メンタルヘルス界隈にも「流行り廃り」があり、私が新人のころは境界性パーソナリティー障害、2000年代が新型うつ問題、ほぼ併行して双極スペクトラム概念、2010年ころからは発達障害だろうか。

 

 そして最近は、愛着の問題。

 流行りものは嫌いなのだが、そういうことで勉強しないのは、ただの我儘だった。

 そもそも患者さんの利益にならない。

  

 今の職場で、知的な問題を抱えた方への対応で苦労している。

 まず「知的障害のある人への心理支援」(下山真衣著)を読んだが、私が困っていることにどうも繋がらない。

 次いで本書を読んで、「ああ!」と膝を打った。

 

 

 本書の要諦は<閉じた関係性>と<怒り>である。

 これは既視感がある。

 境界性パーソナリティー障害の理解と対応である。

 

 パーソナリティーの偏りは、ご本人のもつ特性――少し攻撃性が強いなどーーと環境との関係で形成されるという理論が多く、愛着問題の方は養育環境に重きを置くのだが、因果論的な議論にあまり関心はない。

 また、かつての議論に似ていて云々などと筋違いな因縁をつけるつもりも、全くない(そもそも大橋先生は愛着障害という言葉を使うのをやめたという p55)

 

 これまでの境界性パーソナリティー障害支援に関する書物は、格調高い理論か、一見、具体的だが、あくまで一般論なので結局は抽象的な対処法の提示か、治療よりマネージメントとする議論が多かった(と、私が勉強した範囲では思う。もちろん、そうではない議論もあるのかもしれない)

 

 一方、大橋先生は、ご自分の実務経験に根差した地に足ついた考察で、私たちを鼓舞してくださる。

私が耐えられないことは、(実は)患者(にとって)のコミニュケーション手段(と考えて対応する)(p107 もともとビオンの言葉)

 

自らの気持ちをこちらの気持ちとして重ねる現象を向けられたこと(本書では専門用語だが私が勝手に変更)を喜んでほしい。(略)情動の嵐を吹き荒らす個人は、相手に対して安心を感じているからだ(略 攻撃性を向けてくる方は)自分の向ける攻撃性に(こちらが)耐えてくれるのではないか、あるいは耐えてほしいと思う部分があるからこそ向けているのだ(略)やっつけやすい人間を選択しているのではない(p109 子どもを見ていても思うが、確かに、拗ねたり僻んだりは、そういうことができる相手にしかしない)

 

 第3章では、支援者側の課題も平易な言葉を用いて検証なさっている。

 境界性パーソナリティー障害では、支援サイドの構えについては精神分析理論でしか議論されていなかったと思う。

 

 本書では

目の前の子どもをよく見る(p75)

 難解な”理論”でないが、まったく同意。

 

 先だって、「子育ての本に書かれていることとお子さんを比べるのではなくて、まずはお子さんの様子をじっくりとご覧になったらいかがでしょう」とある方に話したばかりだった。

 偉そうに話しておいて、自分のことでもあったということだ。まったく恥ずかしい。

 

 

 タイトルで、自分は児童専門ではないからと本棚に戻してしまうのはもったいない。

 支援者なら一読の価値がある素晴らしい本。

  

 

 

 

大橋良枝「愛着障害児とのつきあい方 特別支援学校教員チームとの実践」 金剛出版、東京、2019