新・法水堂 -2ページ目

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

劇団あはひ

『ピテカントロプス・エレクトス あるいは私たちはどこから来たのか、私たちはどこへ⾏くのか?』

PITHECANTHROPUS ERECTUS



2024年5月24日(金)〜6月2日(日)
東京芸術劇場シアターイースト

作・演出:大塚健太郎

美術:杉山至

映像:須藤崇規 映像操作:宮田真理子

音楽:川村隆太郎 音響:筧良太
照明:千田実 照明操作:麗乃

舞台監督:原口佳子

舞台部:前田淳、齋木理恵子

衣裳:今村あずさ ヘアメイク:高村マドカ

宣伝美術(アートワーク):米澤柊

宣伝美術・web:相馬称
ドラマトゥルク:小名洋脩 演出助手:福田麗

制作:高本彩恵

制作協力:藤崎春花、加藤七穂、臼田菜南

出演

山田健太郎(猿人1)
野口千優(猿人2)
美都(猿人3)
鈴木翔陽(猿人4)
すずき咲人心(原人1)
上川拓郎(原人2)
外山史織(原人3)
今村航(原人4)
川添野愛(旧人1)
小川清花(旧人2)
長谷美里(旧人3)
山上晃二(旧人4)
松尾敢太郎(猿長明)
踊り子あり(人長明)

アンダースタディ:福田麗、滝本悠人


STORY

第一幕 そこは400万年前の地球。地殻変動によって人類史上初めて直立二足歩行を成し遂げた猿人、アルディビテクス・ラミダスの一家が自慢の二足歩行で村散歩を楽しんでいたところ、見慣れぬ巨大な穴を発見。穴の底から響いてくるのは、700万年前、まだ森で暮らしている猿の悲しげな声。

第二幕 そこは180万年前の地球。ふたたびの地殻変動により人類史上初めて狩られる側から狩る側となった原人。ホモ・エレクトスの軍団が自慢のハンドアックス片手にハンティングを楽しんでいたところ、見慣れぬ巨大な穴を発見。穴の底から響いてくるのは、400万年前のラミダスの一家の悲しげな声。

第三幕 そこは30万年前の地球。地球全体を襲った二度の氷期による砂漠化から脱出し、環境に合わせて肌を白く進化させた旧人、ネアンデルタール人の一行が発展に向けて邁進していたところ、見慣れぬ巨大な穴を発見。穴の底から響いてくるのは、180万年前のエレクトス軍団の悲しげな声。

第四幕 そこは0万年前の地球。繰り返されるピテカントロプス・エレクトスたちの興亡を憂う新人、ホモ・サピエンスの隠者が佇んでいると、あの穴の底から響いてくる声。そしてやがて穴の上から……。【当日パンフレットより】


芸劇eyes選出作品。

四方囲み舞台で中央には大きな穴。開演前はコーンとバーで囲まれている(上演前と上演後は撮影可)。

全四幕構成で、最初の三幕は類人、原人、旧人がそれぞれ四隅に現れ、最後の四幕には人長明と猿長明(猿の着ぐるみで開演前からロビーや劇場をうろつく)が登場。

類人、原人、旧人たちは穴に近づいて両手を口の横に当てながら台詞を発し、穴の中の別の時代の生物たちと会話をする。全体的に台詞回しはゆっくりで、感情はほとんど込められていない。

類人、原人、旧人がこんな複雑な言葉を発する訳もないので、当然ながらこれは何かの見立てであろうことは予想がつく。終演後、ロビーにでかでかと貼ってあったあらすじが「A」から「B」に差し替えられていて種明かしがなされる(写真をSNSに投稿するのは控えるよう書かれていたけど、ブログならいいのかな。笑)。
そうした作品の建てつけ自体は悪くはないと思ったものの、役者たちから発せられる言葉が作者が自分にあてて書いているように感じられ、ほとんど印象に残らなかった。

上演時間2時間2分。

艶∞ナイトポリス Vol.3

『見上げたらメンチカツ』

―大衆居酒屋で観る演劇―



2024年5月17日(金)〜5月30日(木)
呑処 食堂ミアゲテゴラン

作・演出:岸本鮎佳
音響協力:古川直幸 宣伝美術:三ツ橋勇二
演出助手:尾形存恆 制作:佐伯凛果
制作協力:猪狩志津、野田ひまわり
企画・製作:艶∞ポリス

出演:

