新・法水堂

新・法水堂

年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

『希望と不安のはざまで』

Syria, Between Hope and Fear

 

シリア 希望と不安 家族の再会

 

2024年フランス映画 56分

監督:ジャワル・ナディ、ヤエル・グジョン、アポリーヌ・コンヴァン

脚本:セバスティアン・ダゲレサール、マイケル・スタンケ、ナジブ・タジウティ

撮影:ジャワル・ナディ、ヤエル・グジョン、マゼム・ハチェム、ジェイク・ペース・ロウリー、セバスティアン・ダゲレサール

編集:レオ・ドゥブロフ、ラミ・ネダル、ワシム・オスマン、ナディル・カッシム、マテュー・レール、レイナルド・ルルーシュ

音楽:セザム

 

出演:バスマ(歯科医院経営)、ビアジット(トルコからの支援隊員)、アフマド(行方不明者捜索者)、ラザン(専業主婦(30))、タラ(キリスト教徒)、サラ(タラの妹)、ココ(タラの友人)、ジョニー(同)、ヒシャム(イスラム過激派のフランス人)、アブデルハイ(アレッポの経営者)、ジル・ドロンソロ(政治学教授、中東専門家)、レイラ・ヴィニャル(高等師範学校地理学者、シリア専門家)、ワシム・ナスル(過激派に詳しい記者・フランス24)、アニェス・ルヴァロワ(地中海・中東研究調査機関副所長)、アブ・モハンマド・アル・ジャウラニ[アフマド・フサイン・アッ=シャラア](HTS最高指導者、現大統領)、バッシャール・アル=アサド(元大統領)

 

STORY

2024年12月、アサド大統領の打倒を契機に半世紀にわたる独裁政権が崩壊し、シリアは新体制への激動の移行期を迎える。国外に逃れた者の中には帰還を望む者もいれば、新政権の動向に恐怖を抱き、国外脱出を決意する者もいる。本作はこの歴史的な転換期の最初の瞬間を捉え、将来への期待と未知への恐怖に揺れるシリア国民の声を映し出す。大統領宮殿から悪名高いサイドナヤ刑務所まで、旧体制の痕跡と新たな指導者の登場とともに、岐路に立つシリアの現状を独自の視点で描き出したドキュメンタリー。【公式サイトより】


《第20回難民映画祭2025》配信作品。

 

旧臘、アサド政権が崩壊した直後のシリアを捉えたドキュメンタリー作品。

まず登場するのが、14年ぶりに帰国したというバスマ(画像のハグをしている女性)。涙ながらに帰国できた喜びを語る一方で、スンニ派の新政権をテロリスト呼ばわりして出国しようとする人たちもいる。

本作はシャーム解放機構(HTS)の最高指導者アブ・モハンマド・アル・ジャウラニ(現在は本名のアフマド・フサイン・アッ=シャラアとして臨時政府の大統領)がいかにしてアサド政権打倒を果たしたかを解説しつつ、タイトル通り、希望と不安がないまぜになったシリアの実情を描き出す。

もぬけの殻となったアサド元大統領の邸宅にもカメラが入るが、自国民が塗炭の苦しみをなめている一方で自分たちだけ贅沢な暮らしをしていたとは自国民のことなど心底どうでもよかったんだろうということがよく分かるが、亡命先のロシアでも高級マンションに暮らし、オンラインゲームに興じているそうな。なんじゃそら。 



劇団鹿殺し

Shoulderpads 凱旋公演 UK Version

『Galaxy Train(English Japanese Mix)

 

劇団鹿殺し UK版 Galaxy Train ポスター



公演概要

2025年11月30日(日)~12月7日(日)
駅前劇場

STAFF

原作:宮沢賢治
北村想 作『想稿銀河鉄道の夜』からの一部引用あり
脚本:丸尾丸一郎 演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ、伊真吾
振付:伊藤今人、浅野康之
舞台監督:澤井克幸、二宮清隆(黒組)
照明:望月大介(ASG) 音響:百合山真人
衣裳協力:車杏里
ヘアメイク協力:山本絵里子
映像収録:ワタナベカズキ
宣伝美術:藤尾勘太郎
WEB:ブラン・ニュー・トーン(かりぃーぷぁくぷぁく 阿波屋鮎美)
制作:高橋戦車 当日運営:SUI

CAST

菜月チョビ(ジョバンニ)
丸尾丸一郎(カンパネルラ/活版所従業員/ジョバンニの母の声)
島田惇平(ザネリ/ジョバンニの母/牛/銀河鉄道/白鳥/学者/青年/蠍/カンパネルラの飼い犬・ザウエル 他)
橘輝(同級生・マルソ/三味線弾き/牛乳屋/銀河鉄道/シスター/助手/ハリー・ポッター似の男の子 他)
谷山知宏(同級生・カトウ/活版所の所長/踊り手/牛/銀河鉄道/白鳥/助手/車掌/楽団員/カンパネルラの父 他)

