)アーカイヴコスモボールインビジブル・スパイブレイブ-群青戦記-フローズン・ストーム(未)魔女がいっぱいマシンガール DEAD OR ALIVEホムンクルス#フォロー・ミー星の王子ニューヨークへ行く2クローゼットザ・スイッチ恋する遊園地るろうに剣心 最終章 The Finalズーム/見えない参加者ノマドランドプロジェクトV食われる家族