今林久弥(ミアゲテゴラン店長・百武牧男)

アサヌマ理紗(アルバイト店員・那須又玲美)
岸本鮎佳(同・尾俣紙子)
尾形存恆 (若い客・松永麗音)
篠原あさみ(その連れ・曽田民子)
健太くん(厨房係・健太)

STORY
大衆居酒屋ミアゲテゴランの開店を控えた店長の百武(ももたけ)牧男はアルバイト店員の那須又や尾俣とともにシミュレーションを行うが、客役の尾俣が覆面調査員を名乗りだし牧男をあきれさせる。そうこうしているうちに若い男性客がやってくる。その後、親子ほど年の離れた連れの女性が入ってくる。厨房係の健太がいない中、何とか対応する一同だったが、若者が突然、女性に付き合ってほしいと告白する。牧男はその女性の顔を見て、30年前に付き合っていた民子だと気づいて驚く。民子につまらない店と言われた牧男は、那須又や尾俣と改革に取り組む。

カフェ、美容室と上演を重ねてきた艶∞ナイトポリス第3弾。今回の舞台は東急学芸大学駅徒歩45秒に位置する大衆居酒屋で、前作『角刈りのカリスマ』でケータリングに入った縁で今回の上演となったとか。

今回も岸本鮎佳さんの面白さ全開。
冒頭、オープンに向けてのシミュレーションをしている際に覆面調査員という設定を持ち込み、アニメや海外ドラマ吹き替えの声色を披露。演劇や映画においては、登場人物のバックグラウンドが垣間見える方がよしとされているように思うが(履歴書とかを作る作家もいるし)、この尾俣という人物についてはそうしたものが一切なく、ただこの作品の1時間のために存在しているような感じさえしてしまうのが素晴らしい。

アサヌマ理紗さん扮する那須又とのコンビネーションも抜群で、2人に翻弄される店長・百武も悲哀が感じられてよかった。

3000円台で演劇を楽しんでもらいたいという岸本さんの心意気を引き続き応援していきたい。


上演時間61分。

メンチカツ、美味しゅうございました。ちなみに健太くんは本当の従業員。

江戸糸あやつり人形 結城座

『変身』


2024年5月29日(水)〜6月2日(日)

ザ・スズナリ


原作:フランツ・カフカ

脚本・演出:シライケイタ

人形美術・宣伝作画:谷原菜摘子

舞台美術:松村あや

照明プラン:奥田賢太(colore)

照明オペ:南方悠里

音響プラン:佐久間修一(POCO)

音響オペ:平井隆史

舞台監督:青木規雄(箱馬研究所)

演出助手:島田香澄

人形・衣裳・小道具:結城座人形遣い

人形頭製作:籾倉梢恵 人形衣裳製作:田中友紀

宣伝美術:小田善久 舞台写真:石橋俊治

記録映像:コラボニクス
制作:前田玲衣、結城有子


出演:

結城孫三郎(グレゴール・ザムザ)

両川船遊(父)

結城育子(母)

湯本アキ(妹グレーテ)

大浦恵実(家政婦/アンナ)

小貫泰明(部長)

中村つぐみ(間借り人)


STORY

グレゴール・ザムザはある朝目覚めると、虫になっていた。おぞましい姿に母親は悲鳴を上げ、父親はザムザを部屋へ追い立てる。ある日、父親の留守中にグレゴールが母親と鉢合わせ、グレゴールの姿を見た母親は気を失ってしまう。帰宅した父親はそれを聞くとグレゴールにリンゴを投げつける。さらにザムザ家の間借人がグレゴールと鉢合わせ、大混乱が生まれるに至り、かろうじて保たれていたバランスは崩壊し、一家は「排斥」へと傾斜していく。そして、ついに家族はグレゴールの死に直面する。グレゴールが死んだその日、父、母、グレーテの三人は郊外にピクニックに出かけ、未来への希望に溢れた新生活について語り合う。彼らの足下には、虐げられた弱者が美しい布に覆われて横たわっているが、誰一人として、自分たちの幸福が誰かの犠牲の上に成り立っていることを顧みることはなかった…。【公式サイトより】


2022年初演作の再演だが、演出は大幅に変更しているとのこと(初演未見)。


客席は対面式で、従来の客席から見て右手にグレゴールのベッド、机と椅子、左手にダイニングテーブルなど。部屋の間に壁やドアはなし。


『変身』を翻案した作品は色々と観てきたが、あやつり人形だからこそ出来る表現の数々が実に興味深かった(逆にリンゴを投げつけたり、机を運んだりという人形には難しい表現を人間がやってしまうのも面白い)。