浅野康之(先生/活版所従業員/踊り手/ザネリの友人/銀河鉄道/白鳥/助手/女の子/蠍 他)

STORY

父が漁に出て、朝も夜もバイトに明け暮れる少年ジョバンニは、授業にも身が入らず、ザネリら同級生にからかわれる。友人のカンパネルラはそんなジョバンニを思いやるが、ジョバンニはカンパネルラがザネリたちと星祭りに出かけると聞いてショックを受ける。配達されていない牛乳を受け取りに行くついでに星祭りを見に行こうとするジョバンニだったが、ザネリたちにからかいを受け、孤独を抱えながら丘に向かい、銀河鉄道に乗り込む。そこにはザネリたちと一緒にいたはずのカンパネルラの姿もあった。

概評

劇団鹿殺し凱旋公演、Japanese Version『銀河鉄道の夜』に続いてUK Version。


エディンバラで上演されたバージョンだが、English Japanese Mixとなっている通り、台詞は英語と日本語をちゃんぽんにした感じ(語尾に「〜だよ」などがついたり、「だから」といった接続詞が挟まれたりする)。あらすじも配布されるのでまっっったく英語ができなくても問題なく楽しめる。

むしろカンパネルラがジョバンニに素粒子の話(particles are free)をするくだりはなぜかJapanese Versionより心に響いた。

ちなみにJapanese Versionでは銀河鉄道の車体が新幹線の配色(演者のスカーフで表現)となっていたのが本作ではスコットレールとユーロスターになっていた。それぞれしょっちゅう遅れる、高すぎると形容されていて、このあたりも現地ではウケたのだろうな。


キャストはJapanese Versionの後藤さん&佐久本さんのパートを主に担っていた谷山知宏さんは表情や声も個性的で目立っていた。

歌ももちろん英語歌詞になっていたが、菜月チョビさんの歌声の美しさはまったく変わるところがない。CDか配信かで販売してくれないかなぁ。


上演時間52分。







劇団鹿殺し Shoulderpads SP Japanese Version

銀河鉄道の夜(Japanese Only)

 

劇団鹿殺し Shoulderpads 凱旋公演



公演概要

2025年11月30日(日)~12月7日(日)
駅前劇場

STAFF

原作:宮沢賢治
北村想 作『想稿銀河鉄道の夜』からの一部引用あり
脚本:丸尾丸一郎 演出:菜月チョビ
音楽:タテタカコ、伊真吾
振付:伊藤今人、浅野康之
舞台監督:澤井克幸、二宮清隆(黒組)
照明:望月大介(ASG) 音響:百合山真人
衣裳協力:車杏里
ヘアメイク協力:山本絵里子
映像収録:ワタナベカズキ
宣伝美術:藤尾勘太郎
WEB:ブラン・ニュー・トーン(かりぃーぷぁくぷぁく 阿波屋鮎美)
制作:高橋戦車 当日運営:SUI

CAST

菜月チョビ(ジョバンニ)
丸尾丸一郎(カンパネルラ/活版所の店主/ジョバンニの母の声 他)
島田惇平(ザネリ/ジョバンニの母/牛 他)
橘輝(同級生・マルソ 他)
後藤恭路(同級生・カトウ 他)
浅野康之(先生 他)
佐久本歩夢(銀河鉄道 他)

STORY

父が漁に出て、朝も夜もバイトに明け暮れる少年ジョバンニは、授業にも身が入らず、ザネリら同級生にからかわれる。友人のカンパネルラはそんなジョバンニを思いやるが、ジョバンニはカンパネルラがザネリたちと星祭りの夜に出かけると聞いてショックを受ける。配達されていない牛乳を受け取りに行くついでに星祭りを見に行こうとするジョバンニだったが、ザネリたちにからかいを受け、孤独を抱えながら丘に向かい、銀河鉄道に乗り込む。そこにはザネリたちと一緒にいたはずのカンパネルラの姿もあった。

概評

2020年に初演、2023年に再演され、今年の夏に上演されたエディンバラ・フリンジ・フェスティバルでも好評を博した作品の凱旋公演。まずは日本語バージョンにて。


開演時間になると拍子木が打ち鳴らされ(歌舞伎をイメージ?)、菜月チョビさんの前説。駅前劇場は東京に進出してきてからも、貧乏で劇場が借りられなかった鹿殺しが初めて下北沢で公演を行った劇場とのこと。そんな劇団が初の海外公演を経て凱旋公演を行う、わたしゃもうこの時点で目が潤み始めていた。笑

