marginalia

東京創元社さまより、円城塔『ムーンシャイン』廣嶋玲子『王たちの戯れ』高島雄哉『ホロニック:ガール』宮西建礼『銀河風帆走』の四冊を献本いただきました。

 

 

作者ひさしぶりの短編集です。デビュー前の新人賞応募落選作なのになぜか年間SF傑作選に収録された作品から始まって、短編集にまとめることを意識して書いた近作まで四編を収録し、その経緯を書いた後書きを付した仕様になっています。小説の書き方の変化と変わらないものが同時に楽しめるようになっていて、なかなか深い味わいのある本です。

 

 

 

異世界ファンタジー三部作の単独短編集です。連作仕立てになっていて、長さがまちまちのシンプルな物語がゆっくり語られています。ロマンスの雰囲気が濃い物語で楽しく読みました。

 

 

 

人気アニメシリーズの今年公開の劇場版『ゼーガペインSTA』のスピンオフ小説です。何気ない学園者の日常場面から始まってとんでもないスケールの物語が展開します。ハードSF作家の本領がいかんなく発揮されていますが、もうちょっと何がどうなっているのか全然わからないとか思いました。でもとにかくエモいのは確かです。

 

 

第四回創元SF短編賞受賞作が収録された待望の第一短編集です。タイトルからして堀晃さんを想起させますが、寡作故にかなりスタイルの違うと言うか、それぞれ別の短編集にまとめた方が良かったのではと思える高校生が科学で地球の危機に立ち向かう3作と遠宇宙を舞台にした壮大なスケールの2作が同居しているのも堀晃さんっぽいです。もっとも内容のみずみずしい青春っぽさはやっぱり非常に現代の若者的で、読んでいるととてもほっこりします(おっさんの感想)。

九月になりました。遅れに遅れている献本報告です。

早川書房さまより、キャサリン・M・ヴァレンテ『デシベル・ジョーンズの銀河オペラ』(小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF)をいただきました。

 

 

銀河と書いて「スペース」と読ませます。宇宙人がやってきていきなり「お前らが知的生物かどうか判定するから、ミュージシャを一人コンテストにだせ、最下位になったら絶滅な」と理不尽なことを言われ、昔はスターだったヨレヨレの中年男が「デシベル・ジョーンズ」というかつてのロックスターの看板を背負って大宇宙をたにするハメに陥るという物語です。とにかく饒舌極まりない騒々しい文体が読みどころで、いろいろ出てくるエイリアンの描写もごくふつうの生活の描写も全然おんなじようなテンションで突っ走っていくので読んでいて目眩がするようでした。ある種の超絶技巧には違いありません。それにしてもエイリアンが人類最高のミュージシャをオノ・ヨーコだと断言するのが一番面白かったです。ゲラゲラ笑いました。いや、オノ・ヨーコは偉大な人ですけれども。

かつてSFは12歳の男の子のもだと言われていましたが、いまや男女問わず中年老年の読者が主流なんじゃないでしょうか。そういう意味では時宜を得た物語でありましょう。

東京創元社から発売中の『紙魚の手帖 vol.18 AUGUST 2024』のSF書評(国内編)を担当しています。

 

 

去年の八月以降に刊行された国内SFからオススメの8作を紹介しています。

  • 『銀河風帆走』宮西健礼(創元日本SF叢書)
  • 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』高野史緒(ハヤカワ文庫SF)
  • 『私は命の縷々々々々々』青島もうじき(星海社FICTIONS)
  • 『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀(光文社)
  • 『はじめてのゾンビ生活』不破有紀(電撃文庫)
  • 『未来経過観測員』田中空(KADOKAWA)
  • 『奏で手のヌフレツン』酉島伝法(河出書房新社)
  • 『ムーンシャイン』円城塔(創元日本SF叢書)
こんな感じです。最近私は長編が読みたい気分が横溢していてそこらへんがいくらか反映したラインナップになっているかもしれません。円城塔さんはいつ連載が単行本にまとまるんでしょうか。藤井太洋さんも、連載も短編集も予告が出てから随分経っているような気がします。まあ、読者は期待して待つだけなのでありますが。
とにかくここに紹介した本はどれも超オススメなのです。
本誌の方は夏恒例のSF特集GENESISです。ほぼアンソロのようなヴォリュームで、新人賞の発表とか連載第一回目とかあります。私はボチボチ読んでいます。新人賞受賞作はどことなく語り口に最近の中国や韓国SFと近い空気感がありますね。同時代性というものでしょうか。