グレーテなんかはもう少し優しい妹というイメージもあったけど、結構冷徹。ま、あんな姿を見てしまってはねぇ。

最後に花などが描かれたカラフルな布が広げられ、グレゴールのベッドも覆われる。その上で繰り広げられるザムザ一家のピクニックのなんと醜悪なことよ……(ちょっと公式のあらすじは説明し過ぎよね)。

客席には外国人の姿もあったのだけど、プロジェクションマッピングなんかよりこういう作品に英語字幕をつけることに税金を使う方がよっぽど有益だと思うのだけどねぇ。


結城孫三郎さんが3年前の襲名披露公演『十一夜』の頃に比べて落ち着きが感じられ、座長としての風格が出てきた(偉そうにすみませんね)。


上演時間1時間22分。




『からかい上手の高木さん』

第3話「100%片想い」



2024年日本ドラマ 22分

監督:今泉力哉

原作:山本崇一朗『からかい上手の高木さん』(小学館「ゲッサン少年サンデーコミックス」刊) 

脚本:金沢知樹、萩森淳、今泉力哉

音楽:大間々昂

主題歌:「遥か」Aimer(SACRA MUSIC/Sony Music Labels Inc.)

撮影監督:岩永洋 照明:加藤大輝

録音:島津未来介 美術:禪洲幸久

装飾:うてなまさたか 小道具:新本由理

衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:吉村英里

編集:斉藤和彦 助監督:中里洋一

制作担当:坪内一 記録:河野ひでみ

リレコーディングミキサー:浜田洋輔、劉逸筠

音響効果:勝亦さくら カラリスト:高田淳

オンラインエディター:齋藤真子

テクニカルディレクター:保木明元

タイトルデザイン:Iyo Yamaura

スチール:田口沙織

配信プロデューサー:近藤貴明、杉山香織

プロデューサー:大澤祐樹、森川真行


出演:

月島琉衣(高木さん)

黒川想矢(西片)

江口洋介(田辺先生)

森永怜杏(真野)

川尻拓弥(中井)

早瀬憩(北条)

永原諒人(浜口)

市村優汰(高尾)

水野哲志(木村)

芹沢凜(日々野ミナ)

桔河芽りさ(天川ユカリ)

吉沢凛音(月本サナエ)

山城琉飛、松島歩志、岩崎瑛太郎、鵜飼琉生、川﨑王羅、黒岩和真、近藤玲音、中田千尋、教野羚奈、三枝鼓実、寺島咲優、林千世、港笑瑠、山口真咲


STORY

図書委員の高木さんと西片は、毎週木曜日の昼休みに図書室の受付係をすることに。すると、高木さんからお互いに選んだ本を交換して読もうと提案される。お互いが選んだ本を読み始めるも、高木さんのその姿に思わず見惚れてしまう西片。さらに突然、高木さんが「好きだよ」と言い出し…!? ある日、西片は少女漫画『100%片想い』の新刊を買いに本屋に来ていた。漫画を片手にアニメのオープニングソングを口ずさみながら歩いていると、目の前に高木さんが現れ大慌て!!高木さんの提案で、2人はイヤホンを分け合って曲を聴くのだが、西片は高木さんとの距離の近さにドキドキしてしまい…!?【公式サイトより】


実写ドラマ第3話。


サブタイトルの「100%片想い」は高木さんの心情なのだろうな。西片は高木さんのことが気になっていながら、それが恋というものだとは気づいていない。毎日、高木さんにからかわれた数×5回、腕立て伏せをするのも恋だと思っていないからこそだろう。

この辺りは中学生男子の幼さがよく出ているが、恐竜の図鑑を読んでいるときやアニメ『100%片想い』を見ているときの表情はまさに少年、というより子供。

高木さんはそんな西片のことがよく分かっているから、からかうしかない。本当は告白して付き合えればいいのだろうけど、そんなことをしたら西片はパニック状態に陥ってしまうかもしれない。そう思うと、ちょっと切ないよね。

いやしかし、女の子とイヤホンを分かち合って一緒の曲を聴くなんてのは憧れのシチュエーションですなぁ。



 