今回はエディンバラスタイルとのことで、好きな時に声を出したり、拍手したりしてもいい、キッズウェルカムを謳っているので、まずは大人が楽しんでほしいという話があり、ショルダーパッズの面々が登場した際の拍手・掛け声の練習。

かくして始まったオープニング、これまた菜月チョビさんの歌声と相まって何度見ても泣いてしまう。ふとなぜ私は裸の男たちを見て泣いているのだろうと思わないではないけど、泣けるものは泣けるのだから仕方がない。

きっとこれ、エディンバラでも盛り上がっただろうなぁと思うのだけど、とにかく明るい安村さんと言い、ショルダーパッズと言い、日本人は裸になるのが好きなのかと妙な誤解を与えていないだろうか。笑

これまでの上演時間で一番人数が少なく、一番上演時間が短いバージョンだったが、海外の人も見て楽しめるようにという配慮からか、動きで笑えるところはむしろ増えていて大いに楽しめた。


上演時間54分。







『ラジオ・ダダーブ』

Radio Dadaab


Radio Dadaab 映画ポスター:難民キャンプの女性と電波塔

2023年イギリス映画 26分

監督:エンバイロメンタル・ジャスティス・ファンデーション

フィクサー:ダウド・ユスフ

ドローン操作:マグダヴィス・ムワンギ

音楽:ルーシー・トリーチャー

ボーカル・パフォーマンス:イクラン・ジャマ・モハムド

音響デザイン:イネス・アドリアナ

カラリスト:ジョニー・タリー・アット・チート

キーアートデザイナー:ダン・アンスコム

翻訳:モハメド・ヒドフ


出演:ファルドウサ・セラット(ラジオ・ガルガールのジャーナリスト)、モハメド・アブドゥライ・ジマーレ(ラジオ・ガルガール責任者)、シアド・アリ・コルドウ(ダダーブ難民キャンプ居住者)、ファヒア・アドゥブライ・モハメド(気候変動による難民)、ダヒール・アリ・ブーア(同)、アブドゥラ・ハッサン(国境なき医師団ヘルスプロモーター)、アブディ・モハメド・アデン(農業従事者、愛称ピリピリ)、ダヴィッド・マルバ(UNHCRダダーブ首席保護官)


STORY

ファルドウサは生まれも育ちもケニアのダダーブ難民キャンプ。国籍もパスポートも持たないが、難民自身が運営するラジオ局のジャーナリストとして、人々の声を世界に届けている。内戦から逃れてきた旧来の住民に加え、気候変動による飢餓や干ばつから新たな難民が流入するいま、彼女は取材をしながら、その現実と変わりゆく暮らしを記録する。本作は、声を持たない人々の「声」となる彼女の姿を通して、気候変動の最前線を生きる人々の苦しみと国際社会への問いかけを描きだす。【公式サイトより】


《第20回難民映画祭》配信作品。

YouTubeでも日本語字幕なしで公開中。


タイトルのダダーブは、20万人以上の難民が暮らすキャンプがあるケニアの町。主人公のファルドウサは25歳の女性で、両親はソマリアの内戦から逃れてきたが、ダダーブで生まれた彼女にはソマリアの国籍もケニアの国籍もない。

そんな彼女はラジオ・ガルガールのジャーナリストとして、飢餓や干ばつの原因となる気候変動について伝えている。ソマリアでは2022年に干ばつが原因で43000人が死亡したとのことだが、難民となってダダーブに来たところで食糧が不足していることには変わりがない。

ソマリアやケニアの人々がなぜ富める国のツケを払わされなければならないのか。せめて先進国はそうした窮状を救うべく動くべきではないのか。ラジオを通して伝えられる難民の生の声を聴きながら忸怩たる思いにとらわれるけど、世界で2番目に多く二酸化炭素を排出している国の大統領が温暖化はフェイクだとわめいているぐらいなのでいかんともしがたいよな……。



ひなたごっこ

『いち』


ひなたごっこ『いち』公演ポスター

公演概要

2025年11月28日(金)〜30日(日)

FOYER ekoda

STAFF

作・演出:藤田澪

ドラマトゥルク:富田晴紀

音響:関本真菜

照明:齋藤咲季(Astar)、蒔苗亜耶(もっと手ごね宇宙)

美術:田副日向 舞台監督:西田夏樹(Astar)

宣伝美術:向井寧音

CAST

山本愛友(アユ)

藤田澪(ミオ)

STORY

日本大学藝術学部で出会ったアユとミオはひなたごっこというユニットを組む親友同士。とある日、出トチリをしたミオは突然、妊娠したと告げる。しかし、その相手には心当たりがないと言うのだが……。