もちもち その6

『何なんずっとこの風』



2024年5月25日(土)・26日(日)
イズモギャラリー

作・演出:上牧晏奈

演出助手・当日運営:矢島選手権

音響照明操作:信國ひろみ(バケツまみれ)

フライヤー撮影:藤田恭輔

制作:もちもち


演目:

①おしごと(たまに雑談)

出演:

上牧晏奈(会社員・アンナさん)

冨岡英香(会社員・ハナコさん)


STORY

2人の会社員がお仕事をしたり、雑談をしたりします。ぐる、ぐる、おし、ごと、ぐる、ぐる、おし、ごと😵‍💫労働と労働の間に吹く風、それが雑談、ぴゅっぴゅーん🍃


②はじまるよ

上牧晏奈(5年目の保育士・カエデ(25))

冨岡英香(1年目の保育士・アサコ(21))


STORY

♫はじまるよっ、はじまるよっ、はじまるよったら、はじまるよっ、いーちといーちで、にんじゃさん、どろんっ♫ 退職する保育士と、それを見送る保育士のお話。


③なんとなく優先席

冨岡英香(電車の乗客・東野さん)

上牧晏奈(電車の乗客・中西さん)

矢島選手権(車掌・声の出演)


STORY

あるところに"なんとなく優先席"という席のある電車がありました。そのときの車掌の気分で、なんとなく優先して座ってほしい人が決まります。さて、今日はどんな人が優先されるのでしょう👤


④一旦

冨岡英香(オトミ)

上牧晏奈(オマキ)


⑤何なんずっとこの風

上牧晏奈(トモ)

冨岡英香(ユウ)


STORY

トモとユウはふたり暮らしをしている。ふたりの住むアパートがある町は、最近なぜか風が止まない。風が止まなくてもトモは仕事に行く。ユウはだいたい家でぐったりしている。ユウはそんな自分が許せない。【もちもちnoteより】

作・演出の上牧晏奈さんと俳優の冨岡英香さんによるユニット、「やわらかくキレる」をテーマにした短篇集。やみ・あがりシアター『フィクショナル香港IBM』を2回観たので、冨岡さんは今月3回目。笑

このユニット自体は初めてだったが、最初から最後までお二人のほんわかした雰囲気に包まれて心地よい時間だった。
「おしごと」での握り拳にした両手を回転させながら「ぐる、ぐる、おし、ごと」と2人でやるところや、「はじまるよ」での「はじまるよったらはじまるよ 1と1で忍者だよ」といった手遊びも楽しい。
「なんとなく優先席」も優しさに満ち溢れているし、「一旦」でコーヒーを淹れたところで休憩タイムになるのも面白い。

その一方で、「おしごと」でハナコさんが働き過ぎで次第に心身のバランスを崩していったり、「はじまるよ」のカエデが5年で保育士を辞めることになったり、世知辛さも感じさせる。
また、「何なんずっとこの風」で吹き続けている風はこの社会において女性たちが直面する向かい風とも受け取れるが、彼女たちもいずれは三輪車にヨットのように帆をつけてかなりの速度で進むおばあさんのように風を利用できるようになるのだろう。や、その前に風が止めよ、という話ではあるのだけど。

上演時間55分。

渋谷コントセンター

『テアトロコント vol.67』

TEATRO CONTE


2024年5月26日(日)
ユーロライブ

1. 無尽蔵
「都市伝説」
映像「収録」
「文明」
映像「食堂」
「定例会見」
映像「教室」
「タオル」
「夏休み」

作・演出:無尽蔵
出演:無尽蔵(野尻、やまぎわ)

2. 劇団アンパサンド
「呪信(じゅしん)」

作・演出:安藤奎
出演:
佐藤真弓[劇団猫のホテル](重病患者タブチ)
安藤輪子(見舞客カナ)
安藤奎(カナの友人、入院患者メグミ)

STORY
入院中のメグミの見舞いに訪れたカナ。スマホに送られてきた動画を見た人が1週間で死ぬ「呪いの動画」の話をしていた矢先、カナに何者から動画が送られてくる。カナはメグミのいたずらと思って動画を見てしまうが、メグミは知らないという。2人がうろたえていると、同じ病室で余命幾ばくもないタブチが動画を送ってくれれば、カナは呪いを解かれ、自分は1週間長く生きられると申し出るのだが……。