概評

8月に予定されていた公演の延期公演。


舞台中央にセンターマイク(あみぐるみ風)。天井からは寿司やグラス、ヘッドフォンなどの小道具がぶら下げられている。


開演と同時に『M-1グランプリ』の出囃子(Fatboy Slimの"Because We Can")が流れ、階段からアユが降りてきてマイクの前に立つ。ところが相方のミオがいない。どこにいるかと思ったら、道路を挟んで向かいにあるセブンイレブンから出てくる。焦るアユのことなど気にかけるでもなく再び店内に入っていくミオ。電話をしても切られてしまい、慌てふためくアユに対し、のんびりやってきて「本番だったかー」とマイペースのミオ。

と、このオープニングだけでも心を摑まれる。

その後の1時間はアユとミオがここ江古田で過ごしてきた4年間がぎゅぎゅぎゅっと凝縮され、2人が自然体で笑って話している姿を見ているだけでこの4年間がいかに充実したものだったかが伝わってきた。

そんな2人の姿を見ながら、自分の学生時代を思い出し、必然的に先月急逝した先輩のことも思い出され、これから2人も何十年と友情を築いていくのだろうなぁと思うと、涙なくしては見ることができなかった。

ちなみに最前列には山本さんのお母様がいらっしゃって(受付で名乗っておられた)、アユの結婚式のシーンでミオが友人代表のスピーチをするシーンで拍手をされていた。これもまたいつか現実のものとなるのかな。


なお、ひなたごっこは本作をもってしばらくお休みするとのこと。2人がそれぞれの場で活躍を続け、再び公演を打ってくれることを心待ちにしたい。


上演時間1時間。

劇団桟敷童子

『一九一四大非常』

いちきゅういちよんだいひじょう

劇団桟敷童子『一九一四大非常』公演


公演概要

2025年11月25日(火)〜12月7日(日)

すみだパークシアター倉

STAFF

作:サジキドウジ 演出:東憲司

美術:塵芥

照明:Jimmy((同)じみぃさん)

照明操作:北澤由佳((株)フリーウェイ)

作曲:川崎貴人 チラシ画:梶村ともみ

チラシデザイン:山田武 舞台監督:稲葉能敬

CAST

【方城炭鉱会社】

中野英樹(炭鉱主任・吉村)

原田大輔[演劇集団円](会社職員・柴)

吉田知生(会社職員・五十嵐柴)

前澤亮(会社職員・田所)

原口健太郎(現場坑長・小野寺)

【炭鉱労働者・一番方】

長嶺安奈[椿組](妊婦・ハル)

稲葉能敬(ハルの夫・金太郎)

瀬戸純哉[劇団離風霊船](鶴八)

もりちえ(鶴八の内縁の妻・カツノ)

柴田林太郎(彦兵衛)

川原洋子(彦兵衛の妻・キワ)

井上莉沙(彦兵衛の姪・オミツ)

【炭鉱労働者・二番方】

大手忍(ハルの妹・ソラ)

藤澤壮嗣(ソラの許婚・タスケ)

加村啓(新太)

増田薫(登喜恵)

【村人】

山本あさみ(三人の息子の母親・高松)

鈴木めぐみ(元炭鉱労働者・ツネ)

【尋常小学校】

三村晃弘(校長・藤崎)

板垣桃子(教員、梁瀬農園の娘・梁瀬アサゑ)

【炭鉱労働者・村人・会社職員・子供たち】

全役者陣

STORY

1914年12月15日午前9時40分、福岡県の方城炭鉱で大規模な爆発事故(大非常)が起きる。炭鉱の中には一番方の妊婦・ハルと夫の金太郎、鶴八と内縁の妻・カツノ、彦兵衛と妻のキワと初めて炭鉱に入る姪のミツノらがいた。二番方でもあるハルの妹・ソラは炭鉱会社に救助を要請。坑長の小野寺は対策本部を設置し、東京本社からの支持に翻弄されながらも坑内の火災の鎮火にあたり、決死隊を募って救助を試みる。ガスマスクは数が限られていたため、先発隊を率いる主任の吉村たちはガスを中和すると信じられていた夏みかんを口に含んで坑内へと降りていく。


概評

1914年12月15日に発生した日本最大の炭鉱爆発事故「方城大非常」を描く劇団桟敷童子新作公演。


握りこぶしを突き上げたチラシのイラスト。タイトルの「非常」は筑豊地方で使われていた炭鉱事故を意味する言葉で、その意味を知らずとも並々ならぬ気迫を感じる。

もうこれだけで期待する他なかったけど、その期待を遥かに上回る素晴らしい作品で、2時間弱、まったく途切れることなく作品世界に没頭させてくれる脚本、演出、舞台美術、俳優陣、音楽(ベートーヴェンの「交響曲第7番第2楽章」が印象的)、すべてが一級品。特に台詞がキレッキレで、「我々は骨の上を歩いている」などキラーフレーズが満載だった。


1914年(大正3年)と言うと世界大戦が勃発した年。その恩恵に預かって日本は経済発展を遂げたわけだけど、その礎となったのが石炭。

たまたま、9月に国際芸術祭「あいち2025」で見た山本作兵衛さんの作品はまさにこの時代の炭鉱で働く人々を力強いタッチで描いていて、本作を観る上での補助線となったが、当時は女性も上半身裸で働いていたし、本作のハルのように妊婦もいたとのこと。

そんな炭鉱を襲った最悪の事故。公式な記録では死者は671人となっているが、実際には1000人を超えているという説もある。本作では東京の本社(作品中、名前は出てこないが三菱)が炭鉱の営業を再開できるよう1000人以下にすべしという通達をしたためとしているが、さもありそうなことではある。

とにもかくにも、見ていてこれほど腸が煮えくり返る思いがした作品は初めて。炭鉱労働者の命を蔑ろにし、事故の原因調査もろくにせず、とにかく営業再開のことしか考えていない会社や国の姿は今の日本にも通じるものがあり、111年前の今まで知る由もなかった炭鉱事故が一挙に自分事のように感じられた。

天皇の勅使を出迎える準備をするくだりも腹立たしい。みぞれの中、子供たちが傘を差しているのを見て最初は校長が失礼だからと傘を閉じさせようとしながらも許可を与えるのだけど、子供たちは自ら傘を閉じる。もうこの天皇に対する絶対的な忠誠心がこの後の2度目の世界大戦での敗戦へと結びついていったのかと思うと居た堪れないものがあった。出迎えた子供たちに鉛筆1本ずつが下賜されたというのもふざけんな!としか言いようがない。

ちなみに本作には前作『蝉追い』の梁瀬農園の夏みかんが重要な役割を果たすのだけど、尋常小学校教師の梁瀬アサゑは守男(この時8歳ぐらい)の叔母にあたるのかな(あるいは年の離れた姉?)。


キャストは本役以外にも炭鉱労働者になったり、子供たちになったりと大忙し。中では最初はハルと敵対しながらも支え合う関係となっていくカツノ役のもりちえさんと三人の息子が炭鉱で働いている母親を演じた山本あさみさんが印象に残った。


上演時間1時間58分。

盛夏火 山猫軒演劇

『天空のお屋敷』


天空のお屋敷 盛夏火 山猫軒演劇 ポスター

公演概要

2025年11月22日(土)〜30日(日)

旧・山猫軒

STAFF

脚本・演出:金内健樹

脚本補佐・演出補佐:倉里晴、掛橋浩美、関彩葉、鈴木啓佑、三葉虫マーチ
アートワーク:金内健樹、倉里晴

Adobe Illustrator Tech:中村ナツ子
選曲:金内健樹 車両協力:カネタガク

衣装:鈴木啓佑 制作:鈴木啓佑
超監督:金内健樹

CAST

金内健樹(H.N.銀河銀河銀河銀河(本名・凪津間眼月/なぎつままなつき))

鈴木啓佑[コンプソンズ](H.N. 又野風三郎)

関彩葉(H.N.東望伊葉(とうぼういは))
掛橋浩美(H.N.山菜琴芽(やまなことめ))
倉里晴(H.N.珠螺里春(しゅらりはる))
三葉虫マーチ[劇団「地獄中毒」](遅れてきた客・ソフォンとも子)
声の出演:新山志保(銀河銀河銀河銀河を騙った女性)

Menu

前菜 ミリしら銀河鉄道(リーディング演劇)

    台本:H.N.銀河銀河銀河銀河
    出:H.N.東望伊葉、H.N.又野風三郎
小鉢 料理店からの注文が多い

    出:H.N.東望伊葉、H.N.又野風三郎

移動~休憩~クイズ
口休め 山猫軒とは 出:H.N.山菜琴芽
クイズ答え合わせ 出:H.N.山菜琴芽
フロマージュ 稿別・銀河鉄道路線図

    出:H.N.山菜琴芽、H.N.東望伊葉
付け合わせ 雨煮物風煮物

      季節のペンネンネン

      セロとクラムボンのマリネ

      石焼き炭火の袋詰め
メイン 山猫の晩餐
デザート 物販 出:H.N.銀河銀河銀河銀河


現在休業中のレストラン・山猫軒を特別に借りての演劇作品。


受付を済ませて中に入ると、「椅子と外套(コート)を掛けて置いて下さい。ただし靴は履いたままで」などと書かれた紙があちこちに。

言うまでもなくこれは山猫軒が宮沢賢治・作「注文の多い料理店」に出てくる店の名前であることを踏まえてのもの。

山猫軒演劇:コートと帽子を掛けて。靴は履いたまま


Menuと書かれた紙を1枚取って椅子に着席。

厨房をバックにしてまずはH.N.東望伊葉がジョヴァンニ、H.N.又野風三郎がカムパネルラを演じてのリーディング演劇「ミリしら銀河鉄道の夜」。

上演前、椅子を引くと下の映画館に響くと注意があったけど、大声は大丈夫なんだろうかと思いつつ見終わると、出演者の2人が今回の台本を書いたH.N.銀河銀河銀河銀河が今日来ていると呼びかけると、客席から名乗り出る男性が一人(余談ながら金内健樹さん、ちゃんと受付をするところも演じていた)。