3. わらふぢなるお
「スーツ屋さん」
「ケーキ屋さん」
「アイス屋さん」
「歯医者さん」
「そば粉ではなく、うん◯を使っている蕎麦屋さん」
「エンドコント」

作・演出:ふぢわら
出演:わらふぢなるお(ふぢわら、口笛なるお)

渋谷コントセンターによる月例公演。

無尽蔵は東大の落語研究会出身の2人からなるコンビ。劇団ドラハからの移動となったため(上演時間が予定より10分長くなったこともあり)、映像「食堂」の途中から入場。

「定例会見」は岸田首相(やまぎわ)の本音溢れる会見コメントに記者(野尻)が突っ込む。
映像「教室」は『ごくせん』のヤンクミが生徒たちに語りかけるが、健康診断とか家庭科の先生が困っているとか普通の内容というもの。仲間由紀恵さんの画像を使っていたけど、ちゃんと許可取ってるのかな。笑
「タオル」はタオル業界の男(やまぎわ)と販売員(野尻)が織りなすマニアックな会話。「夏休み」は小学生男子2人のゲーム用語てんこ盛りな会話。

5分ほどの休憩の後、劇団アンパサンド。
上手にベッドが立てられ、そこに酸素マスクをつけ点滴を繋げられたタブチが横たわる(実際には立っている)。下手に座って話すメグミとカナ。
『リング』刊行から30年余り、AirDropで呪いの動画が拡散されるというのはいかにも現代的だが、そこに自分に呪いの動画を送ってくれという救いの手が差し出されるのが面白い。これほど完璧なウィンウィンもないと思われたが、カナはそんなことは出来ない、自分が呪いを止めなければと頑なに拒否。すると、タブチが一旦は納得したように見せかけて突然暴れ出し、スマホを奪おうとする。このあたりの緩急のつけ方も見事。
私もAndroidユーザーなのでタブチに呪いの動画をAirDropできないというオチは予想がついたが、そここらの展開はやはり安藤奎さん。次回本公演も何気ないに日常生活に潜む妄想的恐怖を扱っているようで、今から楽しみ。
『虎に翼』では泣き虫な中山先輩を演じる安藤輪子さんは本作では意志の強い、というか頑固な女性を好演。劇団アンパサンド初参加の佐藤真弓さんもハマっていた。

わらふぢなるおは連作コント。
最初はリクルートスーツを買いに来た『コブラ』男(ふぢわら)と店員(なるお)の関係、その2年後にケーキ屋(ふぢわら)と客(なるお)、更に4年後にアイス屋(ふぢわら)と客(なるお)、そのまた5年後に歯医者(ふぢわら)と患者(なるお)という関係が数十年にわたって展開される壮大な大河コント。笑
毎回のようにふぢわらさん扮する滝沢はなるおさん扮する斉藤のことを忘れてしまい、ケーキ屋でやらかした(恋人がいないのに恋人にケーキを買っていくふりをした)ことを話すと思い出し、スーツ屋だったことも思い出す。うん◯ネタはどうかと思ったけど、他はシンプルに楽しめた。

上演時間1時間51分(無尽蔵:38分?、アンパサンド:24分、わらふぢなるお:42分)。

劇団ドラハ 旗揚げ公演

『新宿万年町物語』



2024年5月24日(金)〜26日(日)

新宿スターフィールド


作・演出:松森モヘー(中野坂上デーモンズ/モヘ組)

舞台監督:伊藤美雪香 照明:奥村セイシロウ

音響プラン:大嵜逸生(くによし組)

音響操作:西岡サヤ(ターリーズ/ヨゴト)

宣伝美術:よシまるシん

SNSアイコン・キャラクター制作:星ヒナコ

衣装:SHINPIN、シングウ夏海

写真撮影:星ヒナコ

ダンス楽曲編集:本間本願寺

振付指導:たこ丸 演出助手:たこ丸、三島渓

グッズ製作:はるかさんたもにか

当日運営:貝沼莉瑚、たこ丸、山之内優衣(劇団「治外法権」)、依田光正、星ヒナコ

稽古場代役:山之内優衣(劇団「治外法権」)、貝沼莉瑚

宣伝協力:グータン森山(サンミュージック)

主催・企画制作:鼓星企画

共催:新宿スターフィールド


出演:

おりおん。(痔の詩人・井上)

歌川恵子(少年・豆腐田順平)

三島渓(少年の姉・やつこ)

玉木葉輔(極楽堂プロデューサー・浅草寺オナラ)

靍大河[まぼろしのくに](貧乏な男・帆立村スミス)

高寺雪緒(とおる)

三森麻美[ミモらランド](とおるのパートナー・ひばり/漫画家・三杯酢ねばり)

稲見和人[Wキャスト](お年玉ギャングリーダー)


STORY

新宿の風来坊、詩人・味噌煮川揚げ帆 (みそにかわあげほ)を名乗る井上は、ションベン横丁にて伝説の食い逃げ・白凪(しらなぎ)の姿を目撃する!同時刻、アルタ前では有名司会者が暗殺された!新進気鋭の暗殺集団お年玉ギャングの仕業であると噂される中、少年・豆腐田順平(とうふだじゅんぺい)は予期せず呪物のサングラスを手にしてしまう!それを追う、ハーメルンの屁こき男!彼の正体はいかに!時を同じくして、映画館を愛し古本屋で働く貧乏人・とおるは印のある無印で働くパートナーひばりをよそに、新宿二丁目のタリーズとドトールの間、9と4分の3番店の店員さんに禁断の恋をしてしまう!まさにその時!狂気の肛門医・帆立村スミスの魔の手が井上の痔へと刻々と忍び寄っていた!ヤツの肛門は…もうひとつの新宿へと繋がっている!! 人間なんてただの通り道、口から始まり尻に終える。全ては腸を通って糞になる…! きっとあらすじは全部変わるッ!【「こりっち」より】


昨年上演された名前のない役者達緑Team松森

『No12』のメンバーによって結成された劇団の旗揚げ公演。主宰はおりおん。さん。

はるかさんたもにかさんも出演予定だったが体調不良のため降板。三森麻美さんが代役を務める。


『下谷万年町物語』を想起させるタイトルからして分かる通り、唐十郎さんへのオマージュに溢れた作品。

とは言ってもそこは松森モヘーさん作・演出だけあって、役者陣が一列になってミュージカル『RENT』の「Seasons of Love」を口パクしたり、意味のない演劇について堂々巡りなやりとりを交わしたりしつつ、劇団ドラハなりの演劇を探っていく。

終幕では周囲に紅い幕が張られ、あたかも紅テントの中にいるような感覚に。と思いきや、そこは腸内(だからこのチラシの絵なのね)にも見立てられるというのも面白かった。最後は唐さんと寺山修司さん、奇しくも同じ命日となったお二人も登場(お面でね)。

アングラ+意味のない演劇の組み合わせは成功していたと思うが、今後も松森モヘーさんが作・演出を務めていくんだろうか。


キャストはいずれもよかったが、白いスーツ姿の三島渓さんは藤井由紀さんを彷彿とさせてよかった。本家の劇団員の方々にも観ていただきたかったな(先週、唐さんオマージュな野外劇を上演した優しい劇団の方々は来られていた)。


上演時間1時間45分。


 

ドリルチョコレート

『レッドホットセックスピストルニルヴァーナ』

REDHOTSEXPISTOLNIRVANA


2024年5月23日(木)〜26(日)

ザ・スズナリ


脚本・演出:櫻井智也

舞台監督:金安凌平、西山みのり

照明:久保田つばさ

音響:葵能人(ノアノオモチャバコ)

票券・運営:松本悠(青春事情)

web管理:松下哲


出演:

櫻井智也(おじさん・櫻井)

堀靖明(おじさん・堀)
三澤さき(高校生・三澤さき)
大石とも子[みそじん](櫻井の知人・大石(主婦))
わたなべあきこ[劇26.25団](堀の知人・わたなべ(疲れ))

加茂井彩音(加茂井(奔放))

西野優希[東京マハロ](堀の知人・西野(快方))
徳橋みのり(櫻井の元恋人・みのり(怖い))
若月海里(みのりの友人、三澤の知人・海里(現役))


STORY

櫻井と堀、いい歳をした二人の男がひたすらに、ただひたすらに。恋がしたい、今更ながら恋がしたい、恋に体重を傾けられなくなってきたからこそ、今更ながら恋をしなければならない、しなければならないんだ、しなくてもいいけれど、しなくてもいい事だからしなくてはならないんだ、今更そこまでしたくはないけれど、今だから恋をしなければならない、しなければならないということはないかもしれないけれど、しなければならないような気がする、それより早く横になりたい、だめだ立ち上がれ、恋をしよう、さあ恋をするんだ、奮い立て、奮い立たなきゃ恋ができない、だって膝も腰も痛いんだもん、それでもやっぱり血を燃やせ、俺たちは恋をするんだ。【公演チラシより】