なんやかんや話していると、H.N. 珠螺里春が役者の演技は褒めつつも、台本の内容を批判。

続く「料理店からの注文が多い」ではカントリーマアムとりんご酢ジュース(だっけ?)が置かれ、H.N.東望伊葉とH.N.又野風三郎が目を離した隙になら飲み食いしてもいいということで観客もわらわらと(数が足りなくてジュース飲めなかった…)。


ここでH.N.東望伊葉と受付を交替したH.N.山菜琴芽が出てきて、クイズを出題。観客は4階へと移動し、トイレ休憩も兼ねつつ答えを探すことに。

山猫軒 演劇 天空のお屋敷 庭園


旧山猫軒の薄暗い室内と舞台セット

クイズは3つあり、2つ目が終わったところで窓際に向かったH.N.山菜琴芽が、下にH.N.東望伊葉とH.N.又野風三郎の2人がいることに気づく。インカムで連絡を取ると、屋上に人がいるとビルの人に注意されて見に行ったが、誰もいないという知らせ。

そこから物語は消えた人物をめぐる一種のミステリーとなっていく。レストランが営業していると勘違いしてやってきたソフォンとも子(彼女と銀河銀河銀河銀河こと凪津間眼月はときわ座公演『熱病夢見舞い』と同じキャラクター)を交えた面々が山猫軒のあちこちに張り巡らされた謎を解くべく右往左往する様は見ているだけでも一緒に謎解きをしている気分になれ、眼の前に現出する銀河鉄道路線図はうっかり感動するほどだった。

この作品、『銀河鉄道の夜』はミリしらでも楽しめるのかも知れないけど、やはり知っておいた方が楽しめるだろうなぁ(ますむらひろしさん原作のアニメ版への言及も多々あり)。


キャストでは最初は受付にいて、途中から仕切り役となる掛橋浩美さんがよかった。


上演時間1時間31分。

 


『カブール・ビューティー』

Kabul Beauty / Comme tu es belle! Avoir 20 ans en pays taliban


カブール・ビューティー:タリバン下の20歳

2023年フランス映画 52分

監督・撮影:マルゴー・ベン、ソレーヌ・シャヴロン=フィオリティ

撮影:ジョーダン・ブライオン、クレマン・ガルグロー、ジュリアン・グディショー、ジェームズ・ドゥ・コーペンヌ
編集:オクタイ・センギュル、アンヌ=マリー・ル・ソリエック

ナレーション:アン・ボニー

アニメーション:マリー=アストリッド・モンタニエ

音楽:オーディオ・メディア・ネットワーク

出演:ソフィア(美容師・25歳)、ニギナ(美容師・大学生・27歳)、ザキア(美容師)、アレズー(活動家)


STORY

2021年8月15日、アフガニスタンではタリバンが再び政権を握る。ソフィアとニギナは首都カブールにある美容サロンで働く親友同士で、いつか一緒に国を出ることを夢見ていた。徐々に女性に対する締めつけが強くなる中、ニギナが無断欠勤して連絡が取れなくなる彼女は父や兄がタリバンに目をつけられ、否応なく国外に脱出していたのだった。トルコを経由してドイツを目指すニギナを追うようにソフィアも出国してフランスにたどり着く。


《第20回難民映画祭》配信作品。

NHK主催の日本賞にて青少年向け部門最優秀賞を受賞し、NHK BSで放送もされている。


主人公はカブールで美容師として働く2人の女性。2人が働く美容サロンはスタッフも女性ばかりで、基本的に男性は入ってこない。ヒジャブを外し、おしゃれをして、おしゃべりを楽しむ、そこはいわば秘密の花園のようなもの。だが、タリバンが政権を取り戻したことにより、女性たちの自由と権利が奪われていく。

そんな中、ニギナはドイツへ、ソフィアはフランスへと渡り、つかの間の再会も果たすが、彼女たちにとって難民として異国で暮らすことが最適解ではないのは言うまでもない。人間誰しも生まれる国を選ぶことはできないが、彼女たちにとってはどんな状態になろうとも祖国は祖国。それぞれ習ったばかりのドイツ語やフランス語を口にしながらも吐露される止みがたい望郷の念に、彼女たちがいつの日か祖国へ帰れる日が来ることを願わずにはいられない。

それでも2人は出国できただけまだよかったが、離婚して美容サロンで働いていた同僚ザキアのその後も気になるところ(2023年に国内の美容サロンはすべて閉鎖になったとのこと)。