MCR本公演『前髪』から1ヶ月、3年ぶりのドリルチョコレート。


舞台は素舞台。左右の壁際に水の入ったペットボトルが4本ずつ。左右奥にある劇場自体のドアの手前にステップが置かれ、出入口として使用。


冒頭、おじさんの櫻井と堀がキャッチボールをしながら最近恋をしているかという話をする。恋が始まる予感しかしないトーストをくわえて「いっけなーい、遅刻遅刻〜」と走り去る女子高生にぶつかることは最終手段にして、ひとまずお互いに知人の女性を紹介していく。

おっさんが恋の話をして何が面白いんだと思われるかもしれないが、そこは櫻井智也さん、やっぱり面白い。笑。登場する女性たちは役名に(主婦)(疲れ)(奔放)(快方)(怖い)(現役)などと特徴が記されているのだが、いずれも個性的で、とりわけ恋をしていないと言っていた堀が実は告白して振られていた加茂井ちゃんが特にいいキャラクターをしていた。

そんな中、女子高生さきがどうして毎日のようにトーストをくわえて「遅刻遅刻〜」などとやっているのかという理由が明らかになるのだが、この人物設定には唸らされたし、この役を演じた三澤さきさんも凄かった(特に殺気立ったその目つき)。

演劇界的には大きく注目されることはないだろうけど、個人的には今年の年間ベストに確実に入る作品だった。


最後にBiSHの「オーケストラ」に合わせて女性陣が踊るシーンもよかったが、大石とも子さんはベリーダンスの衣裳で後から登場。ひょっとして『セクシー田中さん』オマージュ?


 上演時間1時間26分。


 

劇団YAKAN ピリカラ湯沸かし企画

『天使のいない夜』



2024年5月23日(木)〜26日(日)
北池袋新生館シアター


脚本・演出:藍田航平

照明:袴田優作 音響:銀次
映像:髙橋髙橋たかしたかし
音楽:真城結 舞台美術:荏原汐里
衣装・メイク補佐:服部円
舞台監督:藍田航平


出演:

【天使のいない夜】

染谷桃香(女子高生・彩)

原汐里[劇団YAKAN](天使)

【革命は前夜から鳴る】

笹生翔也(ベーシスト・神崎康太)

松永修弥(観客・朝日哲也)

【君と僕と僕たちのオーディール】

桜庭勇真(佐原晃)

吉田爽香(恋人・山田翠)

夏目光(翠の弟・山田優也)

中村愛利彩[NAIAENTERTAINMENT](翠の姉・山田咲)

伊藤でった(翠の父・山田一徹)

【もういちどだけ、ほしいよ】

橘百花[ニュースター・プロダクション](リエ)

白岩明里[アートプロモーション](アスカ)

宮越虹海[さかさまのあさ](ナユタ)

STORY

少女は1人夜の街を彷徨っていた。辿り着いた先は、ネオン見下ろし、この街が一望できる場所。少女はこの街が嫌いだった。変わらない世界も。変われない自分も。「私と友達になってほしいの」そんな少女の前に現れたのは、1人の天使だった。少女と天使が織りなす4つの物語。【公式サイトより】


表題作を含む4作からなるオムニバス公演。


舞台後ろ半分が一段高くなっており、背景に白い幕。その幕の幅に合わせて床も白。


表題作は自殺をしようとしている女子高生の前に天使が現れ、魂を天国に運ぶべく待ち構えるが、なかなか一歩を踏み出そうとしないところから始まり、その合間に他の3つの作品が挟まれるという構成。前作『ワタシは神様にはなれない』にも天使が登場していたけど、こういう設定がお好きなのね。カトリックだと自殺したら天国どころか地獄行きだけど、まぁそれはそれとして。

「革命は前夜から鳴る」はストリートミュージシャンと客となった男の物語。「君と僕と僕たちのオーディール」は結婚の挨拶に行った男が、恋人の家族から提示された様々なゲームに挑戦して許しを得ていくという話。「もういちどだけ、ほしいよ」は大学時代、小説の同人誌を出していた3人の女性たちの物語。

それぞれテイストの異なった作品で、悪くはないのだが、全体的に演出が好みではなかった。特に不必要に大声を出すあたりなのだけど、大声を出すのもただうるさく聞こえるだけのときと心に響くときと明確に違いがあるのよな。