『バーバリアン狂騒曲』

Les Barbares

 

バーバリアン狂騒曲 poster 登場人物

 

2024年フランス映画 102分

脚本・監督:ジュリー・デルピー

脚本:マチュー・ルマニ、ニコラ・スモルカ

プロデューサー:マイケル・ジェンティル

撮影監督:ジョルジュ・ルシャトワ

美術:ケンタン・ミロー

衣裳:アマンディーヌ・クロス

スクリプター:クロエ・ルドルフ

キャスティング:オーレリー・ギシャール

編集:カミーユ・デルブラ

音楽:フィリップ・ジャッコ

 

出演:

ジュリー・デルピー(小学校教師ジョエル・ルスル)

サンドリーヌ・キベルラン(ジョエルの友人、個人商店経営アンヌ・プドゥレック)

ローラン・ラフィット(水道工事業者エルヴェ・リウ) 

ジアド・バクリ(シリア人難民、建築家マルワン・ファイヤド)

ジャン=シャルル・クリシェ(村長セバスチャン・ルジューヌ) 

インディア・ヘア(エルヴェの妻、看護師ジェラルディーヌ・リウ)

マチュー・デミ(アンヌの夫フィリップ・プドゥレック)

ダリア・ナウス(マルワンの妻ルナ・ファイヤド)

リタ・ハイエク(マルワンの妹、医師アルマ・ファイヤド )

ファレス・ヘロウ(マルワンの父、詩人ハッサン・ファイヤド)

ニナール(マルワンの娘ディナ・ファイヤド)

アダム(マルワンの息子ワエル・ファイヤド(12))

エミリー・ガヴォワ=カーン(精肉屋経営者マリリーヌ・ルガル)

マルク・フレーズ(村の保安官ジョニー・ジャヌー)

アルベール・デルピー(有機農業者イヴ・オートゥイユ) 

ブリジット・ルアン(ガレット店オーナー、ジャクリーヌ・ムーラン)

ダニエル・モラン(精肉屋経営者ディディエ・ルガル)、マキシーム・ベルジェロン(息子テオ・ルガル)、フラン・ブリュヌー(ルポルタージュ監督)、ディミトリ・ビルムビリ(難民支援者エリアス)、ワリド・ベン・マブルク(マジド)、ナタエル・シェミネル(テオの友人ベルトラン)、ルイ・べレック(エルヴェの息子グウェンダル・リウ(10))、オスカル・リュイリエ(テオの友人ロマン)、ジョセリン・ル・プロヴォスト(同リュドヴィク)、ジェラール・ナケ(ポガム)、エルヴェ・マイウー(村役場職員1)、ギヨーム・ティエリー(村役場職員2)、ティエリー・バルべ(ルシエン司祭)、リュリク・サレ(レイシスト)、ロリ・フロレンタン=コワント(ギヨーム)

 

STORY

ブルターニュ地方の小さな村パンポンでは、地域住民がウクライナのニュースに心を痛め、ウクライナ難民の家族を村に迎え入れようと準備を進めていた。ところが到着したのはシリアからのファイヤド一家。そこで露呈したのは、古くからの偏見であった。住民たちの心優しさは、本当の思いや偏見とともに試されることに。美しい自然の中、伝統を重んじる村で、難民との交流を通じて浮かび上がる受容と偏見の物語が、ユーモアと温かさをもって描かれる。【公式サイトより】


 《第20回難民映画祭2025》配信作品。


フランスを代表する俳優のジュリー・デルピーさんが脚本・監督を務め、主演も果たしているコメディ映画。実父アルベール・デルピーさんもご出演。

ちなみに『ふぞろいの林檎たち』シリーズでおなじみ中島唱子さんも字幕翻訳チームの一員に名を連ねている。


ウクライナからの難民を受け容れるはずが、シリアからの難民を受け容れることになったパンポン村。ウクライナ人はまだ受け容れやすいが、シリア人は宗教も違うし服装や食べる物も違うし、何を話せばいいんだ?……と困惑が広がる。

そんな経緯をカメラクルーが村長を中心にして追いかけることで手際よく見せ、同時に村民のキャラクターも序盤で示すあたり、非常に巧み。

やってきたのは建築家のマルワンと妻ルナと2人の子供、それからマルワンの父と妹。妹アルマは元々は医者で夫を内戦で失っており、その設定が後で効いてくる。

タイトルのバーバリアンは野蛮人という意味で、彼らを快く思わない連中が家の外壁にした落書きの中でも使われているのだが、ファヤイド一家と相手のことを何も知らずに不躾な言葉を書き殴る人たちとどちらが野蛮かは言うまでもあるまい。