荏原汐里さんはカラーコンタクト&エクステ、白づくめの衣裳。


上演時間1時間53分。



新国立劇場

『デカローグ』プログラムC

DEKALOG


2024年5月18日(土)〜6月2日(日)
新国立劇場小劇場

原作:クシシュトフ・キェシロフスキ、クシシュトフ・ピェシェヴィチ
翻訳:久山宏一 上演台本:須貝英

演出:小川絵梨子(デカローグ5)、上村聡史(デカローグ6)
美術:針生康  映像:栗山聡之 照明:松本大介 音楽:阿部海太郎 音響:加藤温

衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:長町多寿子(デカローグ5 )、西祐子(デカローグ6)、中嶋彩乃
舞台監督:濵野貴彦、清水浩志

総合舞台監督:齋藤英明

演出部:大平扶紀子、杉田健介、小玉珠成、三上洋介、小野寺栞、伊藤春樹

衣裳部:山中麻耶、天野文子、安河内瞳、山中由佳

ヘアメイク:前田亜耶

映像操作:オングストローム 安里奈保見、小池夏海

音響助手:浅野直斗

ヘアメイク助手:田中順子 、岩田知世

稽古場代役&プロンプ:村上佳、キクチカンキ

制作助手:林弥生、小川真理
制作:永田聖子、中柄毅志、伊澤雅子

プロデューサー:茂木令子、三崎力


デカローグ5「ある殺人に関する物語」
出演:

福崎那由他(ヤツェク)

渋谷謙人(弁護士ピョトル)

寺十吾(タクシー運転手ヴァルデマル/神父)

斉藤直樹(広場にいる老人/試験官/検事)

内田健介(映写係(声のみ)/写真店の店員/刑務所長)

名越志保(映画館の窓口の女/裁判長/医師)

田中亨(係官(声のみ)/喫茶店の店員/看守長)

坂本慶介(若い夫(2話アンジェイ)/酔っ払いの男性/執行官)

亀田佳明(男)


STORY

20歳の青年ヤツェクは、街中で見かけた中年のタクシー運転手ヴァルデマルのタクシーに乗り込み、人気のない野原で運転手の首を絞め、命乞いする彼に馬乗りになり石で撲殺する。殺人により法廷で裁かれることになったヤツェクの弁護を担当したのは、新米弁護士のピョトルだった......。【公式サイトより】


デカローグ6「ある愛に関する物語」
出演:

仙名彩世(マグダ)

田中亨(トメク)

寺十吾(郵便局長)

名越志保(トメクの友人の母親マリア)

斉藤直樹(黒いスーツの男(恋人1)、/革ジャンの男(恋人2)/髭の男(恋人3))

内田健介(売店の店員/ガス会社の保安調査員/郵便配達員(ヴァツェク))

亀田佳明(白いスーツの男/代わりの窓口の局員


STORY

友人の母親と暮らす19歳の孤児トメクは、地元の郵便局に勤めている。彼は向かいに住む30代の魅力的な女性マグダの生活を日々望遠鏡で覗き見ていた。マグダと鉢合わせしたトメクは、彼女に愛を告白するが、自分に何を求めているのかとマグダに問われてもトメクは答えられない。その後デートをした二人、マグダはトメクを部屋に招き入れるが......。【公式サイトより】


プログラムAプログラムBに続いてプログラムC。


舞台はプログラムA、Bに出てきた建物を下手手前から斜めに配し、デカローグ6では上手側にマグダが住む建物が追加される。


デカローグ5は『殺人に関する短いフィルム』、デカローグ6は『愛に関する短いフィルム』の基となったエピソードだが、やはりデカローグ5は殺人が描かれているという点において全体の中においても異質な感じがする。

寺十吾さんは適役ではあるのだけど、最近こういう役ばかり見ているような気もするので久し振りに弥次さんのようなお人よしキャラが見てぇやな。


個人的にはデカローグ6の方が気に入った。

下手の1階部分がトメクとマリアが暮らす部屋、上手の2階部分がマグダの暮らす部屋というところからして、最初から両者の釣り合いが取れていないことが示唆されている。トメクが覗いていることを知って戸惑うマリアがいい味を出していた(このマグダとマリアという命名も意味があるのだろうけど、解釈できるほどの聖書の知識がなく……)。


上演時間2時間20分(「デカローグ5」55分、休憩20分、「デカローグ6」1時間5分)。