パンポン村の中では村議会議員も務めるエルヴェが最も排他主義的なところがあり、ウクライナ難民でさえ渋々受け容れに同意していたぐらいだから、シリア難民なんてとんでもないという態度で、ちょっとした誤解からマルワンとの間で殴打事件が発生したりもするのだけど、村人同士の人間関係(夫婦の不和、友情の亀裂、不倫)も絡めて上質なコメディが展開される。


最後も希望が感じられる形でめでたしめでたし、と思いきや、1年後、ジョエルがUNHCRの一員として内戦が起きている現地で働いている様子が映し出される。そこからカメラは上空へと向かうのだけど、白いテントの屋根が一面に広がっている光景に慄然とさせられる。

本作の冒頭に「昔むかし、パンポンで……」(英語字幕だとOnce upon a time in Paimpont...)と表示され、章立てもされて昔話風の構成を取っているが、これはまだ昔話ではない。紛れもなく今、世界のあちこちで起きている出来事である。そのことを突きつけてくるラストは忘れがたいものとなった。


 

『あの海を越えて』

L'ULTIMA ISOLA

 

映画『あの海を越えて』ポスター、ランペドゥーサ島

 

2024年イタリア映画 74分

監督:ダヴィデ・ロンマ

撮影監督:エマヌエーレ・パスケ
編集:ヤコポ・レアーレ
プロデューサー:ラファエッロ・サラゴ

音楽:エマニュエル・ジェイコブ "The River of Hope"、リチャード・ファレル"Moon Mother"

 

出演:

ヴィート・フィオリーノ(ガマル号船長)

グラツィア・ミリョジーニ
カルミネ・メンナ
ロサリア・ラチョッピ
マルチェッロ・ニッツァ
コスタンティーノ・バラッタ
シモーネ・ディッポリート

 

STORY

2013年、地中海のランペドゥーサ島沖で起きた海難事故。その船には、生きるために命がけでアフリカ諸国からヨーロッパを目指す大勢の人が乗船していた。偶然現場に居合わせた8人の島民は、小型ボートで47人を救出。生と死のはざまで向き合った人々の記憶と痛みを超えて生まれたものは、「つながり」であった。本作は、あの夜の記憶と彼らを結ぶ永遠の友情、そして「誰かを救う」という行為の意味を問いかけるドキュメンタリー。【公式サイトより】


《第20回難民映画祭2025》上映・配信作品。

2013年10月3日、ランペドゥーサ島沖で起きた海難事故を扱ったドキュメンタリー。

 

 

《WILL2LIVE Cinema 2021》で配信された『さまよえる魂の声』以来、4年ぶりに難民映画祭の字幕翻訳チームにボランティアで参加(余談ながら、映画祭の名前を元に戻して大正解。「WILL2LIVE」じゃ何のこっちゃか伝わらない)。素材として使用した映像はあまり画質がよくなかったので、完成された作品を観て「こんなに美しい風景だったのか!」と改めてびっくり。笑

 

ランペドゥーサ島での海難事故自体、日本では馴染みがないと思うけど、これまた4年前に配信された『カオスの行方』という作品でも扱われていた。『カオスの行方』は難民に焦点を当てていたのに対し、本作はその事故の際に救助に当たった島民たちが事故を回想する形で進んでいく。

当時のニュース映像とかはほとんど使われず島民たちの証言のみで進行していくので、この事故のことを知らないとややイメージしづらいかも知れないが、“ガマルの8人”は「目の前で困っている人がいたら手を差し伸べる」というシンプルなことをしたに過ぎない。だが、そんなシンプルなことですら法律の壁に阻まれ、助かるはずの命が数多く失われてしまったのも事実。そんな時でもお役所仕事しか出来ないのは日本も他の国も同じらしい。

それだけに島民たちと救助された難民たちの結びつきには心を揺さぶられるものがあるし、同じ人間同士、人種の違いを乗り越えて理解し合えるのだというこれまたシンプルな事実に気づかされる。

それともう一つ、難民たちがエリトリアから来たと聞いてその国の情勢について調べたという島民がいたけど、一番の敵は無関心だと思う。その人がどうして難民にならざるを得なかったのか、そうしたことも知らずに、いや知ろうともせずに排斥しようとすることほど愚かしいことはない。そういった意味でこの映画祭の意義は大きいのだけど、本当はこの映画祭をやらずに済むことが一番なのだけどねぇ。 

 

この映画祭のトークセッションで、石原さとみさんも『あの海を越えて』を「是非観ていただきたい」と絶賛されていて嬉しい限り。すぐに行動にも移されていて、元々ファンだったけど、ますます好きになっちまいました。笑


石原さんが最後に『リスト』の後に本作を観るといいと提案されているけど、そちらの動画ももちろんありまっせ。鈴木亮一さん、May J.さん、サヘル・ローズさんなどがご出演。